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悪役令嬢、猫になる  作者: 舞原文花
本編
4/16

4猫になって


__あら……?何かしら……?

 サナリアは身体の違和感で目を覚ました。

 寝返りが上手く出来ない。手足も感覚がおかしい。

 寝起きでぼんやりするままなんとか身体を起こし、右手を持ち上げる。

 途端に意識が覚醒した。

「にゃにゃにゃっ!?」

 サナリアの目に飛び込んでいたのは白銀の毛並みが美しい、猫の手だったのだ。

 更に『なななっ!?』と言ったはずなのに、聞こえたのは猫の鳴き声。

 パニック状態でじたばたと藻掻き、布団から這い出すと、全身を確認した。見えたのはしなやかな毛に覆われた手足と長い尻尾。

 サナリアは猫になっていた。

「にゃにゃー!」



◆◇◆



 混乱がある程度落ち着いたわたくしは、鏡台に飛び乗りました。

 そこに映るのは、白銀の毛並みで、紺碧の瞳を持つ猫。

 どうしてこんなことに…………。

 鏡の中で猫の耳と尻尾がしょんぼりと垂れます。

 ……いえ、落ち込んでいる場合ではありません!元に戻る方法を探さなければ!

 ぐいっと背筋をのばします。

 けれど……本当に戻って良いのでしょうか……?

 だって、わたくしは多くの人から嫌われている身。お父様や家族の皆には、今回の件で多大なご迷惑をお掛けしてしまった。

 そんなわたくしが元に戻ったって…………。

 いえ、きっとこれは言い訳ですね。わたくしは戻りたくないのです。あの、怖くて、辛くて、苦しい世界に。

 わたくしがいなくなっても、困る人はいない……。

 ふと、鏡の中で再び耳と尻尾が垂れているのが見えました。

 いけません、気持ちが沈んでいると何事も上手くいかないもの。前向きに、前向きに!

 すうっと深呼吸をして、ぴん、と耳を立てます。

 人の姿に戻ろうと戻るまいと、原因を探る必要はあるでしょう。

 身体に意識を向けると、自分の魔力に何か別の魔力が、覆うように展開していることが分かりました。これは、変装術の一種ではないかと思われます。しかし、人を猫に変えてしまう魔術など聞いたことがありません。これは凄腕の魔術師が行ったのでしょう。一体誰が、何のために?

 それと、魔術が掛けられているため魔力操作が難しくなっていますが、簡単な魔術であれば使えそうです。

 さて、この国で一番、の魔術師に心当たりはありますが……彼が協力してくれるでしょうか。一先ず会いに行ってみましょう。



◆◇◆



 ケニドア学園には三つの建物がロの字型に建てられている。

 生徒が普段授業を受ける一般教室と、特別教室、その他資料室等があるのは一号館。

 二号館と三号館は一号館より一回り小さく、一号館の両端と繋がっている。生徒がクラブ活動をする時に使用される。活動的なのは二号館の方で、三号館は物置になっていたり図書室があったりと、物静かだ。

 一号館と中庭を挟んだ向かいにあるのがホール。入学式や卒業記念のパーティーの際に使用される。



 サナリアは三号館の二階の一番端に来ていた。そこにあるのは彼専用の部屋。一人が好きな彼に学園が貸している、研究のための部屋だ。夢中になると何日も籠もっているとか。

 てくてくと廊下を歩きながら、ここまでの苦労を思い返して溜息を吐いた。

 まず、部屋から出る事にも普段のようにはいかない。ドアノブに手が届かないのだ。いや、ジャンプすれば届かないことはないのだが、それでは扉を引くことができない。

 結局、窓を開ける事に成功したため、そこから外に出ることにした。しかしサナリアの部屋は三階。飛び降りるには怖すぎる。そこで、風の魔法を使い落下の速度を落とし、二階のベランダ、一階のベランダを経由して、無事に地面に着地することが出来た。

 そのままここに来た訳だが、猫の感覚は鋭く、少しの物音にもびくびくしていたため、かなり時間が掛かった。猫の身体になれるのはまだまだ先のようだ。

 さて、扉の前にたどり着いたサナリアは、どうしたものかと座り込んだ。

 目の前にはそびえ立つ大きな扉。

__開けられない…………!

 誰か呼んできて開けてもらうか、本人が開けるのを待つか。そもそも彼は今日ここに居るのだろうか。

 今日は昨晩、卒業パーティーが遅くまで開かれていたので、お休みの予定だ。

 彼も、マリアと共にパーティーを満喫したのだろうから、お昼まで休んでいるかもしれない。

 そう考えて、他の方法を探しに行こうかと思った時。

 ぎいっと微かに音を立てて目の前の扉が開いた。

 サナリアは飛び上がるほど驚いて、大げさなくらい距離を取った。

「何だ。何か用があるのか」

 濃紺のローブをまとい、仏頂面でこちらを見下ろす彼こそが、この国一番の魔術師、エルバート・レイ・アーバスノットその人だった。



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