勝利
戦闘が終わりそばに近寄ると、少し離れた場所に冒険者が2人倒れていた。そこに行き2人に超高級万能薬を飲ませると、石化と毒から回復して元気になった。何とか間に合ったようだ。
「ありがとう、ありがとう‥‥」
その2人はひたすら礼を言う。その後、アモンに挨拶をして一目散で馬に乗って帝都方面に走り去った。
「随分慌てていたわね‥‥」
「それにしても謝礼も受け取らないとは、イジンさんも豪気ですね」
「いや良いのですよ」
アモンが不思議がる。
今の僕は100金くらい貰っても全く嬉しくないので、それならいっそただの方が気分が良かったのだ。
「一度町に戻りますか?」
「そうだな、俺も必殺を限度の2回使い切ってしまったので今日はもう無理ができないし」
アモンがそういうとそれで決まりだ。僕たちは馬車で帰還することにした。
だが、異変は直ぐに起こった。馬車をUターンさせて少し走り出したころに後ろから巨獣が迫ってきているのが見える。
ドドドドドド‥‥
「え?ん?」
それはさっき倒したばかりのバジリスクの最上位種のギガバジリスクだった。バジリスクが群れで行動している事も異常だったけれど、今はそれどころではない‥‥。
「ヤバい、こっちに来る!!」
そのギガバジリスクは巨体の癖に動きがやたらと早かった。あれに踏まれたひとたまりもない。
「でも、このまま町に行けば‥‥」
「町ごと壊滅するのは避けられない」
僕が独り言を言うと、アモンが正論を答えた。
逃げるも地獄、当たるも地獄。僕は突然の窮地に追い込まれていた。
「折角!折角ここまでやってきたのに!あんなトカゲに‥‥!」
自分で言いながら無性に腹が立つと同時に恐怖心が消し飛んでいく。
「分かった、ここは僕が食い止めるから君たちは町に帰って防壁を建ててくれ」
「なに?一人で行くというのか?」
「良いんだ、どうせ‥‥」
僕なんてレベル1で生きている価値もない男なのだ。少しでも食い止められるのならそれで良かった。自暴自棄でもあったけど、それ以上に怒りが僕を突き動かした。
「少しでも足止めできたら‥‥それでいい」
僕は馬車の開口部から外に飛び降りると、迫ってくる巨獣を待ち構えた。
「化け物め‥‥武技、飛翔撃」
バジリスクの目を狙い武技を放つ。
バシュン!
僕は飛翔しすれ違い様にバジリスクの目玉を魔法剣で斬り刻んだ。
ゴァアアアアアアアアアア!
耳をつんざく叫び声を上げて暴れ始める巨獣。出鱈目に暴れて手足をバタバタさせ尻尾を振りまわす。その一つでも掠るだけで僕なんて即死するにきまっていた。だけど、適当に暴れているだけのなのでそれを避けるのはそれほど難しくもない。
ヴオン!ブーン!ドドーン!
「よっ!はっ!とっ!飛翔撃」
バシュン!ザク!
今度は出鱈目に暴れているので少し浅かったが、残りの目玉にも剣が刺さる。
それで愈々怒り狂い、暴れていたが少し離れてみているだけで良かった。奴にはこっちがまるで見えていない、ただ、聴覚が鋭いのでジッとしているだけで良い。
5分くらいだろうか、滅茶苦茶に暴れていたバジリスクがくたびれて動きが急に鈍くなる。全身がだるそうになって腹が地面に落ちているので前に進むのも難儀しているようだった。
奴の目が回復する前にそっと近寄って一番厄介な尻尾に武技をぶち込んでやる事にした。
「皆塵」
ドゴォオオオオン!
そいつの尻尾の付け根にブチかますと簡単に切れて吹き飛んで行く。
「よし!」
これで半分勝ったも同然だった。尻尾さえなければ単なるデカいトカゲだ。奴がノロノロと振り返ろうとする背中に乗って武技を使い背中のマヒの棘ごと斬り刻む。
「乱舞」
ザクザクザクザクザク‥‥
背中を回転しながら踊るように登り、進みながら左右を斬り飛ばしていく。
ドシュ!‥‥ドドーン
最後に首を斬り落とし終わった。
「やった‥‥ははは‥‥やったんだ‥‥」
僕はバジリスクの死骸の上に乗ったまま、感動して思わず笑った。




