6話 只今、家出中です。
「ここまで来たら安心ね。」
部屋に書置きを置いた後、ちょっとした魔法で私がいると見せかけるようにした。それからばれないように屋敷から抜け出した。
宵闇に紛れて王都の街へとやって来た。
ちなみに変装で商家の娘風に服を着替えている。スカーフで目立つ銀色の髪を隠して眼鏡をかければ怪しまれることはないだろう。
街道はまだ夜にはいったばかりで人が大勢歩いていた。
それに紛れて歩く。まず宿探しからだわ。
家からは少しのお金と宝石類などを持ち出してきた。
売れば当面の生活はなんとかなるだろう。
今夜は宿に泊まって、明日は職探しね。
貴族の令嬢のままなら無理だったろうが、前世の記憶がある私はバイトや仕事をしていたし多少、腕には自信がある。そこら辺のひょろっとした男たちには負けないだろう。
「まあ、宿の前に食事が先ね。」
昼間の騒動から何も食べていなかったため、先ほどからお腹がぐぅ~ぐぅ~鳴っている。
お金の入った巾着袋をもって食べるところを探して目をきょろきょろさせているところに前から来た人とぶつかってしまった。
「いってぇ~~~な!!」
いかにもガラの悪そうな男たち3人組に絡まれてしまった。
酒臭くて、私を見ながらにやにやしている。
「あら、これは失礼しましたわ。でも、そちら様も避けられたのではなくて?」
そう言いながらぶつかったひょうしに落としてしまった巾着袋を拾った。
「ああ~いてぇ~ああん!? なあ、ねえちゃん。治療院行くからその金、全部寄こしな。」
全然痛そうにないがワザとぶつかった腕をさすりながら言ってくる。他の二人は卑下た笑いでこちらを見ていた。
ああ、なるほど。金を持っていそうなカモ(私の事ね)が歩いてきたのでわざとぶつかったのね。
「あらあら、私のようなか弱い女性にぶつかって怪我をされるなんてよほど軟弱者なのですね?おかわいそうに。それじゃあ、仕事も見つからずこういう事でしかお金をせしめるしかないですものね?」
「んっだとぉこらぁ!!! 痛い目みたいのか、ぁあ?!」
3人の中で比較的、ガタイのいいスキンヘッドの男が大声を出して威嚇してきた。
「お嬢ちゃん、こいつを怒らせたら手がつけられねぇんだわ。悪いこと言わねえ。俺らは治療費さえだしてくれりゃ~文句はないんだわ、な? 怖い思いしたくないだろう?」
ヒョロガリの男がニヤニヤしながら話しかけてくる。
私たちの周りはすでに人だかりが出来ていて周りの人たちは固唾をのんで眺めていた。『おい、だれか警備兵呼んで来いよ!』とか聞こえてきた。
「おい! 早くしな!!」
周りの声が聞こえたのか3人が慌てだした。
「お断りします! あなた方に上げるお金などありませんわ!」
「このっ、アマァ!!」
スキンヘッドが拳を上げて襲い掛かってきた。
キャーという声が聞こえたが私は冷静に男の手首を捕まえ、自分の方へと引き寄せた、相手がふらついたところで遠心力を生かして投げ飛ばした。
柔道は五段だったんだよ、なめんな!
「こ、こいつ~~!!!」
今度は二人がかりで襲ってきた。
「ぐはぁ!!!」
「ぎゃっ!」
小太りの男には顎に綺麗なアッパーを決め、ヒョロガリには腹に一撃を加えた。二人は白目向いて倒れた。
「やべえ、つ、つえ~~。」
そんな声がギャラリーから聞こえた次の瞬間、歓声が沸き上がった。
や、やばい。ちょっと目立ちすぎた?
「ああ~…… コホン。ちょっと、君、いいかな?」
振り向いた先には騎士服の男が立っていた。