62話 雷鳴
ゴロゴロゴロ……
土砂降りの雨の中を一台の馬車が山道を走っていた。
「エマ、大丈夫か? 具合が悪くなってはいないかい?」
舗装されていない山道だ。そしてこの雨のせいでかなりの悪路になっている、馬車も急がせている為かかなりの揺れと振動が続いていて女の身では相当きつい状態だろう。夫であるアンドリューが先ほどから気にして声をかけている。
「大丈夫ですわ。それより御者さんは大丈夫かしら? こんな雨の中を強行軍させてしまっているから申し訳ないわ。」
「大丈夫だ。彼は長年やっているからこんな時でもなんなく仕事をこなせるだろう。この峠を越えたらすぐに町がある、今日はそこで休もう。パトリック様もそれでよろしいでしょうか?」
「ああ、それでかまわない。明日には晴れるだろうからそこからまた領地へ目指そう。エマには悪いがもう少し辛抱してくれ。」
先を急いでいるため、かなり厳しい日程になっている。エマには申し訳ないが早く領地に行き、状況を確かめねばならない。
今朝届いた領地からの手紙には、切羽詰まった状況であると訴えていた。
「それにしても、領民同士がいざこざを起こすなんて初めてですわ…。魔物が活発化し始めているのも気になります。」
メイスフィールド家の領民は比較的に温厚な者が多く、これまでにトラブルといったことはあまりなかった。ちょっとしたいざこざはあったが、すべて話し合いで解決できていた。
しかし、ここ数週間で家庭内での暴力や知人同士で乱闘騒ぎなど、領民がまるで人が変わってしまったようになったと報告された時にはにわかには信じられなかったが、とにかく一度、領地に戻ろうという事になりすぐに出立する事となった。
当初はパトリックとアンドリューだけで行くことになったが、エマが同行を願い出た。
「ふむ、とにかく領地に戻らないことには情報が少なすぎる。」
パトリックも今までにない事に眉間に皺を寄せて何やら思案していた。
「そうですわね。でも…、なんだか胸騒ぎがしますわ。何か良くないことが起こり始めているような……。」
エマも不安げな表情だ。
「なあに、大丈夫さ。俺達がいるし何も心配する事はない。とにかく、今は早く山を下りて明日に備えてゆっくり休もう。」
アンドリューは妻を安心させるために笑みを浮かべながらエマの手をぎゅっと握り締めた。
雷雨は止むことはなく慣れている御者も慎重にかつ早急に町に着くように馬たちを上手に操って進んでいた。
そこに森の中から人影がスーッと現れ御者の男に向かって矢を放った。
寸分の狂いもなく御者の胸を貫いた。
「うっ…。」
御者はそのまま横に倒れた。
雨と雷の音で御者が矢に撃たれたなどとは馬車の中のいる者たちには聞こえないだろう。
目の前に吊り橋が切り落とされた断崖絶壁になっているとは知らず馬はそのまま真っ直ぐ走る。
そして……。
一台の馬車はそのまま谷底へと吸い込まれるように落ちて行った。
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