58話 護衛の任務(side:アレク)
「そんなことを余は認めてはいないぞ!!」
謁見の間に入ると同時に陛下の怒鳴り声が聞こえた。
教会が勝手に聖女候補としてクララを承認したという話を聞いたのだろう。
いつもは無口でめったに激昂しない陛下に内心驚いたがそんなことは表情には出さず玉座の前まで行き、臣下の礼を執った。
「ん? アレックスどうした?」
「はっ、先ほど廊下でザカリー大公が陛下と私に相談があるとのことでしたのでヴィクトリア嬢を部屋に送り届けた後、再び参りました。」
「ザカリー、最近のお前たちは少し横暴すぎるのではないか?」
「それはおかしなことをいいます。私はいつもこの国の事を思い日々過ごしてきております。今回の事は少し強引かと思いましたがこれも兄上の事を思い……。」
「ええい! だまれっ。余の事を思うのならばなぜ勝手にそのような事をした。王族と教会が再び対立すると前と同じような事になるのだぞ!!」
前というのは、今の陛下とザカリーがまだ王子だった頃の王位継承争いの事を言っているのだろう。前国王が急病により亡くなったため、次期国王の指名がなされていなかった。その事で王妃側と側妃側で対立が起こりあわや国が分裂しかけたらしいが、伯母であるアンジュ様達の働きにより大事には至らなかったという。
その当時の事を陛下も宰相もあまり語りたがらないが裏ではかなり凄惨な攻防が繰り広げられていたらしい。
「しかし、聖女が現れたという事は国に災禍が訪れると昔から言い伝えがございます。その災禍から逃れるには聖女の、彼女の力が必要なのです! どうか、どうかご理解下さい!」
情に訴えるように話すザカリーに陛下の表情に少し動揺が見えた。
「では、もし、その娘が本物の聖女でなければどうするのじゃ?」
「本物の聖女であることは確実でございますが、陛下がそのように疑うのでしたら聖女の試験を受けさせるのはどうでしょうか?」
「なに? 聖女の試験じゃと?」
「はい、古い文献に建国祭に当時の聖女が祈りを捧げ奇跡を国民の前で見せたとあります。来月行われる建国祭にてその奇跡をクララがおこしてくれるでしょう。それが試験というのはどうでしょうか?」
「そう言うが、もし失敗したのなら教会の面目がなくなるぞ、偽の聖女を出したとなるとお前も責任を取ることになるのだが?」
「それは百も承知です。それでも聖女の力が必要なのです。陛下はご存知でしょうか? 魔物の活動が最近、活発になっていると報告が上がっているのを。」
何? そんなことは初耳だぞ。陛下を見ると渋い顔をしているのが見えた。
陛下もその事は知っていたらしい。
「余も今朝聞いたばかりじゃ、西の領地で魔物の暴走があったと。周囲のギルドの冒険者と西に駐在させている騎士達で事なきを得たらしいが……。お前はそんな情報をどこで知った?」
「西には教会の支部がございます。教会に治癒師たちの依頼があったと報告がきておりました。詳細を聞くと先ほどの件につながったのです。」
「ふむ……。」
どうしたものかと国王が考えを巡らせていると先ほどから隣で立って二人のやり取りを聞いていた宰相が口を開いた。
「陛下、発言してもよろしいでしょうか。」
「うむ、許す。」
「本物の聖女であるかということは今、この場で判断はせず、ザカリー様がおっしゃられるように建国祭でそれを見極めるというのはいい案だと思われます。」
「しかしだな…。」
「ただし、聖女候補という肩書はそのままにしましょう。例え彼女が本物の聖女でなくても祭りの聖女役として演じてもらったとあとで説明すれば問題ないのでは?」
「なるほどな…。ザカリーはそれでいいか?」
「はい、私に異存はございません。」
「では、聖女と認めるのは建国祭を見てから判断する。」
話はまとまったようだが、これだけの為にわざわざ俺を呼んだようには思えない、この後また何か言いだすだろう。
そう思っていたらやはりというかザカリーがとんでもない事を言い出した。
「陛下、一つお願いがございます。」
「なんじゃ? 申してみよ。」
「建国祭までの間、護衛をアレックス殿下にお願いしたいのです。」
「ほぅ、なぜアレックスを指名する?」
「アレックス殿下は新しく発足させた竜騎士団の団長であり、また竜を使役したと聞きます。これほど心強い護衛はございません。聖女となると他国に狙われたり良くない者に付け狙われたりします。現に以前よりクララが不審な者に襲われそうになったことが何度かあり、私たちの護衛では心もとないのです。」
なるほど、そう来たか。
しかし、これはこっちにとっても都合がいい。俺が見張っていればこいつらも下手な事はしないだろう。
「陛下、私はかまいません。」
「ふむ……。それでは、クララ嬢の護衛は竜騎士団の者で行うとする。」
「はっ、承りました。」
話し合いを終え謁見の間を辞すると扉の前で先ほどまで大人しくやり取りを聞いていたクララが立っていた。
「クララ嬢、いかがなさいました? ザカリー大公は……。」
「アレックス殿下に話があったので先に行ってもらいました。」
「私に?」
「そうです……。信じられないかもしれませんが私は過去と未来が見ることができるのです!」
「ほぅ…。」
ヴィクトリアが言っていたようにこの娘も転生者なのだろう。この世界が乙女げえむの中というのなら物語の過去と未来など知っている情報はたくさんあるはずだ。それを今更、大げさに言われても興ざめだな。
「あの、このままだとアレックス殿下は…。だから、早くヴィクトリアさんとの婚約を破棄してください! 取り返しがつかなくなる前にっ……。」
涙目で訴えてくる彼女に内心、苦笑した。今までの男達ならその仕草に惚れるかもしれないが、生憎、そういうのは俺にはきかない。
「私はヴィクトリアと結婚するつもりです。過去や未来が見ることができるなどとそのような事を急に言われても……。」
「信じられないのなら、アレックス様に信じてもらえるような話を ……例えば、殿下のお母様が亡くなった理由とか。」
「…何だと?」
思わず聞き返した。
「私、知っているんです。アレックス殿下のお母様を殺した犯人。」
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