長老
カチャの言う、西天の森というのはつまりこの世界の遥か西に存在する孤島の事だった。
その島、には元々エルフ族だけの純然たる島だったので西天と言われているらしい。エルフ族にとって人族というのは対等ではない穢れた種族という意識が強い。
島に着くと、さっそくエルフ族達の好奇の目で監視されることになる。そこはかとなく警戒心を持つ目で見られているのは、鈍感な僕でも判った。避難している洞窟の中で監視注目されるのはキツいものがある。
「歓迎されてはいないようだね」
「当然よ、イジン様がいくら救世の天人であっても見た目は人族に変わらないのだから」
「そうか‥‥何がそんなに気に入らないのだろう」
「穢れているからだわ」
「というと?」
「エルフの森には人族のような犯罪者はいないの、誰もなにも奪わないし、傷つけない、ここではお金が必要ないの」
「‥‥そういう事か、人族が野蛮だというのは確かにその通りかも」
エルフ族が避難している島の洞窟の奥に進んで行くと小さいお社みたいなものがあり、周囲には神官のようなエルフ族が立ち並んでいる。その前でカチャが一礼する。
「主様、天人様をお連れしてまいりました」
「カチャーラ、ご苦労だった」
神官が社の扉を開けると可愛い声がして中から金髪金目をした、ただならぬ雰囲気を漂わせた幼女が出てきて僕はあっけに捕らわれた。
「?」
「我は長老のジェミール」
そのセリフと幼女の見た目や可愛らしい声が合わずに茫然とし、ノロノロと帽子を脱ぎながら挨拶をする。
「‥‥これは初めましてイジンです、こっちは付き添いのアリー」
「そうか、イジンと名乗るのか」
「‥‥はい」
幼女の姿の長老が何を言いたいのかなんと無く分かった。僕の本名などお見通しという事なのだろう。
「よろしい、ではこちらに来なさい」
「はい」
長老がチビなので、僕は長老の前に行くと自然と跪く。
「目を見せなさい」
「はい」
下を向いて綴じた目を開けると眼の前に長老の丸っこい顔がある。長老が小さい両手で僕の頬を触ると温かく柔らかい感触が伝わって来た。同時に周囲の神官達がどよめくのが聞こえてくる。
「ぉおお‥‥主様」
「なんと‥‥」
その可愛らしい手を離すと静かに言った。
「ふむ、開放の儀は上手くいったようだな」
「‥‥」
「それでだ、一つ頼みがあるのだ」
長老がそう言うと周囲の神官がまたざわつくが、意に介せず長老は続けた。
「我々の森は今突如異界から湧いた怪物に占拠されておる」
「はい」
「それを排除してほしいのだ」
「‥‥僕にそれが出来ますか?」
「ほっほっほ、お前に出来なければ他に出来るものはおらん」
「そう‥‥ですか」
「とっくにお前の生来能は開放されておると言うのに、知らんのはお前自身だけだ」
「生来能?ですか」
「それはユニークスキルの事です」
と、カチャが横から教えてくれた。
「ふむ、お前のユニークスキルは限界突破だったな」
「はぁ‥‥」
そういえば僕は自分のユニークスキルなんて忘れていた。それはレベル10で開放されるものなので1の僕には無関係だったのだ。
「良いか?今のお前はレベル70はあるのだ」
「はい?」
「70だ」
「‥‥」
やっぱりこの幼女は適当に言っているのではないかと疑念が湧いてきた。レベル1以下の僕が70のわけがない。それで思わず笑ってしまった。
「ははは、ご冗談」
「これ!主様の前でそのような態度は控えよ!」
僕が笑うと神官の一人が叱る。でも、冗談にしか聞こえないので僕は手をふって答えた。
「僕が70なんてありえませんよ、やっぱりこの島に来たのは何かの間違いだったのかと思います」
「お前は我らを見捨てるというのか?」
急に幼女が涙目でウルウルさせながら訴えてきて僕は狼狽えてしまった。
「いや、そんな急に言われても、なんていうか信じられないし‥‥」
「見捨てるの?」
「う‥‥そんな事、し、しないよ」
「良かった!流石天人だ」
「え」
「では、頼むぞ」
「‥‥はい」
まんまと嵌められたような気がしたがOKと答えてしまった以上、もう後には引けなくなってしまった。




