2 オンボロ橋
暴れん坊のアライグマは根っこ広場を離れて、オンボロ橋にやって来ました。
森を半分に分ける大きな川にかかった吊橋なのですが、もう随分と前から今にも橋自体が落ちそうなくらいボロボロ。それでついた名前が『オンボロ橋』。橋床の割木はガタガタで、歯抜けになっていたり、ずれて重なってしまっていたりしています。向こう側へ行く時は、注意して渡らないと川に落っこちてしまうんです。
けれどもアライグマは泳げるので、落ちても平気。イライラついでに、橋床の割木を一本抜いて川にぶん投げてから向こう側に渡って行く有様。あーあ。みんなにあんまり好かれていないのも分かりますよね。
「あーあ。つまんないの。落ちれば良かったのに」
いたずら好きのリスは、アライグマが割木を川へぶん投げるのを木の上からこっそり見ていたんです。どうやらリスは、アライグマが泳げる事を知らないみたいですね。
「でも、うふふ。やっこさん、だいぶイラついてるね」
スルスルと木から下りて、橋の袂までやって来たリスは、アライグマにどんなイタズラを仕掛けてやろうかと、期待に尻尾を膨らませています。
「ひゃー、いつ見てもボロだなぁ。これで誰も落ちないのが不思議だよ」
まあオンボロ橋を使っているのが動物だけだからなんでしょうね。元は人間が作った橋なのですが、逆さ虹の森に人間が足を踏み入れなくなってからは直す人はいません。朽ちていく一方なのです。
リスはオンボロ橋をどうにか支えている丸太の橋杭をさーっと登り、だらーんと垂れてあんまり役目を果たしていない葛の桁を綱渡りの要領で器用に駆け抜けて、あっと言う間に向こう側へ渡りました。
「さあて。どこにいるかな?」
リスはきょろきょろと辺りを見回し、アライグマを探します。すると川べりからそんなに離れていないところにふさふさしたしましまの尻尾を見つけました。
「はーん」
他の動物たちをうるさがって、根っこ広場から出て行ったくせに、そんなに遠くへは行かなかったようです。リスはそろりそろりと近付いて行きます。
♫ツリー、ツリー。
綺麗なツリー。豪華なツリー。
おいらだけの素敵なツリー。
クリスマスにはツリーの下にサンタがどっさりプレゼント!
良い子のおいらにゃ、大きいの。
うるさいコマドリにゃ、小さいの。
バカなヘビにゃ、食いかけの。
お節介ギツネにゃ、オンボロの。
サンタがくれる贈り物!
♫ツリー、ツリー。
綺麗なツリー。豪華なツリー。
おいらだけの素敵なツリー。
それはそれは大きなもみの木の前で、アライグマが楽しげに歌っています。ひどいダミ声です。
「あんなもん、隠してやがったのか」
リスが隠れて見ていると、アライグマは形の良い木の実や、いい匂いがする花をとって来て、大きなもみの木に飾り付けていました。どうやらアライグマもクリスマスの事を知っていて、一匹だけでお祝いするつもりだったみたいですね。
「ふうん。邪魔してやろう。あ! いい事思いついた」
リスの鼻息が荒いのは、面白いいたずらを思いついたからですよ。決して、アライグマの歌に自分が出て来なかったからじゃないんです。多分。