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閑話 とある美容師と変わったお客様



俺はこの街で10年、美容師をやっている。妻と二人の子供にも恵まれ何とか客足が途切れることもなく最近では街のお嬢様方も来店することが増えた。


そして今日はちょっと変わったお客さんがお見えになった。


妻が用意した昼食を食べて午後の営業を始めたと同時に1人の女の子が店に入ってきた。

歳は17か18くらいだろうか、ここら辺では見たことのないえらい綺麗な子だった。銀色の真っ直ぐな髪はまさにプラチナのように輝き、お人形さんのように整った小さな顔に輝くような蒼の瞳。思わず見惚れてしまった。


「あ、あの。髪を切ってほしいのですけど今、空いていますか? 予約とか必要ですか?」


初めてこういう店に来るのだろうかおずおずと聞いてくる。その声も鈴が転がるように耳心地がいい。


「あ、空いていますよ! すぐにでもできます!」


「よかったです! 予約制とかだったらどうしようかとおもいました。よろしくお願いします。」


と、丁寧に頭を下げる少女の髪は結われているが長そうだ。


「では、どうぞこの座席に座ってもらえますか? 髪は毛先を揃えるだけかな? ちょっと髪をほどくね。」


店の奥から妻が飲み物をもってやって来た。うちのお店のサービスとして飲み物とちょっとした菓子をお出しすることにしている。それもいい評価を得てお嬢様が多くいらっしゃるようになった。


「あら、まあ!綺麗な御髪ですこと!」


妻が紅茶を出しながら、解いた髪をみて感嘆の声を出す。

たしかにさっき結んでいる髪を見た時も綺麗だと思ったがこうして櫛でとくと丁寧に手入れされているのがわかる。そして、この子はどこかの貴族のご令嬢ではないかと思い始めていた。


「あの、それが働くことになったので長いのが邪魔でバッサリ切りたいんです! 長さはそうですね……あ、あの子くらい!」


「「ええっ!!?」」


彼女が指したのは見本で飾っているヘアーカタログで少年用のもので髪形は短髪になっている。

最近では短い髪形も人気が高い。しかし、それでも肩にかかるくらいが限界だ。それ以上短くしてしまうとさすがに周りから奇異の目で見られることになる。



「あんた、ちょっと……お嬢ちゃん、少し待っていてもらえるかね。」


妻がいきなり腕を引っ張って店の奥へと連れてこられた。


「おい、仕事中だぞ。」


「あんた、あの子。たぶん貴族の娘だよ。」


「だろうなあ、でもお客さんとして来ているし追い出すわけにもいかないだろう。」


「そうなんだけどねえ。あんな綺麗な子が髪を切って働くって、何か訳ありなんだろうねえ~。」


「それは俺らにはどうにもできないだろう、とにかく思い切った髪形にするのを止めるのが先決だ。」


「頼んだよ。」



俺は店の中へと戻って行った。


「すみません、お待たせしまして。」


「いいえ、大丈夫ですよ。あの、さっきの髪形はまずかったのかしら?」


やはり、俺達の態度がおかしいのに気付いたのか遠慮がちに聞いてきた。


「そうですね。町の娘たちでも今の主流は肩先までなんですよ。それより短くと言われてしまったので少し驚いてしまって…すみません。」


「まあ、そうでしたの? こちらこそすみません。よく髪の流行とかわからなくて…そうねえ、じゃあどうしようかしら。」


「こういうのはどうでしょう? 肩にかかるくらいまでにしてカールをするとふんわりとした感じでお客様に似合うと思います。」


「あ、それ、ヒロインと被るからダメ。」


「ひろいん?」


「あ、すみません! こっちの話です。じゃあ、肩より10cmくらいの長さに切ってください。そしたらポニテでも団子もできるし、今よりは楽になるから。」


「ぽにて、だんご……? あ、はい。よくわからないけどその長さに切ればいいんですね。」


「はい! よろしくお願いします。」


彼女はにっこりと鏡越しに微笑んだ。その可憐さに思わず赤面してしまう。いや、私には妻と子供もいるんだぞ!何をドキドキしているんだっ。


「い、いやー、それにしても綺麗な御髪だ。この状態なら高い値が付きそうだ。」


なんとか心臓を落ち着かせ、仕事モードに切り替える。


「高い値? 髪の毛って売れるのですか?」


なにやら目を輝かせているのは気のせいだろうか。


「はい、売れますよ。 貴族の婦人たちの付け髪にしたり劇用のカツラなどに使うためいい状態の髪ならば売れます。…少し、お金に困っている娘たちは髪を伸ばして売りに来たりしています。」


ウチも客商売だから、タダで切ってやるわけにはいかないがこうして髪を売るという目的できた娘たちには無料で切ってやることにしている。新しい髪形の研究もできるから逆に俺としては助かっている。


「では、私も髪を売ります! 」


「え? それはかまいませんが……いいのですか?他の方に自分の髪がつかわれるのですよ?」


「全然かまいませんわ! 切って捨てるものなのですもの誰かに使われるとか気にしません。それでお金になるのはありがたいですわ!」


「は、はあ……。かしこまりました。」


なんだか令嬢にしては現実的な考えを持っているな。令嬢ではないのか?

そんなことを考えつつ髪を切っていった。


「こ、こんなにもらえるのですか!? しかもカット代金がいらないなんて申し訳ないわ。」


「いえいえ、かなりの上等な御髪なので高値で買い取ってもらえるのでこっちも助かるんですよ。あと、髪を売る方にはカット代は頂いていないんです。」


「そうなのですか、わかりました!今日はありがとうございます。おかげで頭が軽くなって気持ちがいいですわ。また来ますね!」


「はい、どうぞ御贔屓に」


不思議な娘だったが、また来てくれると聞いて今度はどんな髪形を要求してくるのか楽しみになった。




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