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42話 『カトレア』に行きました。



『カトレア』に向かう途中、アレクは花屋の前で馬車を止めた。


「少し待っていろ。」


そう言って、アレクは馬車を降りて花屋へと入って行った。

しばらくするとアレクが馬車へ乗り込んできた、その手にはオレンジ色のバラの花束があった。


「すまない。あいつと会うときは(これ)を持って行かないと機嫌が悪くなるのでな。」


「そう…なんですか。」


オレンジ色のバラの花言葉は確か――『絆』とか『信頼』だった気がする。

私は何だかもやもやする心を落ち着かせるために馬車の窓から流れる街並みを眺めていた。




『カトレア』は王都の中心地より少し外れたところにあって、大きくて優雅な佇まいの洋館だった。


「ハワード様、お久しゅうございます。リリィ様がお待ちかねですよ、ご案内致します。」


執事服の男の人が屋敷の中へと案内する。


「アレク様! お久しぶりでございます。」


「まあ! アレク様、最近は来て下さらなかったから寂しかったのよ。」


「きゃー! アレク様~。」


一気に女性達がアレクの周りを囲った。それぞれ綺麗に着飾ってあからさまに肌を露出しているドレスではなく気品すら感じられる。

その女性達の一人が私がいることに気づいた。


「あら、ロイ様以外を連れてくるなんて珍しいですわね‥‥、って、何、この子!かわいい!!」


「あ、本当!まるで女の子みたいな綺麗な肌ね~。」


二人が駆け寄ってきてそれぞれ私の腕をとってまじまじと顔を覗いた。

いきなりの事だったので私は面食らってしまった。


「え、えっと…。」


「ねえねえ、お名前をお聞きしてもいいかしら?」


「ヴィ、ヴィクトルと言います…。」


「ヴィクトルくんね! いい名前ね。ね~え、お姉さん達と遊んでいかない?」


「えっ、は?」


いきなりそんなこと言われてしどろもどろになる。


「きゃあ! 顔を真っ赤にさせちゃってぇ~、かわいい~。」


「おい、そいつをからかうのは止めろ。」


アレクがいつの間にか女性達の輪から抜け出したのか目の前に来て、私の腕を取った。


「俺達はリリィの所へ行くから、お前たちはこいつとでも遊んどいてくれ。食べ物与えたら喜ぶぞ。」


そう言って、リュウを差し出した。


「きゅう?」

(なに?)


「きゃああ! ドラゴンの子供って初めて見たわ、かわいい~。」


「角もあるわよ~、目つきが鋭いところがかわいい~。」


「私にも触らせて~。」


「確か、果物があったわね。それ食べさせてみましょうよ。」


一気に女性たちの興味の対象がリュウへと移った。

人身御供にしたような気持ちだ。

ごめんね、リュウ。



「きゅうう~♪」

(なでなできもち~♪)





アレクは私を連れて階段を上がって一番奥の部屋へと向かって行く。

一番奥の突き当りには豪華な装飾が施された扉があった。部屋の中へと入ると女性が一人座って、優雅にお茶を飲んでいた。

その人は、すごく美人だった。黄金色の長い髪はキラキラと輝いて眩しい。瞳の色は蜂蜜の様な金色。まるで美の女神様ではないかと思うほど美しかった。


「アレク、なかなか来ないと思ったら約束の時間も遅れてくるなんて随分と薄情になったわね。」


「すまない、出かけにちょっとあってな。ほら、いつもの(やつ)だ。」


「ふふ、これを忘れずにいたことは褒めてあげるわ。…それと、後ろの彼も紹介してくれるかしら?」


「ああ、ヴィ‥‥。」


「ヴィクトルといいます。今日はアレク様に無理言って連れてきてもらいました。」


アレクの言葉を遮って自己紹介する。ここでヴィクトリアと紹介しても男装している自分がなんだか恥ずかしくて思わず男のままで通すことにした。

アレクは私に向いて驚いた顔をしていたが、このままにしてほしいと目で訴えたら何とか伝わったようだ。


「あらあら、ずいぶんとかわいい従者をお付けになったのねえ。」


「あ、ああ。」


「さあ、お二人ともこちらに座って。」


リリィさんの向かいの二人掛けのソファに並んで座った。


お茶を用意してもらって部屋に3人しかいなくなってからアレクが口を開いた。


「…では、聞かせてもらおうか。ここの娼婦が一人、行方不明になった話を。」


「その子名前は『ダリア』っていうの。でもここに来た時に付けた名前よ。半年前に突然店の前に来てここで働かせてくれって言ってきたの。」


「半年前なら俺は顔を知らないな。」


「そうねえ、薄情な誰かさんは1年も会いに来てくれなかったもの。」


リリィは恨めし気にアレクを見る。


「ゴホン。まあ、仕事が忙しかったからな。それで?」


「またそうやって、はぐらかすんだから。ま、いいわ。基本ウチは身元が不確かな子を雇うことはないのよ。まあ、来られるお客様がそれなりの方々だからね。でも、彼女は店の前で土下座してまで『何でもしますからここで働かせてください。』ってお願いしてくるものだから困ったわ。」


「それで雇ったのか?」


「迷ったけど、何か訳ありそうだから、つい、ね。」


「なるほど。」


私は二人の話を聞きながらメモを取っている。前世の癖で聞き取りにボイスレコーダーかメモ帳は必需品だった。この世界にはボイスレコーダーはないのでメモを取ることにした。リリィさんにはあらかじめ了解を取っていた。


「雇ってからずっと下働きをしてもらっていたのだけど、文句も言わずによく働く子で他の子たちからも受けがよかったわ。…ただ、私は少し気になって調べたのよ。」


「それで?」


「あなた、半年前の子爵のお取り潰しの件、覚えている?」


「ああ、確か商人と手を組んで不正をして利益を得たとかいう……。」


「そう、彼女はその子爵の一人娘だったわ。」


「確かその事件を担当したのは、ローガンだったな。」


「…… それから彼女は3か月前から娼婦として働いてもらうことにしたの。彼女もそれを望んでいたし、何度も確認したのだけどね。『どうしてもお金が必要だから』って言われちゃあね。」


「そうか…。」


いろんな事情でお金が必要でこの仕事をする人は日本(前世)でもあったし悪い時は家族や恋人に売られたりする人だっていた。不正をしている店の摘発した折に何人もそういう人を見てきている私には、意思確認をきちんとしているリリィさんは良心的な人に思える。


「それで、彼女の初仕事の時に、珍しくここに来て彼女を指名した客がいたのよ。誰だと思う?」


「まさか…。」


驚いたようにアレクの目が見開かれる。

そんなアレクを見て、リリィさんは優雅に微笑んで言った。




「ローガン・ベルよ。」




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