十二話 魔法の授業
まだまだ説明回感が否めない……
早く戦わせてぇ~
「ただいま~」
「お邪魔しまーす…」
工房の中に入って中を見回すと、その様子はノイが来ていた時と同様に薄暗い状態で、注視してようやく周りに何があるかが分かる程度だった。
「お父さん居ないみたい……
早速裏庭に行っちゃおうか」
電気を点ける事もせず、ユウナはスイスイと行ってしまう。
その後ろを慌てて着いていく。
だが何かにぶつかって壊したりでもして弁償。なんて事になったら借金が抱えきれなくなってしまうので、細心の注意を払う事も忘れない。
「ここ電気点けたりしないのか?」
「あ、ごめんね。
この工房お父さんの作業場所しか電気が無くて……
ここだけはいつも薄暗いから気が滅入っちゃうの」
薄暗くて顔がよく見えないが、きっと頬を膨らませてでもしながら言ってるのだろう。
カケルはそんなユウナの顔を勝手に想像してほっこりする。
中を進んで行くと一枚の扉にたどり着く。
その扉を開くと中に太陽の光が差し込んで思わず目を細めてしまうが、その明るさにも慣れ目を開くと、
「へぇ、これはまた……」
綺麗に均された土のコートのような庭に、剣の試し切りでもするのであろう程よい太さの木が何本か打ち付けてあったり、恐らく魔術的な何かを実験するためのテーブルがあった。
その他にも見たことのない道具が壁に掛けてあり、日本では中々お目にかかれない光景に目を奪われる。
「ごめんね、こんな無骨な所で」
「いやいや、なんかこう、ちょっと興奮はしてるよ。
こういう所来たこと無かったから」
「こんなのどこ行ってもあるって」
それこそ年頃の男子のように目を輝かせるカケルに、ユウナは笑いながら返す。
「さて、じゃあ早速だけど、まずは魔力が流れてることを認識しないとだね」
「お、そうだな。
けど俺さっぱり感覚が掴めないんだけど、大丈夫かな?」
「絶対、とは言えないけど、色々方法はあるよ」
「それはありがたい」
ノイとは違い、一切困る素振りも見せないその姿に頼もしさを覚える。
「で、俺は何をすればいい?」
「手を出してくれるだけでいいよ。
私が手を通してカケル君の体まで魔力を循環させるから」
「循環……」
そう言いながら片手を出すと、ユウナはその手をそっと握り目を瞑って集中する。
その様子を見てると、カケルは自分の体の中に何かが流れる感覚を感じだした。
(おぉ、何だこれ……血が流れてるみたいに体中を何かが廻っているのがわかる……)
握られた手から空いた手を、交互に見るようにしてむず痒いようなその感覚に戸惑う。
するとユウナは手を放し、
「その様子だと魔力の流れが感じられたみたいだね。
それじゃあ次はその流れを掌に出すように頭で考えてみて」
と言いながら、実際に自分の掌に拳大の淡い黄色の光を出して見せるユウナ。
未だ慣れない感覚に戸惑いつつも、カケルは彼女の言葉を意識して掌に何かを集めようとする。
すると、
「お、おぉ。
俺の掌に何か出てきた……」
「ふふ、それが魔力をある程度形にしたものだよ」
ユウナのものと比べてまだまだ小さく不安定ではあるが、僅かに揺らめく淡い赤色の光がカケルの掌にある。
元の世界では見た事もない非科学的な現象に僅かに興奮するカケル。それを見てユウナも笑いながらそれについて教える。
「魔力は色によってある程度の属性があるんだけど……
それにしても赤色か、なんか男の子っぽい色だね!」
「そうなのか? 確かに赤色って王道っちゃ王道って感じはするけど……
やっぱり火とかそういう感じか?」
「そうだね、基本的には赤色は火属性に分類されてて、攻撃魔法として使うものだね」
「ん? 基本的にはって? それに攻撃にしか使えないのか?」
「ううん、そういう事じゃ無いの。 要はその人の想像力次第なんだけど、赤くて攻撃するぞーって感じなのってさっきみたいに大抵は火を思い浮かべるでしょ?
魔法は使う時にその現象、効果が具体的に想像できないと上手く発動できないの。」
「ほー……」
ステータスもスキルももしかしたらあるのかもしれないが、それを目で確認することができないこの世界ではこんな魔法を出したいっていう明確なイメージが必要って訳か。
「で、攻撃として使ってる物を他にどう使うか、となると想像の幅が狭まってきちゃうものなの。
例えば火で攻撃してる人が火で回復してるのを見るとややこしいでしょ?
捉え方の問題ではあるんだけど、使用者が自分の魔法についてどんな印象を持ってるかが重要なの。
だから魔力が赤色の人は攻撃魔法を使う人が多いって事。
できるできないより向き不向きの問題なのかもね」
なるほど……
まぁ確かにさっきまで火を飛ばしまくってるやつが、回復してやるって火を近づけてきたら逃げたくなるくらいなもんだからな。
先入観が邪魔する、ってのと後は第一印象の問題でもあるのか?
「ユウナちゃん、他の属性についても聞いていい?」
「もちろん! 魔力の色分けとしては赤・青・緑・黄・黒の五種類で、後は偶に無色の魔力があったりするけど、これはまだ謎の多い分類でどんな効果があるか未だに掴めてないんだよね。
それで、赤は火、青は水、緑は木、黄は光、黒は闇って感じで大まかに分類されてるの」
「そこなんだけどさ、例えば青色で氷の魔法を扱う人はいないのか?」
「いるよ、寧ろ青色でも水が操りにくいって人も居たりするの。
水って言ったら透明じゃない? って思う人も居たりするから」
(なんかマジカルバナナみたいな話だな……)
その後も色々と質問を繰り返しこの世界の魔法について教わる。
ゲームやアニメの中での魔法ならともかく、この世界ではコマンドを選択して魔法を出すという訳にもいかない。
カケルは必死で知識を得ようとしていた。
「――って具合なんだけど……もうお昼になってそこそこ時間も経ったしご飯にしようか。
ちょっとお腹も空いてきちゃった」
てへへと照れ臭そうに言うユウナにカケルも、
「あぁ、確かに言われると腹が減ってきた。
ごめんな、質問ばっかりしちゃって」
「ううん、大丈夫! 先生になったみたいで私も楽しかったし!」
「そっか、なら良かった」
(にしても俺が魔法か……)
昨日までは感じなかった自分の中に流れる魔力の存在で、カケルは異世界に来た実感を改めて感じた。
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それから二人は昼食を取る為に近所のカフェのような店に来ていた。
お互いにサンドイッチを食べながら他愛もない話をする。
「そうそう、俺後で図書館に行ってみたいんだけど、ここの図書館って誰でも入れたりする?」
「図書館? 城下街にある図書館なら誰でも入れるよ。
読むだけならお金も特に必要ないし」
「おぉ、それは何よりだ。 サンキュー」
「いえいえ」
この世界についてもっと詳しく知る必要があるが、余りにも他人に根掘り葉掘り聞きすぎるとさすがに怪しまれてしまう。
それを危惧して図書館のような場所で調べ物ができたらと考えていたが、どうやらそれは上手くいきそうであった。
「あ……」
「ん?」
何を調べようかと頭の中で整理していたカケルだったが、ユウナの何かに気付いた様な声で彼女の方を見る。
ユウナがある一点を見つめてるようだったので、カケルもそちらに目を向けると、
(あいつは……)
そこにはサラスの財布を間接的に取り返してくれた恩人、『黒の魔女』が居た。