北の町サガンドの支配者
翌朝、目が覚めると顔を隠せる帽子を深くかぶり馬車を操って街道を進む。万が一アリー達に見つかっても自分だとばれない様に気を使っていた。
そのまま進むとアリー達の馬車が止まっているのがみえるが、食事でも摂っているいるのだろうと行き過ぎると、通り過ぎる瞬間にアリーの声が聞こえた。
「テイちゃん元気かしら‥‥」
そう言っているように聞こえ、一瞬ドキっとした。「僕はここだ」などと言えるわけもなく、出て行った所で迷惑をかけるだろうことは予想できたのでそのまま通りすぎて先を急ぐ。
買った地図によればこの先は二手に分かれ、左に行けば北の町方面、右へ行けば常時クエストの発生している洞窟であるらしい。秘魔の洞窟と書いてあった。
僕は当然左に曲がり北の町を目指す。
その後何事もなく町について、何か商売が出来ないか町の様子を伺うために酒場に繰り出した。町の事を知るには酒場が一番なのだ。そのいかにも田舎の酒場という風情のぼろい木造の扉を開けて中に入ると全員がジロっとこちらを振り向く。
小さい町なのでよそ者が来たという情報はあっという間に広まるものなのだろう。
「こんちは」
「あんた、よそもんだね」
カウンターの椅子に腰を掛けてマスターに話しかけるとマスターは俺をすこし迷惑そうに見て顔を近づけて言う。
「はい、帝都からきました」
「‥‥悪い事は言わない、早くこの町から出る事だ」
「は?そんな‥‥」
「おい!マスター!余計な事言うんじゃねーぞ!!」
僕とマスターが話していると突然後ろからデカい声がして遮った。
「は、私はなにも‥‥」
明らかにマスターはその声の主に怖れをなして、僕の前から足場やに遠ざかりつつ、シッシと手で合図をして店から出ていけという。
「‥‥」
僕は絶句して乱暴な事をいう奴の顔を拝んでやろうと思い振り向くと、モンスターみたいな凶悪な面構えのオッサンが立っていた。赤ひげの剛毛が乱雑に伸び、口に葉巻を不味そうに咥えている。
僕が一瞬ギョッとしていると至近距離から葉巻の煙を僕の顔に吐きかけてくる。
フーーー
「う、くさい‥‥」
「なんだガキ、上等じゃねーか」
「いや、そんな‥‥ケホ」
「俺様の町で喧嘩を売るとはいい度胸だ、外に出ろ」
「いや別にそんなつもりは、ケホ‥‥」
「良いから来やがれ、それとも小便でもちびったか?」
その獣の言葉に店内にいる酔っ払いどもがゲラゲラ笑う。
「そんな、喧嘩なんてする気もないですし」
「はぁ~~、なんだこのガキは?カーちゃんのおっぱいが恋しいってか?」
また酔っ払いがゲラゲラ笑う、この脈絡のない喧嘩煽り文句は特に意味は無いようだった。
「判ったよ、出ていくよ」
「おう、待ちな」
「まだ何か?」
「勝負しろっていってんだよ」
「それにどんな意味が?」
「意味は俺が決めてやる、お前が知る必要はない」
「なんだよそれは、酷いね」
その髭モンスターが滅茶苦茶言うので段々腹が立ってきた。
外に出ると髭もじゃがやたらとデカいバトルアクスを手下から受け取る。
「俺様が勝ったらお前のあのデカい馬車は頂きだ、いいな?」
つまり、そういう事だったのだ。決闘で勝負をして力づくで他人のものを奪い取る。そういう野蛮なルールで生きて来た馬鹿者だった。
「いいよ」
僕はそっけなく言った。どうせ、金ならいくらでも貯金があるのだ。仲良くなれるのならわざと負けてやっても良いとすら思えた。大きく儲けるための必要経費という考えもあるのだし。
「おし!ならもらった!それでお前はこの町から出ていくんだ」
「は!?」
いくら何でも無茶な言い分だった、奪い取って追い出すなんて強盗じみている。それで愈々むかっ腹が立ってきた。さっきまで負けてやっても良いと思っていた事自体許せなくなってくる。この馬鹿には絶対に負けたくないと思う。