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あの頃の君

作者: 乙葉 葵

初めまして。皆さんそれぞれ状況は違えど毎日お疲れ様です。乙葉 葵です。誰かに寄り添いたい、この感情を誰かに知ってほしい、そんな気持ちで投稿させていただきます。小説を書き始めてまだひと月にも満たない未熟者ですが、皆様から感想やアドバイスをいただけると飛んで喜びます。改めてよろしくお願いいたします。

 夜のブランコに腰掛けていた私は今日人殺しをする。いや、人殺しは少し違う言うなれば自分殺しだ。それは自殺と似た響きだが正確には違う、要は自分の感情を殺して植物人間状態になるという事だ。自分で命を絶つ度胸なんてない無責任な私にぴったりな終わりだ。そしてそれは近年、社会問題にもなっている自殺に次いで事件数が多いそうだ。だがもうそんな心配すらしなくてもいい。今はこんなだが、幼い頃の私は並大抵の子供たちと同じようによく泣き、よく笑う元気な子だったと祖母から聞いた。もうそろそろ桜も満開のシーズンだという頃に私、染野(そめの) (なぎ)は生まれた。この生きにくい水槽に産み落とした張本人は祖母に預けたまま帰ってくる事はなかったらしい。その話を聞いた中学生の私はただただ怒りと悲しみに振り回され、祖父に置いて行かれたばかりだった祖母に強く当たっていた。そんな事したって誰も得なんてしないと分かっていたけど、それ以外に気を紛らわせる方法を知らなかった。今思えばあの頃の私は絵に描いたような14歳だった。世界の全てを知っているかの様な振る舞いをして、だが実際その知った気になった世界というのはあまりにも小さく両手で掬ってできた水たまりくらいのものだった。だが今なら事実上の母がなぜこんな事をしたかも理解できる。それは良くも悪くも大人に近づいていく上で息も詰まりそうなくらいの薄汚い物を多くみてきたからだろう。そして人はあまりに脆くてわがままだ。一体何が私をこんなふうにさせたかは定かではない。祖母との暮らしに不満があったわけでもなければ大きな人間関係のトラブル、映画やドラマで見るような大切な人が亡くなったわけでもない。強いて言うならいつからか息がしづらくなっていた。それは真っ暗なただ落ちていくだけの海のように、そんな自分に嫌気がさしたのだろう。こんな貧相で曖昧な理由で感情を押し殺そうと言うのだ。自分でもあまりに浅はかだとは思う。だがそれはもう私では抱えきれないほどに大きく、重く変わることのない程のものになってしまっていたみたいだ。



〜ある夏の日私は(すい)と出会った。35℃もゆうに超える猛暑日で部活帰りのいつもの海辺でその子を見かけた。透き通るような白い肌に少しの風でどこかに飛んでいってしまいそうな翠は妙に私の心を惹きつけた。自転車から降り、少し休憩するふりをしてその子の後をつけた。こんなに暑い日なのにその子は不思議と汗ひとつかいていなかった。そのあとも後を追い続けクタクタになりながら町はずれの丘の坂道を登っていた。私の背中からはお祭りの賑やかな音と聞くだけでも気だるさを覚える酔っぱらいたちの笑い声がする。向こう側からはこれからそのお祭りに行くのであろう男の子が2人並んでこちらに歩いてきている。その子たちと目が合わないように歩いたせいで翠を見失ってしまった。私は何故自分がここまで必死になって翠を追いかけているのかわからない。ただ追わずにはいれなかった。私は急いで丘を登り切ったがもうそこに翠の姿は見えなかった。遠くでは打ち上げ花火の音と人々の歓声がこだまする。潮の匂いがする風が頬を撫でた。




〜次に翠を見かけたのはあれから5年が経っていた。私はあの頃と変わって流行のファッションに身を包み都会での生活を謳歌していた。来年の春よりこちらで就職し、学生時代とは変わり帰る頻度も少なくなるだろうからとこの水槽に舞い戻って来ていた。5年の月日を経て翠のことなんてすっかり忘れていた。そこまで仲のよくない地元の友達とも社交辞令を済ませ家に帰ろうとした時、少しの火薬の匂いと心地よい潮風が私を呼び止める。私は大事なもの大事な事を忘れていた。今日はもう疲れ切っていて明日の夜には出発しないと行けなかったがそんな事もう関係なかった。慌てていつもの海辺に向かう。遠く海を眺めている翠がぼんやりと浮かび、なぜかほっとする。でも、そこにいた翠は初めて会った日からは想像もつかないくらいアザだらけで弱々しく息をする姿だった。急いで駆け寄るも私の声は届かない。急いで走って来たせいか靴紐が解けている。その紐を結び終わると同時に風が吹く。




 〜これから自分殺しをしようという今私はその翠のことを考えていた。こんな状況で思い出すのは祖母や母、友達ではなく数回会っただけの翠の事だと思うとつくづく親不孝だと思う。でも、最後にあってから10年近く経った今でも私は翠の事を考えない日はなかった。ただもう今更後悔したって遅いか、そう思った私は自分の脊髄に手をかける。するとそれに応えるように風が吹く、そういえば翠と会う時はいつも風が吹いていた、ひょっとしてと周りを見渡すとアザの跡が完璧に直ったわけではないが私の全てを受け入れてくれるような優しい目が私を見つめる。手の力が少し緩まる。私は出会った時から翠の正体を知っていた気がする。翠は存在しないのだ。理想とする自分を翠として映し出し、目標としていた。だけどそれはいつしか自分を苦しめる要因にもなっていた気がする。こんな歳になっても純粋無垢な子か、すると翠は初めて微笑みかけてくれた。もうそろそろ桜も満開のシーズンだという頃、手のひらで掬った水たまりは金魚鉢くらいにはなれただろうか。そしてきっと私にはこの水槽の大きさが合っている。私は脊髄に手をかけ直す。金魚鉢の水面に桜の花びらが浮かぶ…

皆様の貴重なお時間をいただきありがとうございます。

私の作品はいかがでしたでしょうか?少しでも皆様の重荷を私が共に背負うことができていれば幸いです。私自身学生の身であり、文としても不十分なところは多々あったと思いますが、そこも含めて評価していただければと思います。本日はありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の生い立ちや現在が凝縮されて書かれてはいるものの、読者の私が一貫して追いかけるのは、翠の存在でした。私に限らず、人は皆、理想を何度でも生み、実現に失敗することがあるからです。理想とい…
2022/06/18 13:55 退会済み
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