エルフの巫女
救出したのは女の子だった。それもこの国では非常に珍しいエルフ族の女の子だ。
初めは気が付かなかったのだが、怪我をしていたので介抱するために衣服を脱がした時に容姿が人族とは違う事で察した。
本人は落馬のショックで気絶していた為、アリーの部屋で暫く寝かせて様子を見る事になったのだが‥‥。
翌朝彼女が目覚めると意味不明なことを言い出した。
「私は西天の森の巫女である」
「巫女さん初めまして、あたしはアリーよ」
「慣れ慣れしいぞ人間」
「はぁ‥‥」
終始偉そうに振る舞い、助けられた恩なぞ微塵も感じていない様子だった。
「変な子なの」
「そうですか」
アリーが言うのだから相当変わって居るのだろうと思った。だけどその後、僕が近寄ろうとすると扉の前に行くだけで「下郎は近寄るな!」と騒ぐのでろくに話もできない。
変わっている所ではない。
それに異様に勘が鋭いのか側にいくだけで男と判るようだ。
「失礼します、巫女様」
「入っていいぞ」
「はい‥‥」
カチャ‥‥パタン
「私は空腹だ、早く食事をもってこい」
「あ、そういえば何も食べてないのでしたね、何か好きなものはありますか?」
「うん、好物を訊くのは良い心がけだ、私はハチミツと木の実が好みだ」
「ハチミツはこの町でも簡単には手に入りませんので木の実をもってきますね」
「なんだハチミツもないのか、残念な町だな」
偉そうに批判までしてのける。
「それで、巫女様のお名前は訊いても?あたしはアリーよ」
「ん‥‥ではお前に特別に教える、私はカチャ―ラだ聖なる巫女の名を頂いている」
「ではカチャ―ラ様、ここにやってこられた理由を教えて頂けません?」
「‥‥それは」
カチャ―ラは食事の手を止めうつむいて黙ってしまった。なにか言い難い理由があるようだ。
「あ、言いたくなければ良いのですよ」
「うん、お前は優しいのだな‥‥ではお前にだけ教えよう」
カチャ―ラが言うには、船で移動中に暴風で船が難破して座礁、なんとか陸地にたどり着いたら今度は人族の人攫いに捕まり、隙をついてようやく逃げ出したと思ったらモンスターに追い回されたという。
「仕方なくここに来てやったのだ」
という、事らしい。
本来巫女は未来を透視できる存在なので、災難に巡りあう時点で巫女失格と考えられていて、それは彼女にはとても不名誉な事らしかった。
「それはお可哀そうに‥‥」
「か、可哀そうではない!ここに来てやったのだ‥‥」
あくまでもここに態々来たという設定になるらしい。
「そうですか?ではどのような理由で来られたのですか?」
「そ、それはだな‥‥まだ視えないのだ」
「そうですか、では視えたら教えてくださいませんか?」
「うん、お前は良い人間だから特別におしえてもいいぞ」
そんなカチャーラも3日目になると部屋に閉じこもっているのが我慢できなくなったようで外に出たいという。
「外を見てやってもいいぞ」
「散歩にいきますか?」
「うん」
段々とアリーにだけは心を開いてきて、2人は仲が良くなっていった。
「よぉアリー、おや、その子は?」
町を歩けば当然大勢から好奇の目で見られたが、カチャ―ラは胸をはって堂々としていた。
「私の僕に気安く話しかけるでないぞ」
「え?‥‥」
アリーが答えるよりも早くカチャ―ラが叱るので皆ドン引きしてしまう。
そんな時に僕は初めてカチャ―ラにであった。
「やら、元気になったみたいだね」
「お前!気安く‥‥」
「うん?あはは、僕はイジンだよろしくな」
「‥‥お前、その目‥‥」
カチャ―ラは僕の目をみて固まっていた。
「え?目‥‥?それじゃ、僕はこれから少し仕事で出るから夕方また酒場で」
「はい、イジンさん待ってますね」
このころ、仕事を終えると酒場に行って皆と呑むのが習慣になっていた。
「あの者は、イジンとか言ったな?」
「はい、イジンさん、この町の市長さんよ」
「お前はあの目を見て気が付かないのか?」
「え?‥‥綺麗な目ですよね」
「‥‥そうか、気が付かないのか‥‥」
カチャ―ラは残念そうに言った。
「その酒場に行けばイジンに会えるのだな?」
「ええ、そうですね」
「そうか、なら私も連れていけ」
「それはもう、皆さんに紹介しますよ」
「いや、イジンだけで良い」
「はぁ、そうですか」




