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初恋は苦い思い出となったらいい


感想、誤字脱字報告ありがとうございます(*´∀`)

確認するのが遅くなってしまい申し訳ないです。



 


 精霊が見えるからと言って、その者が特別だとは必ずしもそうはならない。ラフレーズがそうである。精霊メリー君は、ラフレーズの沢山の話を聞いてくれるが力は貸さない。今回の様に家出の手伝いはしても、である。茶色の牛モリーも同行しているだけ。ファーヴァティ公爵家の庭がお気に入りの大きなアヒルも着いて来ただけ。

 王太子妃ではなくなり、幼い頃から頑張り続けてきた王太子妃教育から解放され、自由な時間が格段に増えたラフレーズはベリーシュ伯爵家の庭で精霊達とのんびりとしていた。温かい陽光を浴びて寝転がるメリー君、モリー、大きなアヒル。いい加減名前を考えようと思うと大きなアヒルから自己紹介をされた。



「クエールっていうの?」

「クワ」



 大きなアヒルは自らをクエールと名乗った。遠い昔、ラフレーズと同じ精霊が認識出来る人間から名前を貰ったのだ。その人間の名前もクエールというらしい。どんな人なのかを聞いた。



「クワ、クワワ」

「貴族の屋敷に仕えていた執事さんだったのね。へえ、そう、とても紳士的で執事の鏡のような人か。ふふ、クエールとても嬉しそうに話すのね」

「クワ!」



 精霊を認識出来る人間は極めて少ない。人間に自分の話をする機会が精霊には殆どない。ずっと違う人間に話をしたかったクエールは、興奮気味にラフレーズに話していく。ラフレーズもあまりにも嬉しげに語るので教育で培った能力でクエールの話を一句一句聞き逃さなかった。


 話し終えるとクエールは疲れた~と言いたげに大きな欠伸をしてメリー君の横に寝転がった。白く大きなもふもふが二匹。寄り添い合って寝転がる光景にラフレーズは間に飛び込みたい衝動に駆られる。が、寝始めた二匹の邪魔をしてはいけないと起きているモリーの背に凭れた。



「モウ?」

「うん。私も眠くなったの」

「モウ!」

「そうね。寝たい時には寝ればいいわよね」

「……モウ」

「王太子殿下? ……あんなのを見たら、殿下とメーラ様が両思いだって聞かなくても分かるわ」



 蕩けてしまいそうな程甘い眼差しを、声を、思いをメーラに向けていたヒンメルの姿が甦る。ラフレーズには何時だって冷たく、苛立った眼差ししかくれなかった。何度歩み寄ろうとしても頑なに心を開いてくれなかった。周囲には何故かお似合いだと思われているのにヒンメルには拒まれ、厳しい王太子妃教育で何度も陰で泣いていたのをきっとヒンメルは知らない。

 あの流した涙の数だけ、ヒンメルへの恋情は流れていったのだろう。メーラと初めて一緒に姿を現した時は自ら命を絶とうと考える程悲しかった。だが、ラフレーズには自分を心配してくれる家族や精霊がいた。特に、メリー君はラフレーズが泣いていると決して側を離れず泣き止むまでずっといてくれた。

 あまりにも涙が止まらないラフレーズに可愛い顔をしたメリー君はこう告げた。



 ――大丈夫だよ、僕だけはずっとラフレーズの側にいるよ



 人間じゃない、羊の精霊。

 ラフレーズにとっては、家族と同等に大切な友達。

 メリー君がいてくれたから今のラフレーズがいる。



「モウ!」

「うん? ……そうね。お父様やお兄様もそうしたらいいと言ってくれるけど」



 モリーが告げたのは、一年後行われる王太子と王太子妃の結婚式には行かず精霊の世界に行こう、というもの。

 一応、ラフレーズは流行り病にかかり王太子妃の役目を全う出来なくなったという体で候補から外れた。国王からも今回の二人の婚約解消には責任を感じているようで無理に出席する必要はないと告げられた。シトロンやメルローは最初から出席させるつもりもない。



「好きな人、か」

「モウ?」

「……私の好きな人は殿下だった。完全には吹っ切れていないけど何時かこの初恋を苦い思い出になるまでには、成長できたらいいなって思うの」

「モウ! モ~!」」



 世界は広い、ヒンメル以上にラフレーズを大切にしてくれる相手は人間の世界にも精霊の世界にも絶対にいる!

 力強く力説したモリーに深緑色の瞳を丸くするラフレーズだが、元気付けてくれようとしている気持ちが嬉しくて可憐な花を彷彿とさせる笑顔を見せた。



「ええ! ありがとう! モリー!」



 ヒンメルの名の由来である空を見上げた。雲一つない快晴。こんな日にあの草原を歩いたらきっと気持ちいいのだろう。

 シトロンは魔法師団団長として北西で激化しているという紛争を終わらせる為に昨日旅立ち、メルローは不在のシトロンに代わってベリーシュ伯爵代理を務めている。何もしないで只家にいるだけなのはもう嫌だ。ラフレーズはモリーの頭を撫でると寝ているメリー君とクエールを起こさない様にそっと体を撫でると屋敷に戻った。

 丁度、歩いていた侍女のルーシィを見つけて声を掛けた。



「ルーシィ」

「お嬢様。お戻りになられたのですね」

「ええ。お兄様は今はお城に行ってるのよね?」

「はい。夕刻前には戻ると仰有っていました」

「分かったわ」

「お嬢様は、その間どうされます?」

「精霊の世界に行く準備をしようと思って。でもその前にいらない物を片付けたいの」

「いらない物、ですか?」



 ラフレーズの部屋にあるいらない物……

 はっとしたルーシィに苦笑を浮かべた。



「……捨てるわ。殿下から頂いたプレゼントを全部。それか、誰か欲しい人がいるなら渡すわ。私には、もう一切必要がないもの」

「……分かりました。全部捨てましょう。お嬢様の気持ちに区切りをつけるために」



 ルーシィは無理に微笑みを貼り付けるラフレーズの目を逸らさず、見届ける様に見つめ続けた。





読んで頂きありがとうございます。


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