非常事態
翌朝、僕は早起きをして町中を見て回り、老朽化した設備や町の人の暮らしぶりをみてまわった。その内容を詳細にメモにとって、町の規模や人口に対してどの程度の対費用効果が望めるのか、計算をしていくのだ。昼過ぎには各商店などに出向き、経済状態を調査してまわり1日で何となく全体像の把握ができていた。
町の人口の増加率が低いのは食料事情や、交易の低迷からくる経済的な理由だと判明。それに対する推論を立てて、他の町を参考にした街づくりについて考えながら港で海を見ていた。
そうだ!この港をもっと大きくして大きな船が停泊できるようにしよう!そんな事をメモに書留めながら歩いていると、通行人にぶつかりそうになる。
「おっと、ごめんなさいね~」
そう言って、僕が右に避けようとすると、そいつも右に、左に避けようとすると左に。
変だな?と思い顔を上げると髭が立っていた。
「なんだ髭か」
「‥‥なんだ髭かはないでしょう、殿」
「えっと、呼んだっけ?」
「はい、酒場の主人のデーンからの伝言です」
髭から伝言のメモを受け取るとそこには、本日夕方、商店主をあつめた第1回目の総会を行いたいという報せが書いてあった。ついに、デーンの指示で街が動き出した!僕はそれでよろこんで「必ず行く」と髭に伝言を頼んだ。
僕は俄然やる気が出てきて町の地図を描いてみたり、小さい本屋に行きこの町の伝記を買い込んだりした。そんな事をしているとあっという間に時間が経ち、僕は時間ギリギリになって酒場に向かった。
「おお!」
僕が酒場にはいると既にそこは一杯で、人で溢れかえっている。
「遅れました、僕が市長臨時代行のイジンです、今後宜しく」
おおお!!
おおおおおお!
酒場に設置された椅子の上に立ち挨拶をすると、歓声と共に拍手が沸いた。
その後、デーンがこの集まりのあらましを説明しだし僕の出番は殆ど終わった。デーンが会議の進行係り兼議長を務め勝手に他の担当の係りを割り振りしだしてドンドン自発的に会議が進んで行くのを見るのは胸がすく思いだ。
僕が暫くその会議を見て居ると、新たに酒場に入ってこようとする人がいる様子だった。
「今日はもう貸し切りですよ」
入口に向かって言うと、小さい子供の帽子がひょこひょこと飛び跳ねて居るのが見える。それを見て、思わず笑っていたら、その子が突然僕の名前を呼び始めた。
「ジン‥‥イジン‥‥」
「どうした‥‥?」
人をかき分けて外にで出ると、見たことのない男の子が血相を変えて僕を呼んでいる。
「イジンって人いますか?」
「イジンは僕だけど」
「は!早く来て!」
その子は僕の手を握ると必死に走り出す。
「おいおい、今は会議中だから困るんだよ」
「お、おにーちゃんが倒れているの!」
「お兄ちゃん、君のかい?」
「違う、えーとアモンのお兄ちゃん」
「は!?」
訳が分からないがとりあえず行ってみる事にした。すると、町の入口付近で木の柱に寄りかかっているズタボロの戦士が居る。アモンだった。
「連れて来たよ!」
「ああ、すまない‥‥迷惑をかける、だけど、助けて欲しい‥‥」
「なんだよ、どうしたんだ?」
「アリー‥‥と、マサが、モンスターに、捕まって洞窟に引き、引き込まれた」
「待てよ、お前がここにいるって事は‥‥」
「すまない、俺の力では太刀打ちできなかった」
「で、その洞窟っていうのは?」
「魔、秘魔の洞窟だ」
それっきりアモンは気絶した。僕は手持ちの超高級万能薬を飲ませるとアモンがシャキッとして立ち上がる。
「すまん、恩に着る」
「でも役に立つかどうか、判らないよ?」
僕は少々自信がなく言う。
「そんな事は無いさ」
アモンの後に続き走って行った。




