7 三たび根っこ広場
「どうしよう。やっぱり無理」
クマはとうとうリスに泣きつきました。
「うーむ。困ったなー」
小さなリスの前でクマが背中を丸めているのを、コマドリとヘビは遠巻きに眺めています。
「やっぱりそうなると思ってたんだよね」
ヘビの身体は不自然に丸く膨らんでいるようです。あれ? よく見たら、卵の形? ははあ、見つけた卵を早速食べている途中みたいですね。さすが食いしん坊! パーティー用のキノコは見当たりませんので、まだとってあると信じたい所です。
「クマさんは〜いっくじなし〜♪ でっかいくせに意気地なし〜♪」
コマドリは何やらクマにとって不名誉な歌を作り歌っています。
キツネは見当たりません。まだ街から帰って来ていないようですね。
「ねー、もうさ、いっそのことみんなで行かない?」
リスがコマドリとヘビに聞きました。
「えー! やだ」
「自分から言出したくせに、口だけだなんてさー」
クマは涙目です。リスは腕組みして何か名案は降りてこないかと頭を捻ります。
アライグマが秘密にしているツリーを見つけた時に、リスはここでみんなでクリスマスパーティーをしてやろうと思いついたのです。アライグマからと思わせるような、紛らわしい招待状をみんなに送って、勝手に押しかけるといういたずらです。最初はアライグマには内緒にするつもりでした。アライグマはきっとカンカンに怒るでしょう! いい気味です。
ですが、木のかげからみんなを見ているクマの長い尻尾を見た時にもっといい方法を思いついたんです。アライグマを怒らせるのはいつでも出来る、だったら逆のことをするのは? アライグマの方からみんなを誘わざるを得ないように仕向けるんです。渋々みんなを誘うアライグマ。ですが怒ってはいません。 どうです?その方がパーティーも楽しくなるんじゃないでしょうか?
クマをその気にさせた所までは良かったのですが、実現には至らなかったようです。
「困ったなー」
その時です。急にクマが「ひい!」と今まで出した事がないような大声で飛び上がりました。
「どうしたの?」
「な、何かが尻尾に……」
クマは怖くて後ろを振り返る事が出来ないようです。リスはヘビかコマドリのいたずらだろうと二匹を見ましたが、離れた所でキョトンとしています。何だろうとクマの後ろに回って気が付きました。
「根っこだ……」
クマの長い尻尾に木の根っこが絡んで引っ張っているのです。
「あ、そうか。クマさんはアライグマさんを説得するって言ったのに、出来ないって言い出したから嘘ついた事になっちゃうんだ」
「えっ」
クマは慌てて根っこから尻尾を取り戻そうと引っ張りますが、尻尾が千切れそうになるだけで離れません。寧ろもっと捕まえてやろうというように、新たな根っこが伸びてきました。
「た、助けて〜」
リスは慌てて解こうとしますが、ビクともしません。コマドリとヘビも助けようと近寄りますが無理です。
「ツンツン」
「ガブッ」
どうにも歯が立ちません。とうとうリスが言いました。
「クマさん! 尻尾は諦めるんだ! 多少短くなっても、全身が捕まるよりよっぽどいい。思い切って引っ張れ!」
「えっ! でも」
「ずっとこの広場から出られなくなってもいいの?」
クマはブルブルと首を振りました。みんなが家に帰った後もここに一匹で残るなんて怖い事絶対に嫌です! ぎゅっと目を瞑って、えいやーっと前へ走り出しました。
ぶちっ
クマの長い尻尾は途中で切れて、短い丸い尻尾になりました。そしてものすごい勢いで、走って行ったクマは何かにぶつかって止まりました。
「あーあー。ごめんなさい!」
慌てて謝ると、相手はアライグマでした。さっきまでの事や切れた尻尾の痛みで頭に血が上っていたクマは、今しかないとそのままの勢いでアライグマに叫びました。
「あ、アライグマさん! 私に、みんなに、あなたのツリーを見せて下さい!」
アライグマはあまりのクマの勢いに飲まれてしまいました。しかもクマは目が血走っていてものすごい形相です。
「……ああ」
そこへクマを追いかけて来たリスが追いつきました。
「みんな聞いた?」
「聞いた〜」
「やったね! パーティーだ!」
はっとアライグマが気が付いた時には、もう遅い。しかも場所はまだ根っこ広場の中です。ギリギリ端っこでした。
こうしてクマは無事、アライグマにみんなをツリーの場所に案内させる事に成功したのです。