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閑話 動き出す闇



「ザカリー様! 見てください、新しくドレスを新調させたのですけど似合っていますか?」


クララはザカリーの前で一回転をする。ピンクゴールドの様な色の真っ直ぐな髪は腰まであり、愛らしい容姿と大きな瞳の金色が神秘的な美しさを醸し出していた。白を基調としたドレスの生地は所々に小さなダイヤが縫い付けられていてくるっと回ったことでドレスの裾がふわっと広がりダイヤが反射してキラキラと輝いた。


「素晴らしい! まるで女神が地上に舞い降りたようだ。」


ザカリーは、クララの手の甲にキスを落とす。


「まあっ、ザカリー様ったらお世辞が上手ですのね。」


クララは口ではそう言っているが褒められたことが嬉しいのか顔がほころんでいる。


「…アルフレッド殿下にやるには惜しくなってしまった。私がもう少し若ければ一番に結婚を申し込むのに。」


「ふふ、ザカリー様は十分お若いですわ。それに私は恋愛に年齢は関係ないと思っていますのよ?」


確かに、ザカリーの見た目は実年齢より若く見える。真っ直ぐな金色の髪は腰まであり一つに束ねられている。王族の象徴の青い瞳はやや薄い。しかしその容姿は美の化身とまで言われるほど整っている。


「それは朗報だ。」


笑みを浮かべつつザカリーは、クララのおでこに唇を落とすと、クララは一瞬で頬を赤く染めて蕩けた

ザカリーを見上げた。


「ザ、ザカリー様! お戯れはお止めくださいっ。」


「ははは、すまぬ。あまりにもクララが可愛いことを言うものでな。さて、そろそろ家庭教師が来る時間ではなかったか?」


「はい。でもぉ~、もう少しザカリー様といたいです。」


「おやおや、クララは甘えたがりだな。しかし、勉学は大事な事だぞ。そうだ、クララが頑張ったら今度、演劇でも見に行こうか?」


「本当ですか?」


クララの目が一瞬で輝く。


「もちろんだよ。さあ、行っておいで。」


「わかりましたわ! それではザカリー様、行ってまいります。」


そう言って、クララはご機嫌で部屋を出て行った。




「さすがは、ザカリー様。女性への対応は素晴らしいですね。」


先ほどから、ザカリーとクララのやり取りを部屋の隅で見ていた男はクララが出て行ったのを見計らってザカリーに話しかけた。


「嫌味か? ジェームズ。」


その男の名はジェームズ・クレイグ。ジェフリーの父親である。


「とんでもございません。ザカリー様の手腕に感心しただけでございます。」


「ふん。まあいい、で、例の件はどうだった?」


「は、今朝、現れたレッドドラゴンですが、王都のとある屋敷に降り立ったようです。騎士団が動いたようですが、その後すぐに騎士兵舎に引き返したとのことです。それからは動きがありません。」


「ほう…。で、そのドラゴンが降り立った屋敷の主も調べておるだろうな?」


「もちろんでございます。第一騎士団の副団長、アレク・ハワードが最近、購入した屋敷でございました。」


「何? アレク・ハワードだと?」


それまで頬杖をついて聞いていたザカリーが驚いたように顔を上げた。


「は、はい。間違いないかと…。ハワード副団長がなにか?」


「ああ、お前は知らなかったのか。アレク・ハワードは偽名で本当の名前はアレックス・オースティン。第一王子だよ。」


「な、なんとっ! 実はもう一つお伝えしたいことがございまして、そのレッドドラゴンは大きな馬車を1つ背中に抱えてきたようで、その馬車の人物が……。」


「アンジュ伯母様だろう?」


「なぜそれを…。」


「ああ、簡単な事だ。副団長は1週間ほど前に宰相と領地へ向かったと聞いていたのでな。多分、宰相につけた『蟲』を伯母様に気づかれたのだろう。まあ、想定の範囲内だ。」


「なるほど…。しかし、第一王子とメイスフィールド家が手を結んでは都合が悪くなるのでは?」


「いや、それくらいではこの計画は破綻しない。……だが今は、メイスフィールドの領地は誰もいないってことになるな。」


「はい、確かに。アンジュ様とエマ様に双方の旦那様方も一緒に王都に来ていると報告を受けております。」


「それは好都合だ。ジェームズ、お前はどこかのギルドから雇い主がわからぬよう冒険者を募れ、それからメイスフィールドの領地にある魔の森の奥深くのある場所に向かわせて、そこに眠っている『魔物』がいるかどうか確認させて来い。()()何もするなと念をおしとけ。それから『魔物』の確認ができたらその冒険者たちはいつものように始末しろ。地図はこれだ。」


「承知しました。」


ジェームズは渡された地図を受け取ってポケットへ仕舞った。


「あの二人がいると動きにくいから、伯母様方には申し訳ないが離れてもらおう。」


「あのお二人はいつもご一緒なはず。どうやって離しますか?」


「準備はできている。まあ、すぐにわかるさ。」


ザカリーは薄ら笑いを浮かべた。


「それは、楽しみでございますね。では、さっそく手配させていただきますので失礼致します。」


そう言って、ジェームズは部屋を出て行った。





ザカリーは、ジェームズが出ていくのを確認すると部屋の内から鍵をかけた。

その部屋には大きな肖像画が飾られていて描かれているのは金髪の美しい女性だった。面影がザカリーに少し似ている。その前に立ったザカリーは肖像画の女性の胸元に輝く宝石のペンダントを指で触った。その宝石は直接、絵に埋め込まれていてザカリーの指が触れると赤く光った。

肖像画が横にズズズッとずれ、人ひとり通れる通路が現れた。その通路の先には煌びやかな装飾品に囲まれた部屋があった。

その部屋の中心にすわっている人物の前でザカリーは膝をつき、その人物の膝に頭を置いた。そしてその膝に置かれた手をぎゅっと握り締めた。



「母上様、もう少しです。もう少しであなたの悲願を叶えることができます。ですからもうしばらくお待ちください。」




― 私のかわいい坊や、愛しているわ ―




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