11話 私の就職先が決まりました。
「今、なんて言いました?」
今までの話の流れでどうしてそうなったのか理解できずに聞き返した。
「お前、急に耳が悪くなったのか? どうしても働きたいのならこの家で働けと言っている。」
「どうしてそうなるの!?」
「俺にとっていくつかメリットがあるとだけ言っておく。まずは1つ、さっきも言ったように今、この家に使用人がいない。一人暮らしをしてきたとは言ったがさすがに騎士団の仕事をしながらこの屋敷の管理は俺一人では難しかったからな。遅かれ早かれ誰かを雇うつもりだったのだが、雇うにも身元が確かな奴しか雇えない…… 俺の立場上、な。 それでお前が炊事洗濯できるっていうのだからやってもらおうじゃないか。 できるならだけどな。」
最後は不敵な笑みを浮かべながら私を見つめた。
「できるにきまっているじゃない! これくらいの広さなら簡単よ。」
「ほーう、それは頼もしいことだな。で、あと1つはお前さんを家に帰すにしても野に放つにしても何かしら問題を起こしそうなんでな。騎士団の副団長としては面倒事が増えるのも仕事が増えるのもごめんなんだ。それなら俺の目の届く範囲にいてもらった方がいい。」
なんだかすごく馬鹿にされている気がするのは気のせいかしら。
それにしても今日あったばかりの女にほいほいと仕事を斡旋するものなのだろうか。
なんだか不思議な男だ。
騎士服は本物だし胸の国章や勲章は偽物には見えない。
さて、どうするか。
「…… 父に見つかったらあなた、ただではすまされないわよ。いいの?」
娘の私が言うのもなんだが、お父様はかなりの過保護だった。その父親をあんなに怒らせてしまったのは今回が初めてだ。
今は、ちょっとした細工で私が自分の部屋にいることをカモフラージュしているがそれも明日になったらバレるだろう。そうなったらあのお父様の事だ、草の根分けてでも探しに来るだろう。
「ああ、それは問題ない。メイスフィールド宰相とは古くからの知り合いでね。そこら辺は俺がうまく話をつけておく。」
「それは、おかしいわ。お父様からあなたの名前を聞いたことがないもの。家にも来たことがないわよね?」
「あー、それはまたおいおい話す。とにかく親父さん関係は俺が何とかする。で、どうする? やるのかやらないのか。」
何だか私の都合のいいように話が進んでいる気がするけど、身の危険を感じたら最近の私の伝家の宝刀になりつつある『逃走する』を使えばいいか。
「わかったわ。ここで精一杯働かせていただきます!」
もう、こうなったらとことん突き進むしかない。
あの断罪イベントで乙女ゲームは終わっているのだ、これからは私の好きなように生きてやる!!
「それはよかった。―― ああ、そうそう。最後に大事なこと聞くのを忘れていた。」
そう言ってアレクは向かいのソファから立ち上がって私の隣に立った。
一瞬の事だった。
アレクが帯刀している剣がいつの間にか抜かれて私の首に刀身が当てられる。
「お前、何者だ?」