プロローグ
----目が覚めたら現実に引き戻される。
「あぁ、戻ってきたのか」
いつからだろう。世界に色を感じなくなったのは。
夢の中で出来る事が現実になれば良いのに。
淡い期待と薄い希望で今日もイメージする。
「壊れろ」と。 ----
序章・夢物語・
「夢は良い。無限の可能性がある。」
時に怪獣退治をするヒーローに
時に女の子に囲まれるハーレム生活
時に不思議な能力を使う超人に。
幾度となく夢の世界が現実になれば良いと考えた。
だが現実はどうだろうか。
夢から覚めたらその瞬間、そこには悪の軍隊もいなければ特殊な力も宿っていない。
右手を天井に掲げ、今日もイメージする。
炎、雷、水。 属性なんて何でも良い。
魔法は放てるか。
天候は変えられるか。
物を生み出す事は出来るか。
この世界ごとぶっ壊す力が俺にはある。
信じろ。信じろ。疑うな。
放て--------
天井に変化は、無かった。
結果は明白。分かってたさ。
静寂が虚しく響く。
「また不発」
寝よう。この世界に価値はない。
夢の中だけが自分を満たしてくれる。
そう思い今日もまた目を閉じた。
第一章・現実・
「戻ってきた」
掲げた右手を、開いた瞳孔を、研ぎ澄ました感覚を
全てリセットし、ただの一般人になる。
夢と現実は違うのだ。分かっているさ。
毎朝の日課を済ました後、ようやく布団を出る。
ご飯を食べて、歯を磨き、適度にだらけ、家を出る。
この世界はつまらない。
決められた事を決められた通りにこなし
自由とは程遠い生活を産まれた時から強要される。
毎日毎日が同じ事の繰り返しで
無駄な時間をただ漫然と過ごし
やがて何も成さず死に行く事に誰もが納得している。
狂ってやがる。
こんな現実に俺はいたくない。夢の世界で一生を過ごすことが出来ればどれだけ幸せか。
しかしいずれ夢は覚める。
今日も現実世界で生きることが俺の務めなんだろう。
そう言い聞かせてこのつまらない、色の無い世界を歩く。
「つまらない」
俺の口癖は皮肉な事にあまりにも現実的だった。
もっと夢のある事を口に出して居なければいけないのだろうと分かってはいるが、仕方ないだろう。
この世界がそうなのだから。
一日を終え、家に帰り、眠りにつく時間は唯一の幸せと言える。
夢を見てる間は自由なのだ。
つまらない現実から抜け出せるのだから。
誰にも邪魔されたくない。
目を閉じて妄想を膨らませる。
気付くと俺は1人真っ白な世界で立ち尽くしていた。
第二章・影・
----夢を見た。
不思議な夢だった。
光が、音が、心が、感覚という感覚がはっきりとしていた奇妙な夢だった。
そして何より奇妙なのは目が覚めてから活動を始めた今に至るまで記憶が全く薄れないこと。
会話の内容、景色や音までも鮮明に覚えている。
「ここは、夢…なのか?」
初めに感じた疑問は夢か現実か、という事だった。
思考ができる、声を発せられる
見慣れない場所。何だか身体が軽い気がする。
そして夢と呼ぶには不思議なぐらい、あまりにも意識がはっきりしていた。
----動けない。
状況を整理したいがこれでは何も出来ないではないか。
しかし心はそういうものなのだ、と認識していた。
不思議と違和感はなかったのだ。
思考を始め理解に必要な時間は思いの外短く、最短で最適な答えを導き出す。
結論。
恐らくやはりと言うべきか夢の中で間違いはないだろう。
周囲を見渡し。何も無い世界で思考する。
妙な事がいくつかあるのだ。
夢というのは大抵妙なものではあるのだが、明らかに異質、一度見つけたら目を離すなという方が無理であろう、差し迫った問題からまずは解決したい。
「目の前のアレは何だ?」
薄いもやの様なものが掛かっており、影に包まれているそれは、はっきりとは見えない。見えないのだからその影の正体は何なのか分かるはずがないというのが道理だ。
----本来であれば。
それは唐突に俺の目の前に現れた、否、それすらも自然な当たり前の現象であると認識させる程、何の違和感も感じさせず俺の目の前に存在している。一つ分かる事はあれは"人"なのだろう。
いや正確には人の形をした何か、という方が正しい。
まだ何も分かっていないのだが、分かるのだ。
とにかく今は考えるしか出来ない。
会話が出来るか、男か女か、生きているのか。
様々な疑問が脳内を駆け巡る。考えなくてはならない。最善の手を打たなければいけない。
思考を張り巡らせる。
「?」
目が合った気がした。
影の正体も分からず輪郭すら掴めていないのに、そう感じた。
それと同時に感じたのは魅了にも近い、恐怖の様でもある得体の知れない感覚。
何なんだアレは。
動かせない足が震える。
心臓の音が、頭に響く。
脈が裂けるかと思うほど、身体に苦しみがある。
夢、だろう?
何だこの感覚は。
いつもと違う事に危機を、危険を、本能で感じているのだ。考えろ、考えろ---
思考を張り巡らせている最中、それは動いた。
カツ、カツ、と音をたて近付いてくる。
動けない。思考回路はもう停止寸前だ。
目の前のそれに何も出来ないのか。
怖い、逃げたい、夢が覚めてくれない。
だが思考をやめない。状況が理解できるまでは。
俺との距離が残りわずかとなった時、俺はようやく声を発した。
「たす…けて。」
自分でも何故、と思うような発言であった。あれだけ思考をする時間があり、もっと適切な言葉選びがあったであろう。
言葉を発する前に夢を覚ます方法でも考えられたのではないか。
しかし理解していたのだ。
主導権はこちらにない。全てはアレが作り出した現象なのだろうと。
意識も身体の感覚も、こんなにもはっきりとあるのに全く動くことが出来ないのが良い証拠ではないだろうか。
影は不気味に笑いを漏らしながら歩み続ける。
俺はただ立ち尽くし見届けるしかなかった。
俺を通り越し、後ろに周り、耳元で囁くように告げた言葉は俺には到底理解できるものでは無かったが、ハッキリと鮮明に、心にだけは刻み込まれる。
「望むのなら全てを捧げよう。貴様の望みは私の望みだ」
「願えば叶える。想いは成就する。させてみせよう。
貴様は私の全てだ。私を欲して、またここに来るが良い。
-------あぁ懐かしいな全く。」
どこか儚く、切ない声が。此処ではない何処かに話し掛けているのであろう言葉が。今はどうしても理解が出来なかった。------
終章・覚醒・
気付くといつもの天井が見えていた。
戻ってきたと夢から覚めて安堵したのは初めてかもしれない。あの空間に一生閉じ込められるのではないかとも思っていたほど、異質な夢。
今までこんな夢は見たことがなかった。どれだけ無茶苦茶な夢でも大抵は時が流れ、認識が霞んでいるもので、判断が鈍るようなもの、それが夢であろう。
時に激しく
時に面白おかしく
時に切なく
流動的で、自分の意識の入る余地の無いもの。
夢とはそういうものだった筈なのに何だあの夢は。
天井を見上げながら響く心臓の音を聞き心を落ち着かせる。
その異質さ故に、いつもの朝の日課など忘れてしまっていた。
何が原因だったのかは、分からない。
だが一つ正確な事は、この時は突然の出来事に理解が追いついて居なかったということだ。
あの言葉の意味も、これから先起こる出来事についても。
考えてもわからない事はしない。
無駄な事は嫌いなのだ。
俺は思考をやめ何も考えずもう一度寝ることを選んだ。
だから想像できなかった。
これから先夢のような時間をこれから過ごす事になろうとは
だから気付くことができなかった。
自分の身に起きていた変化や
世界が変わり始めていた事になど。
後に俺は思う。
常に望んでいた世界がこんなにも刺激的で過酷なものなんて知らなかった。
騙された。と。
勿論自分自身が願った事だ、騙されてなどいない。
しかし良くも悪くも、つまらない現実は消えてなくなったのだ。
俺にとってはこれが何よりの幸せだった。
だがそう、今はまだ。なにも知らなくて良いのだ。
これはつまらないと見限っていた現実に色をつける様な
俺だけの夢物語なのだから。
初めまして蛇太郎と申します!
まずは初投稿の作品を読んで頂いて心から感謝申し上げます。ありがとうございます!!
小説を書いてみたい気持ちは昔からあったのですが、中々挑戦する勇気が出なくて、今回ようやくの初投稿作品になります。
とある事がきっかけで様々な事にチャレンジをしようと思い始めたのですが、折角なのでとびきり面白いお話を書ける様に頑張ろうと思います!!(^^)
さて、「昨日の夢は今日の現実」プロローグですが、いかがでしたでしょうか?
一応初期構想やらキャラクターやらは大分練ったのですが、ぶっちゃけ自分でもどうなるのか分からない!って感じです。笑
この世界大嫌いボーイ「タケル」君が主人公のお話になるのですが、他にもカッコいい奴や可愛い子も沢山キャラクターを出したいなって思っております。是非ご期待ください。
お察しの通りタケル君は相当な捻くれ者ですので、成長を見守る母の様な気持ちで接してあげてください。笑
あと私は絵が描けない(壊滅的センスw)ので、キャラも沢山出ると思うし、絵描きさんがついてくれるぐらいまで人気作品にしてみたいなってのが今の気持ちですね。、
ではではそんな感じで
「昨日の夢は今日の現実」
スタートします!
週1更新目指して頑張ります!
皆様良い夢を。Zzz