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悪役令嬢、猫になる  作者: 舞原文花
本編
6/16

6父親会議


 サナリアが猫になって慌てている頃。

 国王の執務室には重い空気が漂っていた。

「あのバカが……なんてことをやらかしてくれるんだ…………」

 そうぼやくのはこの国の国王、ウォルター・アレク・ジース・シドレイズアニア。輝かしい金髪碧眼が、今だけはくすんで見える。

「全く……後始末をするこちらの身にもなって欲しいですね」

 頭痛を抑えるように眉間を揉みながら零すのは宰相、エディレクト・ロア・ウールフォード。エリックと同じ青い髪に紫の瞳が、疲労からか今は暗く淀んでいる。

「何他人事みたいな顔してんだ?お前の息子も当事者じゃねーか。ま、俺もだけどな!」

 朗らかなようで、その内に確かな憤りを込めて話すのは近衛騎士団長、ライナス・ジェイ・ハーウィール。フィリップと同じ燃えるような赤い髪に、明るいオレンジの瞳の美丈夫だ。

「お前ら……その前に言わなきゃならんことがあるだろうがぁ!」

 怒気も顕にそう怒鳴るのは宮廷医、マーティン・ジェルド・ケティライト。水色の髪に紺碧の瞳を持つ、そう、サナリアの父である。怒りで魔力制御が甘くなり、周りがぱきぱきと音を立てて凍り始めた。

「「「ごめんなさい」」」

 あまりの恐怖に堪らず三人は謝罪する。

「てめえらの愚息のせいで、家の可愛い可愛いリアちゃんがどれだけ辛い思いをしたことか……!ああ、こんなことなら学園なんかに通わせるんじゃなかった」

「い、いやしかし、あれ程の魔力を持ちながら学園に行かない訳にはいかんだろう」

「あ゛?」

「すいません」

 ウォルターは決して間違ったことを言った訳ではなかったが、マーティンのあまりの迫力に気圧された。

「とにかく、今後のことについて話し合いましょう」

「そ、そうだな。まずはサナリア嬢の身辺調査を行う。ライナス、騎士団から数名、派遣してくれ」

 エディレクトが話を軌道に戻し、ウォルターが今後について語る。

「おいウォルター、リアちゃんが嘘を吐いているとでもいうのか」

 漸く話が進むと思われたそこへ、怒気を孕んだ声が横槍を入れた。

「落ち着けよマーティン。お嬢ちゃんは女神アルテイシアに家を掛けて誓ったそうじゃねえか。これを疑うほど腐っちゃいねえよ」

「そうですよ。これはサナリア嬢の名誉を回復させるため。最上級の誓いをしたんですから、どれだけ調べられても問題ない自信があるのでしょう」

「当たり前だ!リアちゃんが悪事を働く訳がない!あの子は天使だぞ!」

 エディレクトとライナスの二人でマーティンを言いくるめ、ウォルターは頭を抱えた。

__この親馬鹿はどうしてくれよう……。

「続けるぞ?サナリア嬢はまず間違いなく無実だ」

 マーティンが当然とばかりに頷く。

「まあ、それはルイフリッドとサナリア嬢に付けた護衛に話を聞けば直ぐに分かるだろう」

「そうだよ、あの二人には護衛が付いていた。なのにウチから派遣するのか?」

「サナリア嬢の宣誓があるから、調査している様子を見せておきたいってことと、もう一つ気になることがあってな」

「気になることと言えばやはり……」

 エディレクトが険しい顔で尋ねる。

「ああ……ルイフリッド、エリック、フィリップの三人のことだ」

「確かに……三人の様子は変わり過ぎだとは思います。原因を突き止めたほうが良いでしょう」

「それから、ルイフリッドとサナリア嬢の婚約は破棄する」

「当然だな」

「あれだけ派手にやりゃあなあ」

「仕方ないでしょう」

 全員の反応を見て、ウォルターは一つ頷いた。

「今決められるのはこんなものか」

「調査報告は二週間後でいいか?」

「ああ、それで頼む。それでは二週間後」



 こうして、この場はお開きとなった。

 しかし、四人は二週間を待たずして再び集まることになる。



「お嬢ちゃんが行方不明だと!?」

「どうしてこうも問題が起きるんだ!」

「リアちゃーん!」

「もう……休ませて…………」



◆◇◆



 猫になってから二週間。

 わたくしはエルバート様と殆どの時間を共にしています。

 朝起きると朝食に鶏肉や魚を頂き、エルバート様に運ばれて彼の研究室へ。そこでは研究に勤しむ彼の膝の上で大半の時間を過ごし、昼食を頂く。暗くなる頃に彼に運ばれて部屋に戻ると、夕食を頂き、お風呂へ。何度脱走を試みても失敗に終わり、一週間も経たずに諦めることにしました。

 今のわたくしは猫、体を洗われるのは仕方のないこと!

 代わり映えのしない毎日の中で変わったことと言えば、お昼の間、学園内を散策することが出来るようになりました。最初の頃は、膝の上から降りることも叶わなかったのですが、部屋の中を歩き回れるようになり、窓の外へ出ても怒られなくなり、少しずつ外に出る時間を伸ばしていきました。

 授業中の学園内は静かで、人気のない中庭等は見ていて新鮮でした。

 因みに、何度か第二図書館にも行ってみましたが、あの黒猫には会えませんでした。今ならあの子の言葉も分かるかもしれないと思ってましたのに。残念です。

 学園内には騎士の方々が連日訪れて、緊張感が漂っていました。恐らく、わたくしのした宣誓についての真偽を確かめるためと、わたくしが行方不明になったため、捜査をされていたのでしょう。それもどうやら終わったようです。

 わたくしのために人員を割いて頂き、申し訳ないですわ……。

 もしかすると、城下町の方も捜索されているかも……わたくしはここにいますのに。

 はぁ……エルバート様は気付いていらっしゃらないようですし、魔術師団の方へ伺った方が良いのかしら。

 でも、エルバート様は猫がお好きなようで、わたくしといる時には表情が緩まれます。

 も、もう少しだけ、一緒にいてもいいでしょうか……?



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