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新生の町


 港拡張は順調に進み、造船所も併設されていよいよ田舎町から中規模の都市に変貌していく。港湾管理事務所も、掘っ立て小屋同然だったのに今ではレンガ造りの立派な物だ。


 事務所の中に入ると大勢が忙しく立ち働き、あちこちの応接部屋では商談が行われている。そのまま、屋上にあがり港湾全体を見渡すと新造された中型の輸送船に荷が積み込まれ、出航をまっている様子だ。


 湾内の水面に陽光がキラキラと反射して眩しく輝いている。それが僕にはこの町の未来に思えた。


 この町が活発に発展しているというニュースを聞いた投資家が徐々に集まってきていて、今では膨大な額の投資がなされている。今日もそんな投資家と会い町への投資を依頼した。


 人、物資、金、色々なものが順調に集まって益々盛り上がっていく町。それらを集約的に管理するには酒場や港湾事務所だけでは少々足りなくなってきていたので大きな役所を作る事になっていた。


 港の近くの原野を切り開き、大きなレンガ造りの建物のスケッチを終えた。それを平面図に落として全体のサイズを決めていくと自分でも驚くほど精密な設計図面ができあがる。設計図面を10枚仕上げる頃には、もしかして僕には建築家としての才能があるのではないか?などと変な自信がついた。


「イジンさんの図面はいつ見ても素晴らしい出来です、こちらも助かってます」

「そうですか、ではこれでよろしくお願いします」


 その設計図書を顔なじみになった建築職人の棟梁に渡すと僕を褒める。もちろんお世辞に決まっていたのだが。


 その足で今日は町全体の道路インフラの整備のための設計スケッチをする。人口が急激に増えていくので、住居区画を作りその付随する様々な設備をつくらないといけないのだ。


 一通り終えてから酒場に戻るとスッカリ夕方になっていて、仕事を終えた職人や町の人達で大賑わいだ。いつの間にかバイトの女の子も2人に増えているし、カウンターの中にはマスター以外の男性と女性のスタッフが増えている。


 酒場が客であふれているので僕は仕方なしに酒の入ったジョッキを手に持ちギルド連絡所の椅子に腰を掛けた。


「凄くにぎわってますね」

「そうだね」


 顔なじみの連絡所の女性スタッフのマキが話しかけてくる。


「君も呑んだらいいよ」

「ええ!うれしい」


 彼女に一杯おごり、仕事中の受付で乾杯をする。仕事中と言っても夜になると緊急の連絡以外はなにもないので暇なのだ。


「あたし、本当にびっくりしちゃった」


 マキが言う。


「だって、イジン様が来てから3か月でしょう?もう別の町になっちゃったみたい!」


 マキが可愛らしい口角の上がった口のふちに泡をつけてにこにこしている。


「皆のお陰だな、もちろんマキちゃんのもね」

「あはは、いやですよー」


 ふと、視線を感じて振り向くとアリーが立っていた。ギルド連絡所に用事があるのだろうか?


「あ、これは失礼」


 そういって、僕は席を立ち盛り上がっている酒場の方へ歩いていく。


「お久しぶりですね」


 アリーが通り過ぎる時に僕に振り向き挨拶をしてくる。


「はい、お元気そうで」

「ええ、ところで今話していた女性はお知り合いですか?」

「ええ、まぁ、マキちゃんって言うんだ」


 知り合いどころか、マキは市長代行の僕が雇った助手の一人だ。


「可愛らしい方‥‥」


 それは事実だったが特に意味はない、成り行きでマキを雇っただけなので。酔った勢いで、アリーの方が可愛いよ、などと言いたかったが我慢する。


「ではあたしはこれで」

「はい‥‥」


 アリーは踵を返して店をでていってしまった。連絡所に用があったのではないのか‥‥?

 僕はまたマキちゃんの前に戻って椅子に座る。


「帰っちゃいましたね」

「そうだね」

「あれで良かったんですか?」

「ん?」


 良かったの意味が分からない。良いかどうかはアリーが決めることで‥‥。


「彼女涙目でしたよ」

「え?まじ?」

「はい、振り返るときに見えました」

「‥‥」


 何か傷つける事でも言ったかな‥‥いやそんなハズはない。マキが可愛いという話をしただけだ。


「わからん‥‥」

「ほんと鈍感ですよねー」

「それは良く言われるが」

「でもそんなところも魅力なんですよね」

「え?もしかして口説かれてる?」

「あはは、どうでしょう」


 マキは急に真剣になってジッと僕の目を覗き込んだ。


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