第二十八章 関りを持つ事がどれだけ大変か
そんな会話から垣間見える、王宮内の複雑な知情と、政権争いの片鱗。
そんなわけの分からない事情に巻き込まれたくないが故、バカラさんがどれほど奔走したのか、バカラさんがどれほど苦しんでいたのか、私はその一部を見てしまった罪悪感で、既に私は苦しくなっていた。
世界が変わっても、人間組織が歪んでいる要因の一つは、やっぱり『欲』なのかもしれない。
そして、位が高ければ高い程、その欲が多種多様になってしまうのも、世界を通して共通している。
私の『平穏に暮らしたい』という欲が、とんでもなく小さく見えてしまう程に。
逆に私の場合、『お金』や『地位』に振り回される人生の方が、よっぽど不幸に見えるけど。
きっとバカラさんにとっても、兵士長という地位は、単なる『おまけ』にしか過ぎないんだろう。
だって彼は、高い位に就く為に頑張っていたわけではない。自分の心に住み着く闇を払拭する為、今日までずっと頑張っていた。
だからこそ、突然王宮内の争いに巻き込まれても、単に面倒臭いだけ。私もそう思う。
ただ、兵士長という立場上、全く関わらない・・・という手段は持てない。彼の下に就いている兵士達も、迷惑を被る可能性があるからだ。
兵士も一応、貴族や王族のあらゆるサポートがあってこそ成り立つ組織。
資金や物資を担っている親方の機嫌を損ねれば、当然彼らの生活がままならなくなる。・・・そこから若干矛盾が生まれている気はするけど。
でも、『建前』とか『表裏の事情』が蔓延る世界は、確かにバカラさんにとっては居心地の悪い世界なのかもしれない。
モンスターとの戦いに、礼儀とか政略なんて必要ないし、彼はメリットデメリット関係なく、人を救えればそれでメリットなのだ。
だが、救う人間を選ぶ側からすれば、バカラさんはちょっと雇いにくいのかもしれない。
バカラさんもバカラさんで、いきなりそんな事情の世界に引き込まれて、たまったもんじゃない。私だったら、速攻ボイコットしてる。
確かに、彼の悩みを唯一忘れられる場として、この里はとても最適なのかもしれない。
現に彼は、自分自身の抱えている悩みを、こうして第三者の私に話す事ができている。
至って当たり前な事かもしれないけど、もし此処が王都だったら、とんでもない厄介事になる可能性だってある。