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 「おじゃま~」

 その声は間違いなくアモンだった。アモンはいつもおじゃま~などと気安く挨拶をしながら酒場に入るのだ。


「つかみはグー!」


 アモンの彼女のサムがおどける。この2人は付き合っているのだが、僕が居るときは付き合ってないフリをしていたのだ。バレバレだっつーのに。


「あれ~テイちゃんじゃない?」


 深く帽子を被っている僕の背中を見てアリーが言い当てた。流石幼馴染だとしか言いようがない、超能力のような勘を発揮していた。


「‥‥」


 僕は知らないフリを決め込んだ。


「テイちゃんよね~?」

「お知り合いでしょうか?」

 

 マスターが余計な気を使って話しかける。


「‥‥知らん」

「はぁ」


 真下を向いて急に鬱になっている僕をみたマスターは何か分かったようでそれ以上は一切スルーしてくれた。


 僕は下を向き、彼女たちの居る方向に頬杖をついてグラスに口をつけて呑んだくれたフリを決め込んだ。


「う~ん、どう見てもテイちゃんだよ」


 なおもアリーはしつこく言って俺の横顔を覗き込もうとする。


「せーのー、それ!」


 生来いたずら好きなマサがそっと僕の後ろに回り込んで帽子を取り上げた。


「あ!?」


 思わず声が出て3人の方を向いてしまう。が、3人の反応は他人をみた時のものだった。


「は?」

「え?」

「お~、マサいかんぞ、いきなり見ず知らずのお人の帽子をとるなんて」


 俺の顔を見た3人が一様に驚き、アモンがマサに叱る。


「‥‥」


 マサがそっと帽子を被せるのでそのままにしておく。なぜ3人が僕だと気が付かなかったのかさっぱり分からないが‥‥そういう事なら都合が良かった。


「大変申し訳ございません、ご容赦ください、マスターこの方に私からの驕りで同じ酒を一つお願いします」

 アモンはそつなく謝罪をして一杯おごってくれるようだ。マジイケメン過ぎるだろこいつ!っていつも思っていた。


 僕は人差し指と親指でV字を作り振って”どうも”と返した。


「あー、ごめんなさい、あたしてっきりテイちゃんだと思ったの」

「お前今月ずっとあいつの事ばっかだもんな」

「だって~心配でしょ?」

「確かに心配じゃないと言えばウソになるな」

「でしょう?」

「あたしは全然心配してないけどねー」


 3人が勝手に僕の話を始めた。アリーが僕の事を心配していると聞いて胸が苦しくなる。イケメンのアモンまでが心配してくれていたとは意外だ。マサは相変わらずアモン以外視界に入らないらしいが。


「あいつ思い詰めてたもんなぁ、最後なんて暗い顔してどこかに行っちゃうし」

「でも、ギルドを首になったんだし仕方ないよねー、どこ行くのもテイジンの勝手だしさぁ」

「だから心配なのよ」

「そうだぞ、そういう女心をお前も少しは見習うべきだと俺は思う」

「ええ~ひっどーい、あたしはアモンがいればいいんだもんねー」


 僕は益々胸が苦しくなってしまった。全部僕が無能だから悪いんだ‥‥それで皆に心配を掛けている、なんでいつまでも僕だけレベル1なのだ。


 グラスに雫が一つ垂れた。ぽちゃん‥‥。あれ?僕泣いているのか。それで我に返った。酒を飲んで泣くなんてだらしがないにもほどがある。


 僕は顔を隠すように帽子を深く被り、店を出た。


 アモン達が何の目的でこの町に来たかは知らないけど、僕には関係なかった。



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