第十六章 目覚めの後悔
「・・・・・」
私は何も言えなかった。私の言いたかった事を、父はもう見抜いていたのだ。それこそ、『私の父』だから。
そう、何故私が他人に対して、一族の秘術である〈ノリト〉を使ったのか、その経緯ですらもお見通しだった。
もし問い詰められたらどうしようと思っていたけど、迷う時間もなかった。
でも、弁解する余地もなさそうだ。何故なら父の考察は、ほぼほぼ当たっているから。
私は何も言えず、ただ黙る事しかできなかった。ただ、ゲンコツを喰らう体制と心構えは用意しておく。
ぶっちゃけ、セーフのような、アウトのような。私の行いは、微妙な所でフワフワと浮く風船みたいだけど、怒られても仕方ないと思えてしまう。
普段から
「山を甘く見てはいけない」「山は恐ろしい場所である事を忘れてはいけない」
と、散々言われているにも関わらず、この為体。シルフォの一族として、村長の娘として失格だ。
「・・・そっ・・・その・・・
ごめんなさ」
「いいんだ」
私が謝ろうとした直後、父が私の頭にポンと手を置いた。驚いた私が父の顔を見ると、父はいかにも「やれやれ」と言わんばかりの表情をしている。
後ろで佇む母も、少しだけ微笑んだ表情をしていた。そう、この表情は、「叱りたいけど叱れない」という感情の現れ。
そこで私は、改めてとんでもない事をしてしまった事を自覚した。
青年を助けた代償として、両親に多大な迷惑をかけた挙句、気を遣わせてしまったのだ。
居た堪れない気持ちになった私は、唇を噛み締めながら、俯く事しかできない。普段から賑やかなこの家が、静かな静寂に包まれていた。
私の胸は、まるで針が何本も刺さった感覚のような、ジクジクとした鈍い痛みに襲われた。それと同時に、彼を救った右手も痛い。
私は、ずっと夢に見ていた『平穏で温かい家庭』を、自らの手で壊そうとしていた。父や母に愛されている事は、毎日ずっと実感していた筈。
そんな両親が、娘の無理を気にかけないわけがない。そして、『愛情』と『責任』が紙一重である事も、私はこの日知ったのだ。
『大切なモノ』を守る事って
こんなに難しくて大変な事だったのね・・・
一度やってしまった事は、もう取り返しがつかない
『善意』であっても
『悪意』であっても
起こしてしまった事態には、必ず『結末』が待っている
それをコンが知るのは、数週間後の事である。




