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八話 出現

主人公GO!

 

 コンコン

 ドアをノックする音が聞こえる。


「――ホズミ様、ご報告に上がりました」


「入れ」


「失礼します」


 とある建物の一室に風格のある老人が入ってきた。

 入室を許可したのは若い男だ。

 見た目で言えば立場は逆のように見えるが、老人は椅子に深々と腰を掛けたその若い男――ホズミと呼ばれた男に膝をつき頭を垂れる。

 そして顔だけ上げて報告をする。


「ホズミ様、現在の所は計画通り順調に進んでおります。

 が、未だホズミ様がお探しになっている存在は見つかっていません」


「……そうか、だが確実に()()は居る。

 今回見つからなくても発破程度にはなるだろう」


「仰る通りです。

 ではこのまま作戦は最後まで、という形で……?」


「かまわない」


「かしこまりました。それでは……」


 失礼します。と言い、老人は退出していった。

 部屋に残された男が呟く。


「ここまで長かったな……」


 それに呼応するように外から雷の轟音が鳴り響く。

 雲は紫がかって毒々しい色だった。

 男は疲れたようにため息を深く吐き――そして微かにニヤリとわらった。



 ✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦




 休息を取り始めてからかなりの時間がたった。

 まだ夜は明けないが、遠くでは未だ戦闘音が鳴り響いている。


「まだ、終わらないのか……」


 壁に寄りかかりながらカケルが呟く。

 無理もない事だ。

 襲撃があったのは街の皆が睡眠を取っていた、あるいはこれから取る時間帯であり、一日の疲れを満足に癒せていない状態である。

 周りも同じような心境だろう。


「……いくらなんでも時間がかかりすぎてる……

 騎士様も帰って来ない、一体どうなって……?」


 ぼそぼそ呟きながら考え込むサラス。

 元気こそがトレードマークの彼女ではあるが、流石に疲れが見えている。

 顔色もやや悪く見える。

 それを見たカケルが気遣うように、


「サラス、ちょっと仮眠を取ったらどうだ?」


 と声をかけると、ハッとしたようにこちらを見て苦笑しながら言う。


「ハハ……今の私、そんなにヤバい?」


「ヤバいも何も、ギリギリって感じだぞ本当に。

 正直俺は何も戦力にならんし、休める内にサラスが休んだ方がいい」


「そう……だよね……

 何かあったときにこの状態じゃまずいか」


 客観的に見た自分が相当頼りなかったのだろう。

 しょうがないといった様子で仮眠を取ることにしたようだ。


「でも、何かあったら容赦なく叩き起こしていいからね」


「そらそうだ、ビンタしてでも叩き起こす」


 少しだけいつもの調子を取り戻したように話す二人。

 お互いニッと力無いながらも笑うと、サラスは壁に寄りかかり目を閉じる。

 カケルはより警戒に力を入れようとする。がしかし、


(……あれ? 何かがおかしい……)


 何かが引っ掛かった。

 後ろでサラスが同様に何かが引っ掛かったのかバッと身を起こす。


「サラス……」


「うん……」


 そして気付いた、お互いがこの異変に。




























「「音がしない」」



 勝利の歓声も聞こえないままに、不自然な程に先程まで鳴り響いていた戦闘音が聞こえないのだ。

 戦闘が終わったというには異様な空気。

 息をすることも忘れ、辺りの様子に神経を張り巡らせる。


「「………………………………」」





















 バゴオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!



 とんでもない轟音がした。

 同時に近くの空に何かが舞うのが見える。



「人!? それに――騎士団の……鎧……」


 サラスが言う。

 王都の最高クラスの戦力である騎士団員が何故空を舞っているのか。

 理由はわかる。だが理解が出来ない、したくない。


「居るのか……あれをやった奴が……」


 イノシシの魔物などでは無い。

 もっと強大な力を持つ何かが、だ。


 ズゥン……ズゥン……ズゥン……ズゥン……


 地響きの様に鳴り響くそれは足音だろう。

 一定間隔で聞こえ、そしてその音は段々近付いてくる。

 すぐに正体は分かった。

 ヌッと登場し、見えたのだ、その巨大な存在が。


「嘘だろ……こんなの……」


 口からこぼれたそれは認めたくない一心から出た言葉だ。

 その目線の先には全長5メートル以上はあろうか、二階建ての家を見下ろせそうな程大きな怪物がいた。

 しかも怪物の顔が――無い。無いのだ。

 完全にのっぺらぼうのようになっていて、極めて不気味な雰囲気を感じる。


 すると怪物が駐屯地の門の前でピタッと止まる。


「……なんだ?」


 怪訝な表情をする面々。

 すると唐突に、


 ――ギョロッッッ!!!


 とこちらを見るように一つの目が見開かれた。

 先程まで全く無かった目が見開かれ、その目に見つめられたカケル達は悲鳴も出せず、ただただ怪物の次の行動を見守る。

 怪物がとった行動とは……


 ――大きく手を振りかぶり、門を文字通り思い切り叩き壊した。


「っ!? 危ないっ!!!」


 咄嗟に声を出すカケル。

 壊れた門の破片が飛来してくる。


 するとサラスは近くに居た子供を抱き寄せ、覆いかぶさる。

 非情にも門の破片はそこへ飛んでいきサラスの肩を直撃する。


 ゴッ!!!!

「イ゛ッ、ツッ……!!」


 鈍い音がしてサラスはくぐもった悲鳴を上げる。

 直撃した場所からは血が多く流れ、かなり痛々しい。


「サラス!!」


 焦って駆け寄るカケルだが、あいにくこんな時の為の応急処置の技術なんてものは持ち合わせていない。

 仮にあったとしても、後ろの怪物はそれを許してくれないだろう。


「どうする……? どうする……?」


 頼りにしていた者のピンチに狼狽える事しか出来ないカケル。

 周りの何人かにも被弾してしまった人が居る。

 正直状況は最悪、活路などほぼ無いのは明白だ。


 だがサラス越しに見える子供が、必死に泣くのを我慢しようとしているその顔を見て覚悟を決める。


「チクショウ、男見せようぜ宮本繋……

 どうせ死ぬならカッコつけてやる」


 散らばった小さな破片を握りしめて振り返る。


「ダメ……! カケル、逃げないと!」


 これからカケルがしようとしてる事に気付き、苦し気に声を出して引き留めるサラス。


「そう簡単に逃げさせてくれるお相手じゃ無いだろ?

 逃げてくれよサラス、恩返しの時だぜ」


 引き攣りながらもニヤッと笑って見せる。

 精一杯の虚勢だ。サラスに対しても、自分に対しても。

 そして、


「無事帰ったら俺の借金チャラにしろよなあああ!!!!!!」

(あ、やべぇこれフラグってやつ?)


 と叫んでから思いながら、破片を思い切り怪物に投げつけ、そして駆け出す。

 破片は怪物の首元のような所に命中し、開かれた目がカケルだけを追うようにグルンッっと動く。


「うえっ!?」


 すると怪物は手を思い切り振り下ろし、カケルを叩き潰そうと試みる。

 振り上げられた時点でその意図を察したカケルは、思い切り横に走って前に飛び込むようにして避ける


「こ、こんなん一発アウトじゃねぇか」


 背筋にゾクッと寒気が走る。

 明確に向けられた殺意に思わず逃げ出してしまいそうになるが、


「ダセェぞ俺!」


 頬を強く叩いて自らに発破をかける。

 先程までサラス達が居た方向を見れば、サラスは軽く抵抗しながらも周りの人に連れられて逃げていくのが見えた。


(よっし、後は俺が時間を……「――って、おわっ!!!!」


 安堵も束の間、再び振り下ろされる手に必死に回避行動を取る。

 幸いな事に、あまり知性は無いのか行動はワンパターンでカケルでも避け続けることは可能だった。


「ほれほれ! 何の為におめめをパッチリ開いたんだぁ!?」


 と煽りながら破片も投げつけ、徹底的に注意を引き付けるカケル。

 だが、


 ゼェ……ゼェ……ゼェ……


 息が上がってくる。


(こんなに体力無かったか……!?俺は!?)


 思ったよりも早く来た息切れに動揺するが、状況を考えれば当然とも言える。

 昼間に泥棒を追いかけて全力疾走、突然の魔物の襲撃、人の死、そして迫る命の危機。

 これらを一睡もせずに味わっている上にこの緊張状態も相まっているので、体のパフォーマンスが落ちるのは当たり前だ。

 そして限界も。


「ハッ……やっべ………ハッ……ハッ……足に力入らんぞ……」


 微かに震える足が限界の近さを知らせてくる。

 だが怪物は待ってくれない。


「うっ、おおおおおお!!!」


 同様に振り下ろされた手に、やや対応が遅れてしまったカケル。

 その凄まじい衝撃で軽く吹き飛ばされる。


「どわああああ!!」


 体が悲鳴を上げる。

 だが休んでいればまだ動ける

 顔をバッと上げ――そこへ手が振り下ろされる。


「あっ」


 ――死んだ。

 脳裏にその言葉がよぎった。


(本当に走馬灯ってあるんだな……)


 世界がスローになる、と言っても今まで通り自分が動ける訳では無い。

 思考がやけにクリアになり、今までの生活が浮かび上がってくる。


(まともな思い出なんかありゃしないな)


 そう思って回想を投げやりに終わらせようとする。

 怪物の手はもう目の前だ。


(次はマトモな人生頼むぜ……)


 と考え、だがプライドは捨てないとばかりに最後にニタリと嗤う。

 そして……






























 怪物の手は目の前から消え去った。



「は?」


 さらに怪物が吹き飛ばされる。


「へ??」


 そしてカケルの目の前に一人の青年が現れた。


「ふう、間に合ってよかった! 大丈夫かい少年?

 もう安心していい、このシグルス・グリフダートが来たからにはね」


 髪を手でファサッ……とかきあげてそう言ってくる。

 キラキラと光の粒子が漫画のように彼の周りに漂っている錯覚すら覚える。

 カッコつけてる癖に非常に様になっているのが何故か無性にイラっと来た。


 綺麗なブロンドヘアーに10人中10人は振り返るだろう端正な顔立ち、180はあろう身長で体は引き締まってるように見受けられる。

 騎士団の鎧を見事に着こなし、先程から何故か風がヤケに彼の髪をファサファサさせている。

 とにかく戦場に立つには違和感を覚える出で立ちで、演劇でも行っているような、だがどこか安心感を覚える雰囲気を漂わせていた。

 だが急にそんな男が現れてもカケルが言えたのは、


「な、なにがなんやら……」


 ただそれだけだった

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