彼女が髪を下ろしたら
その昔…、私には、ずいぶん髪の長い友人がいた。
彼女の頭には、いつも大きなおだんごがのっかっていた。
あれはいつの頃だったか、六時間目の委員会が早く終わって、ずいぶん待ち時間があった休み時間。
「ねえねえ、髪下ろしたところ見てみたい!」
暇をもてあました私は、おだんごの実態を知りたいと願ったのである。
「いいよ。」
果たしてどれほどの髪なのか。
Uピンがザックザックとはずされていくのを見守った。
「何コレ、どうなってんの…。」
長すぎる髪は、みつあみにされた状態で頭の上でぐるんぐるんと丸められていて、Uピンでがっちりホールドされていた。
手の平にいっぱい分のUピンを取り去ると、ポニーテールになっている二本の長い長いみつあみが現れた。
みつあみの先は腰まで届いている。
廊下に置き去りにされていた椅子を持ってきて、そこに座ってもらってみつあみを解き始めた。
先端のほうから少しづつ編んである部分をほぐしていくと、椅子に座っている友人の髪がくねくねと波打ってふわりと広がり始め・・・。
…広がりすぎて!!!
「うわ!!なんかすごい状態なんだけど!!!」
みつあみを解くと、ソバージュになっている髪が広がって、お化けのような様相になってきた。
前髪も全部同じ長さなので、顔もすべて隠れている。
しかも静電気が発生して、櫛を通すたびにバッチバッチと怪しげな放電が!!!
まとめようとするたび、どんどん派手に広がっていく長い髪。
教室が空いていなかったので、廊下で解いていたのがまずかった。
「わあ、なにそれ!!」
「うわあ!!」
あっという間に野次馬が!!!
「もー、なんか恥ずかしいからしばるね。」
友人は手早く長いみつあみを編み上げた。
「見ないで編めるの?すごいね。」
「そりゃ毎日編んでるもん。」
騒ぎは無事収束した。
…かと思いきや。
「ねえねえ、昨日三階にゴルゴンが出たって聞いたんだけど!!」
同じ学校に通う二歳下のまたいとこがニコニコして私の家にやってきた。
彼女は一年生、私は三年生。微妙に距離感があるので、校内で会うことはまれだ。
確かに昨日、三階の廊下でそれらしき物体は披露されていた。
「ゴルゴンは出ていないけど、髪の毛の神様っぽい人はいたよ。」
「そうなんだ!!明日みんなに教えよっと。」
…伝言ゲームの恐ろしいところは、真実が相当捻じ曲がるというところにある。
海の近くの中学校には、「髪さま」なる座敷童子がいるという伝説が残ってしまった。
…伝説の恐ろしいところは、何年経っても語り継がれてしまうところにある。
海の近くの中学校には、「髪さま」なる座敷童子がいるといまだ噂されているのである。
姪っ子の口から髪さまの名前を聞く日がこようとは、あの日の私もまるで予想してなかった……。
友人は絶賛普通の奥さんをしているわけだけれど。
その一方で、伝説の髪として今も君臨し続けているわけで。
…もしかしたら。
本当の髪さまが光臨している可能性も、なくは、ないけどね…。
しかし、その可能性を確認するすべは、ない。
私は遠くはなれた地から、故郷の中学校に思いを馳せるのであった。