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悪役令嬢、猫になる  作者: 舞原文花
本編
9/16

9サナリアの行方


 学園内には暗い空気が漂っていた。

 原因はサナリアの欠席。

 誰もが少なからず、後ろめたい気持ちを抱え、俯いて生活していた。

 なんとなく思っていたのだ。

__彼女には助けが必要なのではないか?

__自分たちは彼女に負担を掛け過ぎなのではないか?

__自分は、とんでもない過ちを犯しているのではないか?

 ルイフリッド達の迷惑行為には多くの生徒がまいっていた。

 だから早く対処して欲しくて、彼女に頼った。なかなか解決しない現状に苛立ちが募り、彼女に当たった。結果、彼女は学園に来なくなった。

 最後に見た彼女は凛と背筋を伸ばし、顔を上げ、はっきりと言い放った。

「わたくしは!三大公爵家ケティライトの名に誓い、女神アルテイシア様に顔向けできない行動を取ったことはございません!」

 その美しさに、皆息を呑み感嘆の溜息を吐いた。

 思えば彼女はいつも、ぴんと張り詰めた糸のようだった。言動の一つ一つに気を使い、澄ました顔で何でもやってのけた。その顔に浮かぶ微笑が崩れたところなど、見たこともない。

 十六歳の少女にしては出来すぎだ。まるで、感情のない人形のよう。

 そんな彼女が少しだけ感情を顕にした。自分の無実を、必死に訴えていた。

 それを目の当たりにして、初めて気が付いたのだ。

 彼女は人形ではない、一人の人間なのだ、と。

 途端に押し寄せてくるのは激しい後悔。一人の少女に、自分たちはどれほどの重責を背負わせてきたのだろう。どれほど傷付けてきたのだろう。



 季節が巡り、新入生も入ってきたケニドア学園は、沈んだ空気を纏ったまま新学期を迎えた。



◆◇◆



 エリックは苛立っていた。

 こつこつと、力任せに廊下を蹴る音が辺りに響く。

 この一月、マリアに会えていない。自分の心の奥底に淀んでいた憂いを払ってくれた、あの愛しい少女は今頃どうしているだろうか。

 ルイフリッド殿下からの手紙によれば、サナリア・ケティライトの策略により、二人は自室に閉じ込められているらしい。よりにもよって、マリアに罪を被せるなど、心根が腐りきっている。

 あの悪女には何としても罪を償わせなければ。

 殿下も同じ考えに至ったようで、手紙の続きには「サナリアを探し出し罪を認めさせろ」と書いてあった。当然だ。

 国王陛下も父上達も、サナリアの計略に嵌り、まんまと騙されているらしい。頼れるのは自分達だけだ。全く、あっさりと騙されてしまうなど、宰相失格なのではないか。これは少し強引に宰相の座を奪ったほうが、父上のためかもしれない。

 考えている間に生徒会室に辿り着いた。扉を開けると既に先客がいて、椅子に座って伸びをしている。

「フィリップ、来てたのか」

「ああ。ルイフリッドから手紙が来ててな」

 フィリップは言いながら見覚えのある手紙を振ってみせた。

「何だ、お前の所にも行ってたんだな。それで?」

「あのくそ女を探せっていうんだろ?何だってそんなことになるんだ。さっさとしょっ引いて牢に入れりゃ良かったのに」

 その顔にはありありと失望が浮かんでいた。

「サナリア・ケティライトはそれだけ要注意ということだ」

「ふん、まあいい」

「私の方では探してみたのですが、学園には来ていませんし、部屋から出入りした様子もありません。部屋に閉じこもって、何をしているんだか」

「それなんだが、あの女行方不明らしいぞ」

 さらっと告げられたその発言に目を剥いた。

「行方不明!?何処からの情報ですか?」

「騎士団だ。何週間か前に騎士団が学園に来てただろ?木の上で昼寝してる時に通りかかった騎士が話してたんだよ」

「お前、またそんなことして……まあ、今回はよくやった」

「ふん、お前に感謝される謂れはないな」

 しかし、行方不明…………。

「分からないな。なぜ今、行方を晦ます必要がある?サナリア・ケティライトはマリアと殿下を嵌めて無実と判断されたというのに。本人の意志ではない?我々の同士が他にも居るのだろうか」

 サナリアの悪行は酷いものだった。それに憤慨した同士が、これ以上の被害を出さないためにサナリアを攫ったというのはどうだろう。

「誰にも見つからずに人一人攫ったっていうのか?このケニドア学園で」

 フィリップのもっともな発言にうっと言葉を詰まらせる。

 ケニドア学園は高位貴族も通う国立の学園だ。当然警備の者も騎士団から派遣された一定水準の騎士が常駐している。

 彼らの目を潜って逃げ出すなんて、素人にはできない。

「っ!ということはサナリア・ケティライトはまだ学園内に潜伏しているのでは?」

「あっ、確かに」

 一先ず、学園内をくまなく捜索することに決まった。



「そう言えばあいつ、最近来ねえな」

「そう、ですね。まあ、元から自由気ままな性格ですから」



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