17話 アレクからの手紙を受け取りました
「よしっと、とりあえずこんなものかな。」
アレクが出かけてからまず掃除から始めた。全部を一気にやるのは無理なので今日はよく使う場所、サロンとキッチン、ダイニングルームを重点的にやることにした。
ちなみに、アレクの寝室と執務室は入るなと言われている。
せっせと働いていたらあっという間に時間が過ぎていたようで、ひと段落着いた頃にはお昼を少し回っている時間になっていた。
「お昼と思ったらとたんにお腹が減ってきたわね。作るのもいいけど、夕食の材料を買いながら街に行ってそこで食べるのもいいかも。」
そんなことを考えながら私室で町娘風の洋服を着る。鏡に向かって髪を櫛ですいて結びなおす。ヴィクトリアの髪の長さは腰くらいまであるので結構、面倒くさい。今までは侍女たちにさせていたのだけどこれからは全部自分でしなければいけない。
「う~ん、いちいち纏めるのも面倒だし切っちゃおうかしら。」
この時代の貴族の令嬢たちにとって髪の長さは大事で腰まであるのが当たり前だった。しかし、今のヴィクトリアは令嬢ではないし前世でもその職業柄、髪形をショートにしていたため、切ることに抵抗はなかった。
「よし! 切っちゃえ。町のヘアーサロンで切ってもらおうっと。」
準備を終え玄関へ向かうと、玄関先に人影が見えた。
あれ? 誰だろう? アレクからは誰かが来るとか聞いてなかったんだけどな。少し警戒しながら玄関をそっと開けた。
「おー、いたいた、ちーっす。副団長様からの使いできましたぁ~。」
玄関先に立っていたのはアレクと同じ騎士服を着た茶髪のなんだか軽そうな男がへらへらと笑いながら話しかけてきた。
「あの、どういったご用件で? 」
「副団長からこれを君に渡してほしいって言われてさ。」
と、手紙を渡された。何か急ぎの用なのか慌てて中を確認した。
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ヴィクトリア嬢へ
すまない。急だが今夜、客人をお連れする。
君はいつもどおり普通にしていろ。
アレク
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よほど急いでいたのか、かなり字が乱れている。
「いつもどおり? 普通ってどういうことかしら。」
言葉が短すぎて状況がよくわからないが、今夜はお客様がいらっしゃるのか。
「あ、そういうことか!」
私は、まだ新米メイドだからお客様に粗相をすることがないようにとの忠告だったのか!
なるほど、それではちゃんとメイドとしての仕事を果たさなければ!
「ねえねえ、君、かわいいね~、なんかどっかで会った事ある? 俺、ロイって言うんだけど、今度どこか遊びに行かない?」
「あ、まだいたのですか。副団長様にお手紙の件しかと承りましたとご伝言お願い致します。」
「えっ、俺の話。無視?」
「お帰りはあちらからですのでどうぞ。」
なんだか肩を落としながら帰っていく騎士を見送って私も屋敷を出て街へと向かった。
「まずは髪を切って、それから本屋に行こう。」
街での用事を済ませたらお客様をお招きする準備をしなくちゃね!
俄然やる気が湧いてきた。
そしてその時、私は気づけなかった。アレクの手紙を大きく読み間違えていることに。
そして間違えた結果、その夜、大騒動に発展するとは思いもしなかった。