4 ドングリ池
所変わってここはドングリ池。よく澄んだ綺麗な池です。この池にドングリを投げ込んで願い事をすると叶うという噂があります。
まだ夜の明けない時間に、怖がりのクマが辺りを見回し見回し、やって来ました。
「誰もいないよね? ……ふう。でも誰もいない所って怖いな」
きょろきょろと辺りを見回します。誰にも見られたくないので他の動物がいなそうな時間に来たのですが、静かな池に一匹は怖くて他の動物たちの姿を探してしまうのです。
「うん誰もいない。……早くやる事やって逃げよう」
クマは大事に持って来た沢山のドングリをパラパラと池に投げ込んで、両前足を合わせて願い事を始めました。長いです。ドングリの数だけ願い事があるんですから、ちょっとやそっとじゃ終わりません。随分長い時間が経ってから、すたこらサッサと逃げて行きました。
クマが去ってしばらくしてから、池の端にリスの小さな姿が見えました。
「ふう。僕は一個だけど、体の大きさが違うから、クマ君と同じくらいの数の願い事をしてもいいよねー?」
リスは大事に抱え込んでいたとっておきのドングリを一つ、ぽちゃんと池に投げ込むと前足を合わせてじっくり願い事をしてから尻尾を翻して去って行きました。
それからすぐ、今度はコマドリが飛んで来ました。口に咥えたドングリをポトリと池に落とすと、三回ぐるぐるとと池の上を飛び回ってから、どこかへ大急ぎで飛んで行きました。
そのあと、今度はヘビがやって来ました。まだ空は暗いのにみんな早起きですね。草の茂みからニョロニョロと地面を這って池のほとりににたどり着くと、体をくねらせています。なんかお腹の辺りからまあるい物がせり上がって来ている様子。それがだんだんと上に上がって来たと思ったら、大きく口を開けて、ポトリとドングリが落ちました。ドングリはコロコロと転がって池にぽちゃんと落ちます。ヘビはその場でしばらく体をくねらせていましたが、元来た道を戻り草の茂みの中に消えて行きました。
東の空に朝日の頭がちょっぴり見え出した頃、キツネが慌ててやって来ました。
「うわ! 寝坊しちゃった! まだ間に合うよね?」
キツネは木の葉を一枚頭の上にのせると目をつぶって口の中で何やらモゴモゴと唱えました。するとどうでしょう! ドロンと煙が出たと思ったら、キツネは消えて人間が一人立っていました。キツネによく似た吊り目の青年です。
「久しぶりだけど、上手く化けられたみたいだね」
青年は、自分の頭とズボンのお尻を触って、ちゃんとキツネの耳と尻尾が消えているか確認してから、池にドングリを投げ込んで願い事を始めました。
「えっと。人間にばれませんように。あとは素敵なクリスマスの贈り物が買えますように。よし」
パンと池に向かって柏手を打つと、今度は木の葉を一枚手の平にのせてまた口の中でモゴモゴと唱えました。すると今度は青年の手の平の上でドロンと煙が出て、木の葉の代わりにお金がのっていました。
「あー、急いで行かないと! 人間の身体って不便」
慌ててどこかへ走って行きます。
さてさて、キツネは人間に化けてどこへ行ったんでしょうね? 他の動物たちは結局何を願い事したのかな? アライグマは何をしているんでしょうか? みんなが話していた時は広場にはいなかったから、ここへは来ないんでしょうかね? もう少し池の前で待ってみましょうか。
うん。太陽も南の一番高いとこにいますが……、どうやらやっとアライグマが起き出して来たようですね。お寝坊さんです。
アライグマはえいやっと勢いつけてドングリを投げ込みました。
「どうか。しま尻尾が言っている『森で一番素敵なツリー』がおいらのツリーじゃありませんように! はあ。でもそしたら、おいらのツリーが一番じゃなくなってしまう……。ああ、みんな、おいらのツリーを見たらびっくりするだろうなぁ。自慢したい。でも見せたくない! くそう。でも絶対においらのツリーが森で一番素敵なんだ! どうしたらいいんだ?」
頭を搔きむしりながら大声で喚いています。そんなに騒いだら誰かに見つかってしまうかもしれないよ。いいんでしょうか? 秘密のツリーなんじゃないですか? まあ、もうリス君には見つかってるんですけどね。手遅れだよー。