7話 謎の騎士様から逃走中です!
ヤバい、ヤバい!
こんなところで目立つ行動してしまった事に後悔するが、まあでも不可抗力だし!
私じゃなくてそこら辺で伸びているチンピラ3人組が悪いし!
ここで捕まって騎士団にでも連れていかれてしまったら私がメイスフィールドの娘だと気づかれてしまう!
強・制・送・還
そんな言葉が出てきて、慌てて首を振った。
もう一度、騎士の男を見てみるとどうやら一人のようだ。
かなりの高身長のようでヴィクトリアが見上げるほどだ、体もガッチリしていて普段からしっかり鍛えているのだろう騎士服を着ていてもわかる。黒髪の短髪であまり身だしなみに気を配らないのか髪型はボサボサで街灯の明かりが逆光となって顔の容姿はあまりよく見えないが、今まで会った騎士の中にはいなかったはず。
「あー、君。ちょっと話を聞きたいのだが…。」
男が恐る恐るといった感じで私に話しかけてきた。
「ああっ!! お父様っ、こっちよ!」
と人ごみのほうに大きく手を振った。
必然的に騎士と見ていたギャラリーが私の手の振られた方向へと目線を動かす。
……古典的な方法だけど、背に腹は代えられない!!
騎士の目線が私を離れた瞬間、魔法で煙幕を発現させた。
魔法って便利!
って感心している場合じゃなかったわ。
「な、なんだ!?」
「煙?」
「きゃー!火事よ!」
「ちょ、落ち着け!!」
街の人たちがパニックになっている間に人波をすり抜けて路地裏へと走った。
行ける!!!
このまま逃げ切る!!
騎士の男は完全に私を見失ったはず。
だがまだ、安心できないとりあえず今はなるべく遠くへ離れないと。
パンプスで走るのはきつかったがそんなこと言っている場合じゃない。めちゃくちゃに角を曲がったりとかして、なるべくさっきの場所より遠くまで走った。
「はぁっ、はぁあっ!! ここ、まで、くれば、はっ、あんしんっね。」
久しぶりに全速力で走ったからさすがに疲れた。
前世とは違って貴族の令嬢の体には結構しんどかった。
ここまで来たら大丈夫だろう。少しの間、路地の壁に体を預けて呼吸が整うのを待つことにした。
「おおー、すごいすごい。なかなか頑張ったな、お嬢ちゃん。」
路地の奥の暗闇から大げさに拍手しながら現れたのは先ほどの騎士様だった。
「げっ!!」
完全に巻いたと思ったのに!
身を翻して逃げようとした私を男は後ろから羽交い絞めにした。
「はいはい、暴れない暴れない。まあ悪いようにはしないさ、メイスフィールド嬢?」
終わった……。
短かったな、わたしの逃亡生活。生活もしてなかったけどさ。
男は抵抗を止めて大人しくなった私に安心したのか拘束していた腕を緩めた。
「まあ、なんだ。こんな場所でゆっくり話もできねーだろ。ちょうど近くに俺の家があるから、そこまで歩けるか?茶くらい出してやるよ。」
やけに楽しそうに笑っている男が言った。
こうして私達は出会った。
まさかこの後、この男が私の雇用主になるなんてこの時の私は知る由もなかった。