英雄
「お兄ちゃん有難う」
猿ぐつわと体を縛っていたロープを外してやると、3人の少女は礼をいった。
「それで、3人は何処から連れてこられたんだい?」
「わからないの‥‥」
話を聞くと、3人とも同じ村の出身だという。夜半に賊に襲撃されて攫われ、そこから一日中馬車に乗せられてた。外の景色が見えないので今どこにいるのかすら分からないと。
「困ったな」
一応まだ、馬車の馬は元気なようだったので狭い山道をそのまままっすぐに道を進む事にした。
そして、あてずっぽうで山道を降りて、人里の方に向かう。
「あ、ここ知ってる!」
翌朝、着いた里の風景を見て最年長の女の子がいう。
「よかった‥‥それじゃここがどこか判るかい?」
「うん、隣のジジン村よ、うちらの村はここから直ぐ先なの」
彼女の言葉通り、村を抜ける街道をそのまま行くと数時間もせずに隣村に到着した。村に着くと、賊に襲撃された痕跡はあるものの村人も何とか無事な様子だ。
「あそこお家!」
3人が馬車から飛び降りて各自の家に走り出す。
「よかった‥‥」
僕は初めて人助けができたような気がしていた。これまでは、他人に助けられてばっかりでろくに恩返しもできた記憶がないのだ。
しみじみとして居ると、連絡をうけた村人があつまってきた。
「あ、どうもこんにちは」
「あんたが助けてくれたんだね?」
「はい、なりゆきで」
「いや、なんとお礼を言っていいか‥‥そうだ、村長にあって行ってくれ」
村人に連れられて村長の家に向かい、大きな門構えの立派な家に案内された。
「これはどうも‥‥おや‥‥」
報告を受けて家から出て来た村長が僕をみてギョッとした。あまりにもボロボロの姿をしていてとても勇者には見えなかったのだろう。
「まぁ、中にどうぞ」
それでも、僕は中に誘われ客間でもてなされた。村では高級だと思われる珍しいお茶をだしてくれる。
「お名前をお訊きしても良いですか?」
「ぼ、僕はテイジンといいます、元冒険者です」
「そうですか、はて、冒険者証はお持ちではないようですが」
冒険者証は追放された時にギルドに返却してしまったのだ。でも、首になった等とは言えず困ってしまう。
「はぁ、冒険者はやめましたので‥‥」
「へぇ、そうなんですね、今はどんなお仕事をされているのですか?」
「いやその‥‥」
おでこに前科者のような痣がある奴なんて雇ってくれるわけがないのに、なぜそんな事を訊くのか‥‥僕は少し憮然となりながらも正直に言った。もう失うものは何もないのだ。
「この痣のせいで、仕事にありつけないんですよ」
おでこの痣を指さして言う。
「へぇ?どの痣ですか?」
「ここですよ」
「はて‥‥はっはっはっは、これは一本担がれました」
村長は困った顔をしたあとに笑った。僕が変な冗談を言ったのだと思ったのだ。
「ははは‥‥なんか、ごめんなさい、それじゃそろそろ出ますので」
僕は少し空しくなってとっとと出ると言う。
「まぁ、そう急かずに、これから我が家で一緒に食事でもどうですか?」
「それはありがたいのですが‥‥」
グゥ‥‥
そこで盛大に腹がなってしまう。考えてみたら昨日からほとんどなにも口にしていない。さっき飲んだお茶で余計に腹がへっていたのだ。
「では、いま準備しますからお待ちを」
なし崩しに会食する事になってしまった。