20話 お父様なんて、お父様なんてっ・・・・!!
髪を切った後、本屋に入って『メイドの心得~初級編~』を買った。
それから晩食に出す食材を探しに街を歩いていたら、洋服屋さんのウィンドウに飾られているメイド服を見つけた。
「そうだ、メイドらしくするならメイド服も必要よね! お屋敷にはそれらしき服が無かったから必要経費として買ってもいいわよね?」
そう思い立って、お店の中へと入ってメイド服を買った。
こう、前世でも女の子っぽい服とか着た事がなかったからちょっと新鮮だ。ちょっとだけ着るのが楽しみだ。
そうして、買い物を終えてから屋敷に戻り前世の記憶を駆使して洋風のコース料理風に料理を作った。
すべての準備が整った頃に馬車の音が聞こえてきた。
どうやら帰ってきたようだ。
「よし!これからが本番、お客様に失礼がないようにしなきゃね!」
と自分に気合を入れて玄関へと向かった。
馬車から降りてくるアレクを見て深く頭を下げる。
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
ん?
なんか反応がないどうしたのだろう?と思って顔を上げたとたんアレクがなんかすごい大きな声で何か喚いている。
「え? リアちゃ……ん?」
後から降りてきた人はお父様だった。
私を見て呆けている。なんで、お父様が来ているの?
だってアレクは話をつけるって言っていたじゃない。
「リリリリリ、リアちゃんっ、ここここれはいったいどういう……。」
お父様が動転したように聞いてくる、ちなみにアレクは青から白へと顔色が変わっていっている。
「アレク様から聞いていらっしゃらないのですか? 私は今日からこのお屋敷で働かせていただくことになったのです。」
アレクが必死に首を横に振っていたが、ここまで来たら正直に言うしかないじゃない。
「な、んだと? …アレクさま、これは一体どういうことですか?」
何だかお父様の周りの空気がおかしくなってきた、例えて言うなら小さい竜巻群がうねっているような……。
あ、これって魔力暴走?でも子供ならまだしも大人が魔力を暴走させるなんて…。
「おお、おちつけ、な? ルイス、深呼吸しろ、ゆっくりと、俺のはなしを…っ!? うわっ!〈バンッ!!!〉」
話している途中でいきなりアレク様が吹っ飛んだ、そしてそのままエントランスの壁にぶつかった。
「アレク様!! お父様っどうしてこんなことをっ!」
お父様は私の言っていることが聞こえないのか無視しているのかそのままアレク様がいる方へと歩いていく。
まずい! お父様は完全に頭に血が上っているんだわ!
とりあえず、何とかして止めないと!
私は走ってアレク様とお父様の間に立って両手を広げた。
「お父様! 私の話を聞いてくださいっ お願いします!!」
「……話は後だ。」
「駄目です! まずは私の話を……。」
「黙れと言っているっ!!!」
その時、近くにあった3メートルくらいの石像が途中からメリメリとひび割れてちょうど私のいた方へと倒れてきた。
「あぶないっ!!」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
石像にぶつかると思って目をつぶった瞬間、強い何かに引っ張られて体が倒れていくのを感じた。だけど石像とぶつかった痛みも倒れた時の衝撃もあまり感じられなかった。
耳の隣でガシャーンという大きな音が聞こえて目を開けるとアレクが私を抱きかかえるようにして石像から私を庇ったことに気づいた。
「……っ、いってぇー。」
アレクの腕が倒れた石像に挟まれているのが見えた。
「だ、大丈夫か? すまない……すぐにどかそう。」
正気に戻ったのかお父様が風の魔法を使って慎重に石像をどかして行った。
私は何だか泣きたくなった。
お父様はいっつもそうだ、肝心な時にちゃんと私の話を聞いてくれない。
いつだって自分の思い通りにならないと気が済まない。
もう、駄目だ。
本当は言いたくない、だけど…。
「アレク様、申し訳ございません。すぐに医者の手配を……。」
「…えって。」
「リア?」
お父様が私の様子に気づいた。
「帰って!」
「リア……。」
「お、とうさまなんて、お父様なんて、だーーーーーーーーーいっきらい!!!」