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十三話 黒の魔女

 

「サンドイッチと……コーヒーブラックで」


 魔女が注文する。


「かしこまりました」


 店長らしき渋いオジサンが言う。

 店内の様子は、魔女に多少注目しただけでこれといったざわつきもない。


(案外皆気にしないものなんだな)


 と、カケルは考える。

 というのも、サラスから聞いた様な内容だと、それなりに避けられたり恐れられてたりするものなのかと思ってたからだ。


 そんな事を考えながらボーッと魔女を見ていると、突然魔女がこちらを振り向く。


(やべっ、見すぎたか?)


 内心ハラハラしていると、魔女は此方に向かって歩いてくる。

 そして――


「ここ、座っていい?」


「へ?」


 今、なんと?

 目の前の女の子は何と言ったのだ?


「私は平気だよ! カケル君は大丈夫?」


 とユウナが言う。


「え? あ、あぁ、うん。

 俺も大丈夫だけど……」


「ありがと」


 魔女は短く返すと、椅子を引いて座った。


「こんな所で会うなんて思わなかったよ。

 今日はおやすみなの?」


「まぁそんな所。

 昨日の内に仕事が片付いたモノだから」


「そっかー、それはよかったね!」


(二人は知り合いだったのか……)

 会話の内容を聞いてそう考えるカケル。


「あ、ごめんねカケル君。

 こちらはハルちゃん。魔法組合の子で、うちのお客さんなんだよ」


「ハルモニア。 失礼しちゃってごめんね」


「あぁ、えっと、カケルだ。 よろしく」

(なんだ、人当たりのいい感じじゃん)


 黒の魔女――ハルモニアは、クールな印象こそあれど、初めて見た時のあの冷たい声色などは少しも感じさせない雰囲気で話しかけてきた。


「そうだ、この前はありがとう。

 本当に助かった」


「あれ? 二人共前にも会ったことあったの?」


「いや、私の思い違いじゃなければ初対面だと思うんだけど……」


 とハルモニアが考え込んでしまう。

 それもそうだ。あの時はハルモニアが自分の物を取り返そうとしていただけで、別に俺らの物を取り返そうとしていた訳では無いのだから覚えている訳も無い。


「この前大通りで子供のスリを捕まえてただろ?

 実はあの子に俺の知り合いの財布もスられててさ」


「なるほど、あの時弾いたモノの中にその財布があったって事ね」


「そゆこと。 てな訳で、改めてありがとな」


「そんな意図はなかったけど、でもどういたしまして」


 まさかこんな形でお礼が出来るとは思ってもいなかったが、ひとまず感謝の意を伝えられて良かったとカケルは一安心した。


「ねね、カケル君の知り合いってもしかしてサラちゃんの事?」


 サラちゃんってサラス? と問い返すとコクリとユウナが頷いたので、


「そうだよ。 これまたスられた原因がさぁ……」


 と、事の顛末を話して始める。

 その内容にユウナは時折噴き出すように笑ったりして楽し気に、ハルモニアもクスクスと笑いながら話を聞いていた。

 そんなお茶会――いやコーヒー会は、ハルモニアのサンドイッチとコーヒーが来た後も続けられ、最終的には三人共コーヒーを3杯飲んでお開きとなった。



 ✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦



「いやぁ~長居しちゃったね。

 私はこの後工房に戻ってお仕事があるんだけど、カケル君はどうする? 付与魔術の方も一応見ておく?」


「それは魅力的……だけど、この後は図書館に行ってみるよ。

 色々と調べたいこともあるし」


「そっか! ハルちゃんは?」


「ん~、特に予定も無いかな」


「ならさ、カケル君の事図書館まで案内してあげてくれないかな?

 カケル君この街来たばっかりで」


「え!? いやいやそれは流石に悪い「私は別にいいけど?」ええっ!?」


「良かった! じゃあお願いするね?」


 何故かトントン拍子で話が進んで行く。

 結果的にハルモニアはカケルの案内担当を務めることになった。


 勿論案内役が居るのはありがたい。

 しかしカケルからすれば、最初見た時の印象とサラスから聞いた話の印象、それとは全く違う彼女の優しい対応に驚かされっぱなしだったのだが、そうやって勝手にギャップを感じてる内に、


「じゃあまた今度ね~」 「また今度」


 と、手を振って離れていくユウナを同じように手を振って見送るハルモニア。

 そんな二人にカケルは特に何も言う事は出来ず、ただただ立ち尽くし、


「それじゃ、行こっか」


「……うん」


 気の抜けた返事をすることしかできなかった。




 ✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦




 そんなこんなで黒の魔女ことハルモニアさんと図書館に向かっております。

 彼女とは一応カフェでそれなりに会話もしたし、知り合いくらいの距離感にはなったんだが……


 (きっ、気まずいっ)


 いやぁ、あるじゃん? 友達の友達ってなんかやけに気まずいアレ。

 しかも友達が居る時は普通に話せるのに、居ないと話すことがなくなるし急に沈黙が場を制す。

 誰かこの現象の名前を教えてくd「ねぇ」


「んぇ?」

 急に話しかけられて変な声が出る。


「図書館で何を調べるつもりなの?

 あそこの図書館って特に品揃えも良くはないけど」


「あ~、なんて言うか、この街の歴史? とか魔法の事とか、的な?」


 素直にこの世界の常識……なんて言えればいいのだが、言ったところで何だコイツって思われるのが関の山だろう。既に思われてそうだけど。


「歴史? 魔法? 随分今更な気もするけど……

 それなら組合の図書室にでも来る? 歴史の事ならまだしも、魔法についての事なら結構興味深い物もあると思うけど」


「組合? 組合って……魔法組合?」


「そ。関係者以外はあまり入れる所でもないんだけど、私が居れば問題ないし」


「それはありがたいんだけど……」


「けど?」


 う~ん、どうなんだろうかこのお誘いは。

 それに魔法組合って、もうどんな所かも想像つかんし正直ビビる。

 しかも俺はこの世界では魔法に関しては素人以下もいいところで、どこかで変なボロを出さないとも限らない。


(それに……)


 隣のハルモニアをチラッと見る。

 ん? と首を傾げる様は年頃の可愛い娘にしか見えないが、確証はないとはいえ殺人の容疑がかかってる謎の人物。

 そもそも俺にここまで優しくしてくれるメリットが無い。

 ……だが、


「大丈夫? 城下街の方にしておく?」


「いや、組合の方に連れてってくれるかな?

 そっちの方が色々タメになりそうだ」


「そっか。 じゃあこっちよ」


 少しの間止めていた足を再び動かし始める。

 向こうにはメリットが無くともこちらにはメリットがあるし、今はなにより情報が最優先だと考えた。


「でも意外だな」


「何が?」


 カケルの一言にハルモニアが反応する。


「俺の勝手な印象だったんだけどさ、一応……え~と君の」

 思い返せば今までハルモニアの名前を呼んだことが無い事に気付き、少し言い淀んで君と呼ぶ。

 すると、


「ユウナと同じようにハルって呼べばいいよ。

 ハルモニアじゃ呼びにくいだろうし、私もカケルって呼ぶから」


 なんと愛称呼びを許可された上に下の名前呼び捨てだ。

 下の名前に関しては下の名前しか教えてないから当たり前なのだが、やはりこの世界の人は総じて距離の詰め方が凄いなと感じつつ、


「あぁ……じゃあハル、の第一印象ってさ、あのスリを捕まえた時だったからさ

 何となく怖い人、とか冷たい人なんかなぁ~、って思ってたんだよね」


「なるほど、そういう事か」


 少し戸惑いながらも、『ハル』と呼んで申し訳なさげに話を続ける。

 するとそのカケルの言葉に納得したハルは、


「でもそれは誤解。

 あの時は私も被害者だった訳だし、それなりに怒ってたの」


 と、苦笑いしながら弁明した。

 それもそうか、とカケルも同様に苦笑いして、


「だよな。 すまん」


 そう手を合わせて謝りながら、


「でも、やっぱ最初の印象と違って優しいなって思ったからさ

 ギャップでちょっと驚いちゃったよ」


 と言葉を続ける。 しかし、


「優しいなんて……そう言われるのは嬉しいけど、

 でもぎゃっぷって何?」


「え? えぇと、思ってた事と違ったなって意味の言葉だよ」


「へぇ~、そうなんだ」


(あれ? 今更英語が通じない?

 それとも単に意味を知らなかっただけ……?)


 ただ、本当に今更である。

 ましてコーヒーやサンドイッチなんて物があるのに……


(まぁいいか)


 考えても答えが出なさそうだと悟ると、思考を放棄する。

 すると、


「はい、着いたよ」


「え?」


 どうやら目的の場所についた様だ。

 ハルの声に反応し、足元から前方へと視線を向けると、


「うわデッケ!」


 唐突に現れたその巨大な建物にカケルは圧倒された。

 大きくそびえたつ鉄門の向こうには、お城と言われても納得する位の大きな石造りの建物があったのだ。

 だがその風貌は地球で言う学校のそれに似た雰囲気をしていた。


「大きさだけよ。 中なんて地味なものだわ」


「随分辛辣だな……」


「まぁ思い入れも無いしね」


 ヤケに毒舌なハルだが、それでもデカいものはデカい。

 こんな場所に今から入るのかとドキドキしながら、


「さ、いきましょ」


「お、おう」


 二人はその中へ向かって足を進めるであった。

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