メリー君と行く
ネタ帳に置いたのを短編として公開しました。
サラッと読めるかと思います。
「精霊の世界っていつも晴れなんだねえ」
「メエ」
黄金色の草原を目的もなく歩く一人の少女と大人の牛並みに大きな一頭の羊。
ストロベリーブロンドの長髪を緩くリボンで結い、同じ色の睫毛に覆われた深緑色の瞳を輝かせて、質素な長袖の白いワンピースを着る少女を貴族令嬢と思う人はいないだろう。
仮に思う人がいても、この地に少女と羊以外誰もいない。
「メリー君美味しい?」
「メエ~」
少女の名はラフレーズ・ベリーシュ。訳あって羊の精霊メリー君と精霊世界を歩く。
黄金色の草原が永遠と続くのが精霊世界ではない。単にメリー君が美味しい草が豊富にある此処を選んだに過ぎない。
「今頃家は大騒ぎかなあ」
「メエ~」
「そうだと思う? そうだよねえ。一応、置き手紙を残したけどお父様達怒ってるよね」
「メエ」
「だよねえ。怒ってるよねえ」
勝手に家出をした自分を家族は絶対に許さないだろうなあ。と、呑気に考えながらもラフレーズはメリー君と歩く。
目的もなく歩く。
心地良い天気、美しい黄金色の草原。
ふと、ラフレーズはメリー君に訊いた。
「メリー君のご飯は沢山あるけど私のご飯がないのに今気付いたよ」
「メエ~」
「え? お腹が減ったら言えって? メリー君が用意してくれるの?」
「メエ」
「そっか。じゃあ、私のご飯の心配はしなくていいね」
「メエ!」
基本メエかメエ~としか言わないメリー君だが、ラフレーズにだけは言葉は確りと伝わっているので二人の意思疏通は心配不要。
延々と歩き続けるのも良い。
家族にはとても申し訳なく思うも、もうあの婚約者と会わなくて済むのだから清々する。
「私がいなくなったら一番喜ぶのは殿下だね」
「メエ」
「そんな事ない? あるよメリー君」
ラフレーズの婚約者は王太子ヒンメル・ラグラ・アメニティ。ヒンメルの名の由来である空色の瞳と王族特有の毛先にかけて青が濃い銀糸を持つ青年。
代々、王国に仕える魔法師団団長を務める家系ベリーシュ伯爵家の長女として生まれたラフレーズは、生まれながらに類い稀な魔法の才能を持っていた。
隣国の王女である母譲りの膨大な魔力と父譲りの魔法の才能の持ち主。隣国と強い関係を持ち、更に魔法師団団長であるベリーシュ伯爵家との関係を強固なものにする為に王太子との婚約が決められた。
「好きだったのにな……」
「メエ……」
感傷の混じった声を聞いて心配げに鳴いたメリー君の頭をよしよしと撫でた。
「心配しないでメリー君。殿下を好きでいるのをやめるのに時間は掛かるけどちゃんと吹っ切れるようにするよ」
「メエ!」
「ずっと僕がいるから大丈夫? うん。メリー君がいれば心強いよ。
でもホント、今頃どうしてるだろうお父様達」
ヒンメルの心配はしない。
大事なのは、自分が家出して一番心配している家族。
「一応、メリー君と家出します。探しても誰にも見つからない所に行きますって書いたから見つからないとは思うけど」
「メエ~」
顎に手を当てて悩むポーズをするも、まあ、優秀な魔法使いが二人もいる我が家だから何とかするだろうとラフレーズは考えるのを止め、メリー君がお食事タイムに入ったので横に座った。
読んで頂きありがとうございます。