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悪役令嬢、猫になる  作者: 舞原文花
本編
8/16

8憎しみと暴力の向かう先


「くそっ何でこうなった!父上も、公爵連中も何を考えているんだ。マリアが悪事を働く訳がないというのに……!」

 ルイフリッドは自室で一人、ごちていた。

 その顔は焦りに歪んでいた。

「マリア……今頃、どうしているだろうか…………。窮屈な思いをしているんだろうか…………」

 ルイフリッドの思考はマリアの心配から、自室に閉じ込められる原因となったサナリアへの悪態に変わっていった。

「あいつさえ大人しく罪を認めていれば……。そうだ、あいつが罪を認めれば良いんだ!そうと決まれば……」

 ルイフリッドは机に向かい手紙を書き始めた。



◆◇◆



 猫になって、一月が経ちました。

 わたくしはこの一月、自由というものを満喫いたしました。

 お妃教育も、お茶会も、生まれた時からずっとあった人の目も、何もない。することがなくて暇である、なんて、これまで一度も経験したことがありませんでした。

 初めての自由に、少し浮かれていたのかもしれません。

「うにゃあっ!」

「このっ、このっ、このっ!」

 身体に鋭い痛みが繰り返し与えられ、飛びそうになる意識が引き戻されます。

 口からはもう悲鳴も出せず、ひゅーひゅーと呼吸音だけが響きます。

 事の起こりは少し前、マリアさんを見かけたことからでした。



 わたくしはいつものように学園内の散策へ、今日は二号館の裏にある薔薇園に向かいました。

 ケニドア学園の薔薇園は広大で、迷路のようになっています。いくつかある正しい道順で進むと、東屋や池に辿り着きます。休み時間になるとどこの東屋もあっという間に埋まってしまいますので、人の来ない授業中に全部回ってみようと思ったのです。

 こんなこと、猫になっている今の内にしか出来ませんもの。

 ちょっとした冒険の気分で、頭の中で薔薇園の地図を広げ、全ての東屋を回りました。

 そのまま池の畔に向かったのですが、誰もいないはずのそこから声が聞こえてきて足を止めました。

 陰からそっと様子を伺うと、そこにいたのはマリアさんでした。ですが、いつもと様子が違います。

 いつもの明るく溌剌とした様子は鳴りを潜め、暗い感情を宿した瞳で水面を見つめ、ぶつぶつと何か呟いています。

 どうしようか迷っているうちに、彼女から黒い靄のようなものが溢れてきました。これは呪術が使用される時の反応です。

 彼女は誰かに呪術を使おうとしている。それも、恐らく無意識に。

 沢山の魔力を持つ者は、強い感情により魔術を顕現することもあり、今回マリアさんは、強い負の感情を持ったことで誰かを傷つける魔術が顕現しかかっている状態でした。

 このままではいけない!

 そう思ったわたくしは、とにかく気を逸らそうとマリアさんに飛び掛かりました。

「にゃあご!」

「きゃあ、何!?」

 マリアさんの意識を逸らすことに成功し、黒い靄が晴れていきます。

 これで大丈夫。ほっと息を吐いた時。

「白銀の髪に紺色の目…………」

 ぶわっと、先程の比ではない量の靄が溢れ出し、辺りを覆いました。そして……。

「お前がちゃんと役目を果たさないから!代わりにわたしがやったのに、何でこうなるの!?」

 罵声とともに魔術が展開され、薔薇の蔓が絡みついてきました。ぎゅうっときつく縛り上げられ、棘が身体に刺さります。

 堪らず悲鳴を上げました。

「にゃああ!」

「うるさいっ!お前のせいでっ、わたしがっ、酷い目にっ、合ってるのよ!」

 言葉の切れ目切れ目でお腹を蹴り上げられ、身体が軋みます。

 いたい、いたい、いたい、いたい。

 なぜ、こんなことに。

 いたい、いたいよ。

「あんたが変なことするからっ!ちゃんと悪役をしないから!今頃幸せになってたはずなのに!」

 どす、どす、どす。

 小さな身体で受け止めきれない衝撃。

 げほっと口から血が溢れ出した。

「皆から変な目でみられるしっ、王子様たちには会えないしっ!」

 いたいいたいいたいいたい。

 にげなきゃ。

 どこに?

 いたいいたいいたいいたい。

 はやく。

 なにをすれば。

 いたいいたいいたいいたいいたい!

 あまりの痛みに考えが纏まらない。意識が飛びそうになるけど、痛みが邪魔をする。

「お前なんか、死んでしまえ!」

 しぬの?わたくし。

 やだ。こわいよ。

 こわい。

 だれか。

 たすけて。



◆◇◆



「……り……!…………っサナ……!」

 だれかのこえがする。

 わたくしをよんでる。

 からだじゅうがあつくて、つらい。

 つらいことはいっぱいあった。

 だれもきづいてくれなかった。

「大丈夫、直ぐに…………!」

 いっしょうけんめいなこえ。

 ねえ、きづいて。

 わたくし、つらいの。

「目を開けろ!」

 つよくてなきそうなこえ。

 あなたもつらいの?

 そっと重たい瞼を持ち上げた。

 まぶしい。

 人影から雫が落ちてくる。お月さまみたいな瞳が、滲んでる。

「大丈夫だからな!」

 うん、だいじょうぶ。

 わたくしがついててあげる。

 だから、なかないで?

 ねむたい。

 このこについててあげないといけないのに。

「だめだ!」

 ごめんね。

 すこしだけ、おやすみなさい。

 おきたらずっと、

 いっしょに、

 いて

 …………。



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