仕事はじめ
「はっはっは、いや、全く素晴らしいですな」
食事をしながら少女救出のあらましを語ると村長以下同席した村人も大喜びで聞いていた。
「貴方のような立派な冒険者が無名だなんて信じられませんわ」
「いえ、元冒険者ですから‥‥」
「そうだ!さっそくギルドへお礼をしに行かなければならんな!」
「そ、それは待ってください」
「へ?」
僕は思わず大声で言ってしまった。ギルドに報告なんてされたら、無免許の僕が勝手な事をしたという事がばれてしまう、それに僕が最弱の笑いものだという事も‥‥。
「いえ、良いんですよ、今回の事はギルドを通して依頼されたわけでも無いわけですし‥‥」
「ギルドへは昨日依頼を出しに向かいましたが‥‥」
「はい‥‥?」
正式に依頼としてギルドに登録されいるだろうという事だった。
「村人少女3人救出の為、山賊討伐隊の依頼をだしましたのよ」
「そ、そうなんですね‥‥」
村長の奥さんが言う。
「でも今回の件は、僕がなりゆきでやったのでギルドとは関係ありませんし」
「確かに仰るとおりですね‥‥では、ギルドの依頼は取り下げますのでお礼として半額差し上げたいと思います、それでよろしいでしょうか?」
「いや、僕はそんなつもりでやったわけでは無いですし‥‥」
「それはいけません、貴方が命を掛けて助けてくれたのに謝礼もしないなど我が家の恥になります」
村長はそういうと、ギルドへの依頼の半額100金貨を手渡す。
「こ、こんなに‥‥」
「これで丁度半額です、この度は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、こんなに貰ってしまって‥‥」
今までの冒険者としての最高依頼料の分配金は10金だったので、とてつもない大金に思えた。
「なんとも謙虚な方だ」
「いえ、僕なんてそんな」
そう、僕は最弱なのだ。なんの役にも立たない元冒険者。
僕はずっしりと金貨がつまった袋を腰にぶら下げて村を出る。救出されえ子供達やその家族がいつまでも、街道の遠くに僕の馬車が見えなくなるまで手をふっていた。
「冒険者って良いものだったんだな‥‥」
まぐれではあるが、自分が成し遂げた事の素晴らしさに感動していた。
「これからどうしよう‥‥」
少々の金を手に入れても僕は行く当てのないはぐれ者だった。
金はあるけどビジョンがない。僕は明るい未来を想像するという習慣が無かった事にその時気が付いた。
「なんだ、僕、こんなに酷かったんだな」
それで、冒険者以外にも許されている装備をもち金で揃えようと考える。
・ダガー
・皮の鎧
・小手とスモールシールド
・薬草、毒消し、万能薬‥‥
ざっと考えただけで100金を超えそうだった。
「これでは、また乞食のような生活に戻ってしまう‥‥」
結局、それら全てを諦めて今よりマシな服を買い着替え、安宿に泊まった。鏡すらない安宿だけど、川の水で体を洗ったり馬屋で寝るよりは遥かにマシなのだ。
それで残り90金。大事に使わないとあっという間に全部なくなる気がして少しあせる。そこで仕事を思いついた。誰にも雇って貰えなくても自分で仕事をすればいいのだ!と。おでこの痣は帽子で隠せばいいし、輸送業をやれば多少は儲かるはず‥‥。
この前帝都を出る前に帝都では今、小麦が不足しているという話を聞いていたのを思い出した。
馬車で農家を回り余剰の小麦を90金全部買い込む。大した量では無いけど今ならまだ帝都で買い取ってもらえるはずだった。