ミミ
翌朝、先日の風呂で洗って干して置いた服を着てさっぱりしたミミとミ国を目指し宿を出る。
途中にあちこちの酒場に寄り人族のうわさを聞いて回るが一向に手がかりも掴めないまま、旅程は進んでいった。広大な魔王都をやっと出る段になり、城門そばの蜥蜴屋で蜥蜴車を買う。
タタタタタタタ‥‥
城門を出ると蜥蜴がリズミカルに地面を蹴って走り出す。
車を引っ張り快走する姿に初めは違和感があったが、慣れてくるとこれはこれで可愛らしいと感じるものだ。それに蜥蜴はやたらとタフで疲れ知らずである。
いざ、城門をでるとそこは地獄のような世界だ。表の世界では滅多に見る事がないような巨大モンスターがうようよしている。昼でも暗い太陽には慣れてしまったが、モンスターだけは別だ。やはり3人の事が気になる。こんな怪物だらけの世界にやってきて無事でいられる保証はどこにもない‥‥。
街道を暫く進むと車を引っ張り走っている蜥蜴が鳴きだした。
「グワ、グワ~」
「ん?腹でも空いたのかな」
その時突如、砂交じりの荒地から大量のデスワームが湧いてきて蜥蜴に襲い掛かった。
ズバァ!
「な!飛翔撃!」
咄嗟に魔法剣を抜き剣技を放つ、その後乱撃に入った。
バシィ!ザザン!バシュ!
柔らかいモンスターだったのであっという間に片付いた。
「急に飛び出すなんて‥‥驚いたわ」
パク‥‥ムシャムシャムシャ
見ると、蜥蜴がワームの新鮮な死骸を喰っていた。
「ああ、そうか、旨いか良かったな‥‥」
僕は複雑な気分になって車に戻るとミミがクスクスと笑っていた。
「クスクスクス‥‥」
「面白かったかい?」
「うん」
流石地元の子なのだろう、こういうのは見慣れているのかも知れなかった。
蜥蜴がワームを食べ飽きたらしく、特に綱もひっぱらないが自分で歩き出す。
タタタタ‥‥
「そう言えばまだ訊いてなかったけれど、ミミは何処の国の出身なんだ?」
「ミ国」
「‥‥それなら丁度いいな」
凄い偶然もあるものだと感じたが‥‥これもある種の限界突破のパッシブスキルの影響なのだろう‥‥そんな気がしてきていた。
そんな事を考えていたらあっという間に隣の町に到着した。小型の蜥蜴車だと移動も早いのだと実感する。
その街道町は魔王都の側にあるからか、小さいながらも賑わっていた。そんな町の中に蜥蜴車を停めて酒場に聞き込みに入った。
「こんちわ」
つい人間界の酒場のノリで挨拶して扉をあけると客の獣人族が振り向いた。
「‥‥おっと、これはこれは」
昼間から呑んでいた熊みたいな獣人族の男が鼻をひくひくさせ、ミミを見て興奮し始めた。
「いや‥‥」
ミミが僕にだけ聞こえる声で訴える。
「大丈夫だから」
「なにぃ~?何が大丈夫だって~?」
僕が答えると、勘違いした熊が立ち上がって絡んで来た。
「いや、独り言ですよ」
そういって脇を素早く通り過ぎてカウンターに2人で座ってしまう。
「マスター、ジュースと酒をくれ」
そう言ってカウンターに銀貨一枚を転がす。
「おい!お前、その女をどうやって手に入れた!?」
俺の隣に座った熊がしつこく熊が絡んで来た。
「どうって言われても、この子は僕の友達なんだよ」
「嘘をつけ!俺様の鼻は騙せないぞ、そいつは半魔だろうが」
「え?なにそれ‥‥」
「いや‥‥」
熊と話しているとミミが嫌がる。
「何か知らないが絡まないでくれ」
「ケッ‥‥折角忠告してやろうと思ったのによぉ、精々気をつけな」
「はぁ?そりゃどうも」
男はそれっきり店を出て行った。
「マスター、僕なにか気に障る事でもしましたかね?」
「いや‥‥なんていうか」
マスターはミミをちらっと見て口ごもった。
「お兄さん知らないのですかい?」
「いや、知らんが」
「その子は希少種ですよ」
「はぁ‥‥?」
マスターが僕に耳打ちするように言うが意味が良く分からなかった。
「気を付けないと直ぐに攫われます」
親切なマスターが教えてくれた。
どうやらミミは特別な種族だという事らしい。




