15出会えて
「この度は、本当に、申し訳なかった……!」
謁見の間。そこにはサナリア、エルバート、ウォルター、マーティン、エディレクト、ライナスの六人が揃っていた。
そしてウォルターがサナリアに深々と頭を下げていた。
「へ、陛下!そんな、やめて下さい!」
「我々も、すみませんでした」
続けてエディレクトとライナスも頭を下げる。
「ウールフォード公爵、ハーウィール公爵まで、顔を上げて下さい!」
三人に頭を下げられて、サナリアは困惑した。しかしマーティンが睨みをきかせているため、三人は迂闊に頭を上げられない。
サナリアは助けを求めて父を見るが、笑顔で首を傾げるばかり。
エルバートを見ると、やがて彼は一つ溜息を吐いた。
「皆さん顔を上げて下さい。サナリアが困っています」
「しかし……」
ウォルターは、マーティンが怖くて出来ないなどとは言えないので濁して言った。
「サナリアを困らせ続けるなら氷漬けにしますよ」
その声に本気を感じた三人は即座に顔を上げる。
「すまなかった」
「いえ、わたくしはエルバート様のおかげで無事ですし、そこまで謝って頂かなくても……」
サナリアは苦笑を浮かべてこの場を収めようとするも二人の邪魔が入った。
「何を言っている!君は瀕死の重傷を負ったんだぞ!」
「そうだよリア!しっかり後悔を植え付けとかないとこいつら直ぐ付け上がるよ!」
「奴らには相応の報いが必要だ」
「二度とこんな事が出来ないように恐怖を刻み込もう」
「「「「…………」」」」
暴走する二人にサナリア達は言葉が出なかった。
「お、お父様、エルバート様、もう、そのくらいで」
「マーティン、そろそろ今後について話したいのだが……」
「ん?ああ……こほんっ。少々熱くなってしまった」
エルバートは不満そうな顔で黙った。
「ええ、まずはマリア・ライジットの処分について。国家転覆罪により、地下牢への投獄とする」
「え、国家転覆罪?」
サナリアは驚いて声を挟んだ。サナリアにとってマリアは自分に罪を被せようとしただけなのだ。
「はあ……。公爵令嬢を陥れ、王太子及び重鎮の子息を籠絡、人が多く集まる場で学園が吹き飛ぶ程の威力がある魔力爆弾を爆発させようとした。何よりサナリアに、二度も危害を加えた。これだけやれば十分だろう」
十分過ぎである。
「……学園が吹き飛ぶ程?え?」
「俺が抑え込んでたんだ。それなのに…………」
サナリアは頬が引き攣った。エルバートの顔は微笑みを浮かべているのに冷気を感じる。
そう、あの時サナリアが飛び込みさえしなければ、エルバートが全て丸っと解決していたのだ。
「二度とあんなことはしないでね」
「はぃ……」
笑顔のエルバートには敵わなかった。
「次、ルイフリッド・テオ・ジース・シドレイズアニアの処分について。王族からの除籍、病気療養として塔へ送る」
『塔』とは王族の方が問題を起こし、外に出すことも出来ない際に病気療養と称して幽閉する場所である。王族の生活する場なので相応に整えられている上、侍女もいるが、国王の許可がある者しか面会出来ない。
「エリック・ユール・ウールフォードとフィリップ・ルージ・ハーウィールの処分について。二人は二年の自宅謹慎と、五年の騎士団の下働き。当人の四代先まで爵位継承権を剥奪する」
二年も社交界に出なければ、彼らの居場所は無くなる。
サナリアはかなり厳しい処罰だと感じた。
それを見抜いたのか、マーティンが笑顔で言った。
「仕方ないよ、あいつらがあくまで罪を認めないんだから」
「そう、ですか…………」
サナリアは幼馴染三人の顔を思い出し、少し寂しく思った。仲良くお茶を飲むことは、もうないのだと。
「エディレクトとライナスの跡継ぎは兄弟が居るから良いとして……。私の跡がなあ」
ウォルターはそう言ってエルバートをちらりと見た。
「次男はまだ小さいからなあ」
「…………知ったことじゃありませんね」
国王の意味ありげな視線に、エルバートは嫌そうに応えた。
「いやいや、それはないだろう、エルくん!」
「…………国王になんてなったら時間がなくなる」
そこへ、サナリアが恐る恐る言った。
「あの、エルバート様は一体……」
その発言にウォルターは笑顔で、エルバートは顔を顰めて応えた。
「ああ、サナリア嬢には言ってなかったね。エルくんは私の甥だ!」
「より明確に言うなら、俺の父親がこの男の弟だ」
「ええっ!そうだったんですか!」
「サナリア嬢も言ってやってよ!エルくんが国王になってくれたら安心して引退できるのに」
ウォルターが唇を尖らせて言った。
「いい年したおじさんがそんな顔しても見苦しいだけです」
「そーだそーだ。国王なんて押し付けるもんじゃねえぞ」
エディレクトとライナスが助け舟を出す。
「俺は爵位も王位も継がない。魔術師団に入って研究をする」
エルバートはどこまでも自分勝手だった。そしてサナリアにとっての爆弾を落とした。
「後、サナリアと結婚する」
◆◇◆
「サナリア」
すっかり聞き慣れた優しい声。あの頃はこの方と、こんなに親しくなるなんて思ってもみませんでした。
「エル様」
声の主を振り返ります。そこには思った通り、微かに笑みを浮かべたエル様がいらっしゃいました。
エル様の驚きの発言に、わたくしは最初、お断りしました。
わたくしは一度婚約を破棄された、傷物です。エル様にはとても釣り合いません。
でも、エル様は一度決められたら結果が出るまで諦めません。全く、自分勝手な性格なのです。
毎日毎日、人目も憚らず求婚され、二年も経たずに受け入れました。
今では、それで良かったのだと心から思います。
愛し愛される旦那様の隣で、気ままな生活。お腹には第一子。
「大丈夫か?」
「もう、大丈夫ですよ。最近はそればかりですね」
眉間に皺を寄せてこちらを伺うエル様。以前は怒っているのかとびくびくしていましたが、今では心配して下さっているのだと分かります。
「ふふふ」
「?どうした」
「いえ……」
幸せだなあって。
ここまで読んで頂きありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
これにて完結となりますが、もしかすると後日譚のようなものを書くかも知れません。




