3 再び根っこ広場
それからしばらくして、森の動物達に招待状が届きました。
――逆さ虹の森クリスマスパーティーへのご招待
場所 逆さ虹の森で一番素敵なツリーの下
時間 クリスマスイブ
服装 自由
※当日はプレゼント交換をします。各自プレゼントのご用意をお願いします。
しま尻尾より――
「クリスマス〜♪ クリスマス〜♪もうすぐ楽しいクリスマスパーティー〜♪」
歌上手のコマドリが木の枝に止まり、さえずっています。
「クリスマスパーティーっておいしい?」
食いしん坊のヘビはクリスマスパーティーってどんな味だろうとワクワクし、だらだらとヨダレを垂らしています。
「………」
暴れん坊のアライグマは二匹を忌々しそうに睨みつけましたが、何も言いません。
素敵なツリーには心当たりがあるのですが、しま尻尾は絶対に自分ではありません。だって自分だけの秘密のツリーだったのですから!
しま尻尾はどいつだ!と目を皿のようにして探しています。
「アライグマさん、なんでみんなの尻尾をじろじろ見ているんだい? まさかこの『しま尻尾』ってアライグマさんの事?」
お人好しのキツネは、ニコニコしながらアライグマに話しかけました。
「……そんな訳あるはずないだろう」
根っこ広場の木の根はピクリともしません。確かにアライグマの尻尾はしましまですが、招待状の『しま尻尾』ではないようです。だって根っこ広場で嘘をつくと根っこに捕まってしまうんですからね。
「こんにちは〜」
そこへいたずら好きのリスがやって来ました。リスの尻尾に縦じまが入っているのを見つけて、アライグマは怒鳴りました。
「しま尻尾はてめえだな!」
アライグマが秘密にしていたツリーを見つけ、みんなにバラしてやろうと考えた、リスのいたずらに違いない、と怒り出したのです。
「ピイ!」
「きゃー!」
アライグマの怒鳴り声にコマドリは高い枝に、ヘビはキツネの後ろに逃げ込みました。リスは自分の尻尾を見てから、首を横に振ります。
「この招待状のしま尻尾は僕じゃないよー」
確かに根っこ広場の木の根はピクリともしません。どういう事でしょう? リスは嘘をついていないみたいです。
「じゃあ、どいつがしま尻尾なんだ!」
アライグマは牙を剥き出しにして、犯人を見つけてやろうと森の動物たちを睨みつけました。みんなアライグマを怖がって、後退りしてしまいます。
「それも気になるけどさー。僕はそれよりもこの場所の、『逆さ虹の森で一番素敵なツリーの下』っていうのが気になるなー。アライグマさん、どこか知ってるう?」
ただ一匹だけ後退りしなかったリスは暢気にアライグマに尋ねてきました。が、アライグマはむっつりとして何も答えません。知っているとも知らないとも答えられないんです。
だって「知っている」と答えたら、自分だけの秘密のツリーじゃなくなってしまいます。反対に「知らない」と答えたら根っこに捕まってしまいますからね。だからアライグマはまたふんと鼻を鳴らすと広場から出て行ってしまいました。
「やだ、こわーい」
「怒らせるだけだから、アライグマさんには話しかけない方がいいよ」
コマドリとヘビがリスに寄って来ました。
「でもさ。僕、アライグマさんは怪しいって思うんだよね。ツリーの場所を知っているんじゃないかなぁ?」
リスの言葉にキツネが同意します。
「確かに知らないとは言わなかったよね」
キツネの言葉にリスは我が意を得たりと、大声を張り上げました。
「そうそう! アライグマさんからツリーの場所を聞き出さないと、パーティーに参加出来ないよ!」
コマドリとヘビは顔を見合わせました。
「えー。無理」
「怒らせる展開しか想像出来ない」
キツネはうーんと首を傾げました。自分がアライグマに話しかけてもいいのですが、威嚇されて終わりの気がします。アライグマが大人しく話を聞くような相手はいたでしょうか?
「あの…あのね」
小さな声がしました。みんなが一斉に振り返るとそこにいたのは、体の大きなクマでした。
「私がアライグマさんに聞いてみようか?」
みんなはクマを見て無言です。確かにクマはアライグマより遥かに大きいので、アライグマがクマに楯突いた事はありません。
ですが、森の動物達は知っています。このクマはとても怖がりなんです。だから、あんまりみんなの前に出て来ないくらいなのです。それに暴れん坊のアライグマを苦手にして、アライグマとはあまり話した事がないはずでした。
「クマさんには無理だと思うよー」
コマドリの言葉にヘビも頷きます。リスはみんなの様子にハラハラドキドキしてしまいました。
「……でもね。みんなクリスマスパーティーしたいでしょ? アライグマさんだって、楽しい事は好きだと思うんだ」
相変わらず声は小さいですが、クマが果敢に言い返します。それを見てキツネはなんとかしてやりたいと思いました。
「そう言えば、ドングリ池にドングリを投げ込んでお願いすると願い事が叶うと聞いた事があるよー」
リスの言葉にキツネは大喜びです。
「そうしよう! それがいいよ! みんなでクマさんがアライグマさんに話しかけられるようにドングリ池で願おう!」
コマドリとヘビは渋い顔です。
「なんかそれはちょっと違う気がする」
「願い事なら、クリスマスパーティーで美味しい物を食べられますようにって、お願いしたい」
ええ〜とキツネは困ってしまいました。クマは下を向いてしまいます。
「それならみんな好きな事を願えばいいんじゃない?」
リスがニコニコしながら提案しました。なんだか得意げです。
「えっ?」
「みんなクリスマスパーティーはしたいんだよね?」
「うん〜♪」
「美味しい物食べたい!」
「だったら大丈夫。それぞれが好きな事を願えば、最終的にはクリスマスパーティーが出来るようになるはずだよ」
キツネはうーんと考えました。
「……みんなクリスマスパーティーに関する願い事をするはずだから、クリスマスパーティーは出来る。パーティーが出来るって事はツリーが見つかっている訳だから、つまりクマさんがアライグマさんにも話しかけられるはず、って事?」
「そうそう!」
クマは顔を上げました。目がキラキラしてやる気に溢れているようです。
「大丈夫そうだねー。じゃあクリスマスパーティー目指してみんなで頑張ろうー!」
「おー!」
リスの掛け声に他の動物たちも大喜びです。どうやら話がまとまったようですね。リス君も満足そう。クマのお尻に付いている長い尻尾の先がしま模様になっているのを、ニヤリと悪い顔して見ていました。