7報告会
「では、結果を報告せよ」
「はっ」
王城、謁見の間。
そこには、国王ウォルター、と三大公爵、本件の主要人物であるルイフリッドとマリアが揃っていた。
「結果を報告いたします。サナリア・ケティライトがマリア・ライジットに行ったことは口頭注意のみ。内容は姿勢に関するもの、口調に関するもの、仕草に関するもの、マナーに関するもの等、常識の範囲内であり、聞き込みによると、これらに悪意は感じられなかったとのこと」
「何っ!」
「そんな!」
ルイフリッドとマリアが堪らず声を上げた。
結果の報告をしていたライナスはウォルターに目を向ける。
「陛下」
「うむ、続けよ」
「はっ。ルイフリッド殿下とマリア・ライジットの証言による、器物破損、傷害事件については、どれもサナリア・ケティライトは関与していないと判断されました。また、魔術師団の協力により、破損物に残された魔術痕はマリア・ライジットのものと断定。いくつかの案件はマリア・ライジットによる自作自演であると判断されました」
「何ですって!?」
マリアが甲高い悲鳴を上げる。
「そんな訳ないわ!本当にちゃんと捜査したの!?」
「貴様、騎士団を愚弄するかっ!」
「ひうっ」
ライナスによって一喝されたマリアはルイフリッドに縋り付く。しかし、ルイフリッドの顔色も悪い。
マリアを信じたい気持ちもあるが、騎士団によってマリアの自作自演であったと判断されてしまった。自分は何を信じれば良い?
__そうだ、マリアにも理由があったんだ。悪いのはいつもサナリアだった。今回も、サナリアのせいでマリアがこんなことをするしかなかったに違いない。
ルイフリッドの中で納得できる理由を組み立て、それが事実であると決定してしまった。
「父上、これはきっとサナリアの罠です!あの悪女はマリアにこんなことをさせ、追い落とそうとしたのです!」
「……ほう?」
サナリアを『悪女』呼ばわりされたマーティンの足元が凍り始める。
部屋の気温が下がったことにも気付かずに、ルイフリッドは続ける。
「あの悪女がマリアを陥れようと、マリアが悪者になるように仕立て上げたに違いありません!」
「わ、わたし、サナリアさんに脅されてて、それで……」
ルイフリッドが言い始めたことに呆気に取られていたマリアも、内容を理解するやいなやその発言に乗り、脅されていたと話し出す。
「ライナス」
「はっ。先程も言いましたように、マリア・ライジットへの発言は注意のみ。恐喝などはされておりません」
「それはっ。二人っきりの時に……」
「いいえ、サナリア嬢には常に護衛が付いていました。サナリア嬢が誰かと二人きりになったことはありません」
ライナスに全て否定され、マリアはもう睨みつけることしか出来なかった。
ウォルターはエディレクトと目を合わせ、頷いた。
「ふむ、結果は出たようだな。マリア・ライジット、ルイフリッド・シドレイズアニア、両名に沙汰を言い渡す。マリア・ライジットは公爵令嬢を陥れようとした罪、ルイフリッド・シドレイズアニアは王太子でありながら情報をよく精査せずに問題を起こした罪により、二ヶ月の自室謹慎。部屋から一歩も出ることは許さん。よく反省せよ」
最後までマリアとルイフリッドは納得していないようだったが、これで報告会は終了となった。
二人が下り、残った四人で話し合う。
「ウォルター、あれでは甘すぎるだろう。家の娘を貶めたのだぞ」
マーティンが眉間に皺を寄せ、不満を隠そうともせずに言った。
「まあ、そう言うな。あれはまだ子供だ。一度くらいチャンスを与えても良いだろう」
「ん?何だ、その言い方」
ライナスが口調をいつもの調子に戻して言った。
「ルイフリッド殿下は恐らく、このチャンスをふいにするでしょうね」
エディレクトは恐らく、と言いながらも、確信を持っているような言い方だった。
「その時こそ厳しい処罰が待っている、と」
マーティンは目を細め、ライナスは首を傾げる。
「何でそんなことが分かる?」
「報告書を見たでしょう。殿下とエリック、フィリップはマリアに誑し込まれたんですよ」
「一体何をされたのやら。とにかく三人はマリアに執着している。このまま納得はしないだろう」
「ははあ、それで何か問題を起こすって訳か。自分の息子だってのに、容赦ないねえ」
「自分の息子を崖から突き落としたり、森に一人で置いてきたりするような貴方に言われたくはないですね」
「さあ、『協力者』に任せっきりという訳にもいかない。我々も注意を怠らないよう、直ぐに動ける準備をしておこう」
各々返事を返し、この日は解散となった。