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41話 ケンカを売る相手を間違えたな。(side:アレク)



『カトレア』のリリィに会いに向かおうとした俺に門番が声をかけてきた。なんでも俺の使いという者が少し前に来て第二騎士団のベル副団長に連れていかれたらしい。その話を聞いてなんだか妙な胸騒ぎがした。

どこへ向かったか聞くと、どうやら訓練場に向かったらしい。ますます嫌な予感がして俺はすぐに訓練場へと走った。

俺が訓練場に入ると男装姿のヴィクトリアが訓練場の真ん中に立っていた。その周りには新人の騎士たちが屍のように転がっている。


「何をしている。」


「これはこれは、第一騎士団の副団長殿が直々にお迎えにくるとは。」


ローガン・ベルがいつもの胡散臭い笑みを浮かべて話しかけてきた。


「何をしていると聞いている。大体、部外者に剣を振るわすことは規則違反ではないのか?」


「まあ、そんな固いことはいいじゃないか。彼も参加したがっていたのだよ。そうだよね? ヴィクトルくん。」


「は、はい! すみません。」


ヴィクトリアが申し訳なさそうな顔で頭を下げた。大方、ローガンの口車に乗せられたのだろう。説教は後に回してとにかく今はこの場から早く連れ出さなければいけない。


「…まあ、いい、いくぞ。」


思わずため息がこぼれそうになるのを堪えてヴィクトリアに告げる。


「は、はい!」



ローガン・ベルは昔から俺が苦手なタイプの人間だった。学生の頃はよく嫌がらせらしき事もされたが俺が完全に無視していたのでそれが面白くなかったのかあまり仕掛けてくることは少なくなったが、たまにこうして俺が()()()()()()ことをしてくる。


「ずいぶんとその子の事を可愛がっているようだね。」


「…何が言いたい?」


「いやあ、最近は君の浮いた話を聞かないのでね……、()()()()()かと納得しているところだよ。」


「どういう事かは俺には全くわからんが、お前みたいに節操なしではないのでな。」


「なっ、それはどういうことだ!」


俺はワザと奴の癇に障るように言ったら、あからさまに顔色を変えて突っかかってくる。

だからお前は甘いんだ。ケンカを売る相手を間違えたな。


「なんでも、辺境伯の未亡人から侯爵令嬢に鞍替えしたとか。しかし未亡人の方がえらくお前に貢いでたそうじゃないか、別れ話が縺れて令嬢との逢瀬の時に未亡人が押しかけてきて大立ち回りを演じたとか…。」


そこまで言って、クスリと嫌味な笑みを浮かべた。


「なんでっ、それを!!」


「ああ、親の権力と金でなんとか隠し通せたみたいだが『壁に耳あり障子に目あり』という事だな。その令嬢との婚約も破断になったそうじゃないか。これを機に女性には誠意を持って接する事をおすすめするよ。」


ベルは見た目が良いためか学生の頃から女の噂が絶えないやつだった。同級生でも奴に女を取られて泣いていた奴らもいたが、すぐに別の男に靡く女なんて碌な奴じゃないと言ってやった。


「くっ!! …私はここで失礼するっ。」


ベルは俺を憎々し気に睨みつけてから出て行った。


「あ、あの。わ…お、俺、何か不味い事しましたか?」


ヴィクトリアが思わず「私」と言いかけて周りに人がいるので慌てて「俺」と言い直した。

改めて見るとよく化けたなと思う、声のトーンが少し高めだが少年と思えば違和感はない。

俺とベルとのやり取りを聞いて何か不味い事でもしたのではないかと思っているらしい。


「別にお前が気にすることではない。さ、ここから出るぞ。」


そう言って、ヴィクトリアの手を掴んで歩き出した。


「きゅきゅーい!きゅう。」

(あれくきたよー! りあもいっしょ)


どこにいたのか俺の肩にリュウが乗ってきた。





俺の執務室に入るとリュウが騒ぎだした。


「きゅー! きゅきゅきゅう~)

(あれくー! 昨日のアレたべさせて~)


「あーあれか。」


昨日、ロイに干し肉を頼んだがそれ以外にもいろいろ買ってきていた。その中でも保存用の魚の缶詰がとても気に入ったらしくそれも追加注文することになった。


残っていた缶詰を開けて皿に出してやると嬉しそうに食べ始めた。


「ああー! これが目的だったのね!!」


「どういうことだ?」


「実は……。」


ヴィクトリアの話だとリュウがどうしても俺のところに行くと言って聞かなかったそうだ。あいにくヴィクトリアしか行ける人間がいなかったのでアンジュ様達に男装に着替えさせられてここまで来たらしい。


「なるほど、そういう事か。」


「はい。では私もそろそろ家に戻りますね…。」


ヴィクトリアがそう言って席を立った時に執務室にロイが入ってきた。


「あれ? アレク、まだ出ていなかったのか?」


「あ、しまった。」


この騒動で忘れていたが『カトレア』に向かうつもりだったのだ。


「あれ? この少年は誰ですか?」


ロイは執務室にいるヴィクトリアを不思議そうな目で見ている。


「あ、アレク様のお屋敷で働かせてもらっているヴィクトルです!」


いや、ロイには素性を明かしても問題ないのだが。そう言おうとした矢先にロイ(ばか)がとんでもないことを言いだした。


「へえ! 新しい子を雇ったのですね、どっかで聞いたことがあるようなきがするけど。あ! ちょうどいいじゃないですか、この子も連れて行ったらどうですか?」


「なっ、おい!」


「? どこかに行かれるのですか?」


「ふっふっふっ、一気に大人の階段登れるところだよ! 『カトレア』といってな高級娼か‥‥。」


「わーっ!! お前は少し黙っていろ!!!!」


俺は慌てて奴が余計なことを言う前に声をあげて制した。


「高級娼館……。」


しかし、ヴィクトリアにはしっかり聞かれていたらしく胡乱な目で俺を見てくる。

あー、ったくしょうがないな。

ここで変に疑われても嫌だしな。


「ヴィクトリア、高級娼館っていってもそこにいる情報屋に会いに行くだけだ。気になるならお前もついて来たらいい。」


「ヴィ、ヴィクトリア嬢!?」


ロイは自分がマズイ事を口走ったと自覚したらしく顔を青くしている。


「い、行きます!」


ヴィクトリアが少し顔を強張らせて頷いた。


「きゅきゅきゅー!」

(ぼくもいくよー!)


缶詰を食べ終えたリュウも元気よく返事をする。


こうして俺達は『カトレア』へと向かったのだった。




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