Sランク
翌朝起きると僕はミミを抱きしめていた。
慌てて離し、急いでシャワーを浴びる。全身に染み込んだミミのフェロモンを消す必要があった。
僕が着替え終えると、眠そうな顔のミミが起き上がる。
「もう行くの?」
「そう、だけど今日はその前に他に行きたい場所があるんだよ、さ、着替えて」
昨日、この町に入った直後に気が付いたのだけど、冒険者ギルドのようなものがあるのを見つけたのだ。
その看板には単にギルドとしか書いてないので商工会ギルドか冒険者のかは判然としなかったが、少しでも調査の手がかりになればと思い、今日は朝から訪ねてみようと考えて居たのだ。
「こんちわ~」
つい、いつもの調子でそのギルドの扉を開けると中に居た大勢の武装した冒険者らしい魔族や獣人族が振り返る。
「あ、どうも」
やっちまったなぁと思いながらカウンターに向かい受付らしい女性に話しかける。
「あなた見ない顔ね」
「はい、実はこの町は初めて来たもので」
「そうなの、で、登録するの?しないの?」
「登録で」
差し出された登録用紙に自分の属性等を記入すると、最後の欄に命の保証はしない事に同意するとある。勿論そこに自分の名前をサインして提出した。
「えーとイジンさん、ギルド未認定の実戦経験者、属性は剣士ね」
「はい」
「では実技試験をするので裏の検定場へどうぞ」
やはりこの世界でも紙だけで登録というワケにはいかないようだ。表の世界同様に実技試験まであって少し面白かった。
その検定場にはベテランの試験管が居てタイマンで勝負をするという事らしい。周囲には大勢のギャラリーが囲んでいて試験の様子を眺めて談笑している。中には検定者の友達もいるようだ。
その試験待ちの列、僕の前には新米の魔法使いと剣士が並んで立っていて、少し緊張しているのか震えているようだ。
「次、ジャスト君、ここへ来て攻撃してきなさい」
「はい、行きます、ファイアーボム!」
ボシュ‥‥
威力は無いが一応は無詠唱で発射できていて、僕の目から見ても合格だった。だが。
「不合格!次!ジェイコミ君、ここに来て攻撃しなさい」
「はい、行きます‥‥う~どりゃぁー」
ガキン!ボキ‥‥
ジェイコミ君が剣を打ち込むと、試験管の太刀払いであっさり剣が折れる。
「不合格!次!イジン君、君は経験者とあるな、ここに来て攻撃しなさい」
「はい‥‥あのなぜ前の2人は不合格なのですか?」
「うん?おかしなことを訊くね、あの程度でモンスター狩りに行けば死ぬのは確実だろう?」
「なるほど即戦力という事ですね、では適当に行きますので宜しくお願いします」
「ほぅ、自信があるようだね?では、私も本気になろう」
そう言うと試験管は呪文を唱え多重強化バフを掛けた。相当な上級魔法だったが、それで僕は安心した。
「では行きます、武技乱撃」
バシュシュシュシュシュ!
ドガガガガガガガ!ギィン‥‥
手加減して放ったのだが、軽く1発入ってしまい試験管はしんどいようだった。何か申し訳なくなる。
試験会場周辺では轟音を耳で塞ぐギャラリーの蒼白な顔が見えた。
「ご、ごめん、ちょっとやりすぎた様だ」
「これしき問題は無い」
流石試験管だ、直ぐに回復し始めていた。
「うむ、ランクS、合格だ」
「おお!ランクSが出たぞぉ!」
「なんだって、お祝いしなくちゃ」
試験管の言葉に周りのギャラリーが大騒ぎし始める。
「きみ!イジン君って言ったね!そのしっぽからするとウルフ族だよね?」
「やったー!ついにSランクがやってきたぞー!」
「Sランク!Sランク!」
ギャラリーがあっという間に取り囲み揉みくちゃになりそうになった。
「ご、ごめん僕やっぱり‥‥」
あまりにも騒ぎが大きくなってしまい、辞退しようかと思ったが周りのお祭り騒ぎに掻き消えた。
「Sランク!Sランク!」
「Sランク!Sランク!」
「Sランク!Sランク!」
「クスクスクス」
大合唱に交じりミミが魔法で笑っているのが聞こえてくる。




