8話 謎の騎士様の正体
「まあ、入れよ。」
連れてこられたのは結構立派なお屋敷だった。
しかし、屋敷の中は外から見ると真っ暗で人がいる気配がまったくしなくて少し薄気味悪かった。
「家の人はいないのですか?」
こんな立派なお屋敷に住んでいるのだから使用人くらいいそうなものなのだけど、全員通いとかなのだろうか?
ヴィクトリアが恐る恐る暗い屋敷の中へと入ると明かりがともされた。
「この家には俺以外は住んでないよ。」
私の後から入ってきた、男は後ろ手に玄関の扉を閉めた。
ガチャン
やけに扉の音が響いて、私は今の状況が違った意味でヤバいんじゃないかと思い始めた。
「あ、あの! 私、き、急用を思い出したので!やっぱり帰ります!!」
「あははっ、やっぱりおもしれーな。お嬢ちゃん。まあまあ、何も取って食おうってんじゃないから少し落ち着け。なかなか面白い境遇になっているみたいだから興味がわいてね。」
「他人事だと思って面白がらないでくださいませっ。だいたいあなた、名前も名乗らないなんて失礼ですわ!」
さっきから失礼すぎる態度をとられてカチンときた私は思わず言い返した。
「ああ、これは失礼した。私はオースティン国の第一騎士団、副団長のアレク・ハワードです。以後、お見知りおきをメイスフィールド嬢。」
と言って、馬鹿丁寧に騎士の礼をした。
「アレク・ハワード様? どこかで聞いたことがございますわ……。」
ああ、たしか24歳の若さでありながら第一騎士団の副団長になったとかかなりの実力者であるとか、見目が麗しく騎士団の鍛練場の見学席には彼目当ての貴族子女達が毎日、沢山つめかけてくるので抽選での人数制限になったとか。お茶会での話題に登っていたことがあったっけ。
『漆黒の騎士様』とか言ってたっけ、私はあまり興味が無かったので微笑みながら相槌を打ちつつ右から左に聞き流していたけどね。
アレクを改めて見ると髪はボサボサで無精ひげを生やしているけどなるほど見目はかなりいい方だ。そこら辺の貴族の息子達は軒並みひょろくて頼りないがアレクは前世でいうと『ワイルド系』という感じだ。
そういう野性味のあふれる男性に彼女たちは惹かれたのかもしれない。
「お、メイスフィールド嬢にも知られているなんて男冥利につきるねぇ~。まあまあ、こんなところで話をするのもなんだしサロンへ案内する。俺は噂の『一撃姫』に会えて嬉しいし。」
「は? 一撃姫? なんですか、それ?」
なんか不穏な単語が出てきたが、まあまあと言われながらサロンへと案内された。