64話 侍女の憂鬱(side:メイ)
お嬢様がアレックス殿下とご婚約なされて喜ばしい事だと思っていましたのに、最近では早計だったのではと考えてしまいます。
国王陛下からお二人の婚約が認められて早一週間が過ぎました。
お二人とも王宮にいらっしゃるというのにその間にお会いできたのは1度だけ……。それもあの聖女と名乗る少女を腕に引っ付かせて廊下ですれ違う際に挨拶を交わしただけなのです!
いくら、陛下のご命令の警護だとしてもあの距離感の無さは婚約者であるお嬢様に失礼ではないのでしょうか!?
ヴィクトリアお嬢様にそれとなくご進言致しましたがお嬢様は静かにお顔を横に振られました。
「メイが怒るのもわかるけど、仕方ない事なの。大丈夫! 私はアレク様を信じているから。」
にっこりと微笑むお嬢様に何を言っても無駄なのは知っておりますのでこれ以上は言う事はありません。
ですが、やはり心のモヤモヤは晴れず、ちょうど王宮にいらっしゃっていた執事のセバスチャン様に状況の報告を致しました。
「ふむ、お二人の事はそのまま静観でいいと思うぞ、ただ、別件で気になることがある。」
「その別件とは?」
「…いや、父上からの定期連絡が一週間も来ていない。領に着いたら連絡が来るはずなのだが、それが気になってな。」
セバスチャン様が少し悩まし気な表情をしている。
「そうなのですか……。」
「まあ、そこら辺は俺が対処するからお前はお嬢様から目を離さないように。お嬢様の安全を最優先にしてくれ。」
「承知しました。」
セバスチャン様と別れて廊下を歩いていると前の方からロイ様が歩いてきました。
「やあ! メイちゃん。こんなところで会うなんて奇遇だね。」
「奇遇ではございません。ヴィクトリアお嬢様の護衛にいかれるのでしょう? 私はお嬢様の侍女ですので必然でございます。」
「相変わらず、メイちゃんは厳しいなあ~。」
ヘラヘラと笑うこの人が私は苦手だ。いかにも軽薄そうに見えて、いざとなったらお嬢様の盾になれるのか不安になってしまいます。しかし、アレックス殿下が直々にご指名したほどの人物とのことでそれだけ信頼されているとみていいと思いますが‥‥。
「ねね、今からヴィクリアちゃんの部屋に行くなら僕も一緒させてもらってもいい?」
「別に構いませんが。」
「最近ね、気になる子ができちゃって、その子の気を引くために何かプレゼントしたいと思うんだけど何がいい?」
横に並んで歩き始めたのは良いのですが黙って歩けばいいのにペラペラと話し出すロイ様に思わずため息が出そうになりました。
「さあ、私はそういうのに疎いもので‥‥。」
「ええ~? そうなんだ。じゃあさ、メイちゃんは何を貰ったら嬉しいの?」
この瑣末な会話を早く終わらせたくて廊下に飾られている花瓶が目に入った。
「花などはどうでしょう。」
「なるほど! 花かぁ~、それはいいかも。メイちゃんありがとう!!」
「どういたしまして。」
ふと目線の先に廊下の窓際にヴィクトリアお嬢様が立っていて窓の外を眺めているのが見えた。
憂いを帯びた表情で窓下の庭を見ている。
「お嬢様、いかがなされました?」
お嬢様に近づいてお声をかける。私もお嬢様の見ている方向へ視線を向けると庭園の談笑しながら歩いている、アレックス殿下と聖女が見えた。
「お嬢様……。」
「大丈夫よ、メイ。なんでもないわ。」
そう言って微笑むお嬢様は少し寂しそうに見えた。




