四話 異世界の情報収集
それとない説明回です。
ザワザワザワ……
ゲラゲラゲラ……
酒場には常に話し声と笑い声が響いている。
農夫であったり魔法使いであったり戦士であったりと、客層は様々だ。
だが皆仲良く笑いながら食事を楽しんでいる事は傍から見てもよく分かる。
「「乾杯!」」
その中で2人の男女――カケルとサラスもグラスをぶつけ、飲み物をグビグビ飲む。
「ぷはーっ! 仕事後の一杯はやっぱり格別だねぇ! もう一杯おかわり!!」
「ははは……すげぇ飲みっぷりだな」
サラスはグラスの中身を一気に飲み干して、すぐにおかわりを要求する。
その中身はジュースでもなんでもなくしっかりとしたお酒で、見た目はビールに近い、というよりここでも麦酒という名前で流通しているのでほぼビールだろう。
反してカケルのグラスの中身は果実のしぼり汁、つまりジュースだ。
そんなカケルに、口に白いヒゲを作ったサラスがベロベロとヒゲと化した泡を舐めながら話しかけてくる。
「にしてもカケルお酒飲めないなんてー、つまんないじゃんか!」
「きったねぇな! ……だからしょうがないだろって。俺の居た所では年齢的に禁止されてたんだから」
「お酒を禁止するだなんて……堅苦しい風習だねぇ」
嘆かわしい嘆かわしいと呟くサラス。
カケルからすれば、見た目が明らかに未成年な彼女や周りの人達が一気にお酒を呷るその光景に驚きを隠せない。思わずコラコラと注意してしまいそうな程だ。
話を聞くに、この世界ではお酒は何歳からという決まりは特に無いようで、飲めるようになったら飲む。というのが常識なのだと言う。
ただその分別が付けられない輩には、町の衛兵さんからお叱り(物理)を受けて、場合には何日間か投獄されるというので、現代日本とシステムにあまり変わりはないらしい。
要は自分でしっかり考えて行動しろと言う事だ。
「そういえば今更だけど、サラスの商会って何をしている所なんだ?」
「簡単に言えば、実はこの酒場もそうなんだけど飲食店と生産所の仲介って感じかな。
独自で希少性の高い食材を仕入れたりもしてるよ!」
「へぇ~、それで街に知り合いが多いんだな」
カケルの言葉通り、この酒場に来るまでにサラスはかなり多くの人と親しげに言葉を交わしていた。
しかしそれもサラスの商会が人と多く顔を合わせる機会があるもの、となれば納得のいく話だ。
尤も、サラス自身の無邪気で誰にでも笑顔で振る舞う性格が、多くの人から好かれる一番の要因であるのだろうが。
そんな彼女と会話を重ねながら周りを観察する。
(時計の感じから見ても、時間に関してはあっちと変わらなそうだな。
それに町ではあんま見なかったけど……獣人ってやつか、やっぱ居るもんなんだな)
時間が地球と変わらず24時間である事に謎に安心する。
そしてその地球ではお目にかかれないであろうリアルなケモミミ。
ゴツゴツのおっさんの耳から生えてるそれは明らかにコスプレでは無いことを証明してくれている。
「そうさ! この街の人とは仲良しなんだよ! ホント街の皆はいい人ばかりで――」
サラスも酒が進み口がさらによく回るようになってきた。
カケルはその姿に母の姿が思わず被ってしまい、家族の事をふと思い出す。
(母さん、心配してるかな……)
きっと今頃大慌てしちゃってるのかな、と申し訳ない気持ちになる。
思考の端の方で父が「俺はよ! 俺も心配して――」等と騒いでるようにわずかに聞こえなくもないが、きっと、いや、絶対に気のせいだろう。間違いない。
とにもかくにも2人に要らぬ心配をかけてしまっているのは確かだ。
車に轢かれた感覚もないと言う事は、恐らく向こうに死体が残ってるわけではない。
となると自分は行方不明者扱いだ。
何とかして日本に帰る方法を探さなければと思案するカケルだが、
「って事なの! あっ、麦酒おかわり! カケルももっと飲みなよ!」
とにかく元気な目の前の少女にまたも力を抜かれ、ひとまずはこの食事を楽しむことにした。
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「あ~、久しぶりにあんな食ったな。
――しかし宿舎まであるとは恐れ入った」
あの後もサラスのマシンガントークをひたすら聞きながら食事をして、おおよそ3時間程経ってようやく解散してきたところだ。
現在カケルは、商会の労働者が住む宿舎の一室に居る。因みに給料から天引きではあるが、ご飯もしっかり三食分付いているのでかなり好待遇と言える。
部屋にはベッドや机、椅子が備えられており、異世界だからと恐れていた殺風景な部屋でなくて一安心した。
建物内には簡易的なシャワーもあったので、どうやら文明的にも日本とは大差ないようだ。
「しっかし……あいつホントよく喋んな……」
溜息を吐きながら夕食時を思い返す。
商会で何故雇ってくれるか、というカケルの疑問については至って簡単人手が欲しかったから。
との理由で、元々来る者は余程の厄介者でない限り拒まないスタイルらしいのだが、カケルは働いてくれそうだから!! とド直球に言われた時はさすがに苦笑いをした。
その後はひたすらフリートークタイムだ。
自分で勝手に話を展開していく様子に、ますます母と同種の恐ろしさ感じて軽く圧倒されていたカケルだが、ただ聞き役に徹していたわけではない。
この世界でのある程度の常識であったり、この街の情報についていくつか聞き出すことに成功していた。
まずこの世界はインテンシオンと呼ばれていて、カケルが現在居る国はフーサン国と言うらしい。
サラスとの会話や物の名前から考えると、日本=フーサンと言う事になり、言語に関してはそのフーサン語で統一されているようだ。例外もあるようだが。
英語などに関してもある程度通じるが、何故かこちらの世界では英語等の他言語の歴史が浅いようで、通じるものと通じないものがある事がわかった。
カケルは外国人が皆流暢に日本語を話している光景に対し、強烈な違和感を感じていたが、そこはご都合主義とやらのせいにしておく。
魔力に関しては、これは基本的にこの世界のあらゆる存在と物体に宿っていて、鍛えることによって許容量を増やし、様々な用途へ使用できるようだ。
よく見る魔法として打ち出すもよし、剣士が自分の身体強化に使うもよし、職人が生産物に魔力を込めるのもよし。
ただ魔力があるからと言って前述した全てができるという事でも無いようで、向いてる向いていないだったり使い方による質の変化があるらしい。
要は魔法使いは剣士程肉体強化が上手くないが、剣士も魔法使い程魔法が上手くないというように、結局専門職には敵わないと言う事だ。
そして元から備わっている量や鍛えた際の限度――すなわち才能にはある程度差があるようで、多くの人はその力を日常や自らの仕事に活用する。
例えばこの商会の男連中は身体強化に魔力を主に使っており、力仕事に使う魔力の練り方は上手い部類にある。
この話を聞いた時カケルは気付いた、
(通りであいつらあんなひょいひょいと荷物を……)
荷運びを手伝った際に抱いた疑問の自分より非力そうなのに何故余裕で荷運びをこなせるのかというものだ。
魔力で身体強化すれば鍛えずとも重い荷物も持ち上げられる――まさにファンタジーならではの方式だ。
サラスによると鍛えた方がもっと力も付くと言っていたが、なら何故鍛えないのか? と不思議に思うのも無理はないだろう。
ただしこれに関しては簡単な話で、
「電動アシスト自転車があるのにアシストしてもらわない奴なんか居ないもんな……」
と苦笑しながらカケルが呟く。
皆が電動アシストでスイスイ坂を上る中、1人だけ必死にママチャリを漕いでるようなものだ。
しかし体が鍛えてあれば、ママチャリではなくロードバイクだったら、電動アシスト相手でも引けを取らないだろう。
鍛えられた体が無駄にならないことわかった時は思わずホッとしたものだ。
そして働くことになったこの商会の事だが、実は巷ではかなり名の知られてる商会らしく、サラスは商会同士の交渉やその内容の確認をしたりと中々のポジションについているらしく、言ってしまえば幹部的存在なのだ。
正直今日見たあの姿からは全くそんな雰囲気は出ていなかったが、あれだけ顔が知られてると言う事はそうなんだろうと不本意ながら納得した。
色々と整理していく内に睡魔がカケルを襲う。
慣れない場所での出来事に疲れがたまっていたのだろう、どうやらその睡魔に屈するのは時間の問題だ。
「――なんだか夢みたいだ……」
そう言ってカケルはゆっくりと瞼を閉じた。
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「……る……かけ……る……繋……」
(う、ん――母さん……?)
優しい光が広がる空間に母が居た。
しかし自分の体は動かない、声も出ない。
「ご……ね……きを……けて……」
(なに、言って……母さん……)
すると母の姿がぶれ、やがて蒸散して消えてしまった。
意識が薄れていく……