一話 車に轢かれませんでした
こんにちは。チダカイセイです
連載としては初投稿作品ですので生ぬるい目で見てください。
文章力の神様が居たら寝てる間に授けてください。
よろしくおねげぇしやす。
キュッキュッ……
ダン…ダン…ダン…
学校の体育館からバスケットボールをしているであろう荒々しい音が絶え間なく聞こえてくる。
そしてその音をやや遠めから聞いている少年が居た。
その表情は苦々しく、決して好きで聞いているわけでもなく、何かがそこに少年を引き留めているかのようだった。
「……はぁ……」
浅く息をつくとようやくその場所から離れる。
時間にして10分、あるいはそれ以上かもしれない時間立ち尽くした場所には何も未練を感じていなさそうな様子だ。
少年は帰路についた。
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「ただいま」
これといったイベントがあるでもなく無事家へ帰宅。
代り映えしない日常、手応えのない日常、自分が存在しているかもわからない日常。
そんな毎日を惰性で過ごす彼は、至って普通の男子高校生だ。
彼の名前は 宮本繋 17歳の高校三年生。
日本人の平均身長をそれなりに超えた程度の身長に、目にかかるかかからないか程でセットされてない黒い長めの髪。
目付きは優しげではあるが、そこに力強さは感じられない。
部活動の名残か体は比較的引き締まっている。
「……?誰もいないんか」
返事のない家内、父は仕事で母は大方買い物にでも行ってるのだろう。
靴を脱いで家ヘ上が「たっだいまー!!!」
「うえっ!?」
「お? かーくんもちょうどお帰り!? やーナイスタイミングだね、私も買い物帰りでさ、ほら見てこれお肉いっぱい買っちった! パパとかーくんの大好きな! まぁ私が何より大好きなねこの牛肉さんですよ! えぇ!? いいんですかこのお値段で!? って感じでね! 気が付いたらいつの間にかカゴに入ってたのよ!! 私が入れたんですけどな! なははーーーーーー!! それでね」
「あぁ、わかったわかった。
その辺でそろそろそれを冷蔵庫に持っていこう」
「あぁそうね! ごめんぴっ!」
舌を出しかわい子ぶった表情で気持ちの入ってない謝罪をする女性。
彼女は繋の母親 宮本マリ 45歳。見ての通り話始めると止まらないタイプで、途中で止めてやらないとどれだけ拘束されるかわかったもんじゃない。
「ったく……」
しかし、けだるげに呟く彼の表情は学校にいる時よりも幾分か和らいだ様子だった。
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「あんだけ食材買ってきといて鍋かよ……」
「何言ってるのよ、鍋は昔からママの得意料理なんだから!やっぱり好きな物は得意な料理で食べるのが定石ってもんでしょ! それに色んな食材がこう一纏まりになってこう……「いただきまーす」
慣れた様子で長話の気配を断ち切り、鍋から母の分まで食材を取り分ける。
そして口に運ぼうとしたときに
「っあただいまー!!! 俺が帰ったぞー!!」
「あ! パパが帰って来たよ! かーくん、パパの分も取り分けてあげて!」
なんともタイミングの悪い。
口へ運びかけた肉を一度戻し、空いてる皿へ父の分を取り分ける。
嫌がらせに野菜マシマシだ。
「おっ、今日は鍋か! いい匂いだなぁ~」
素早く手洗いうがいを済ますと、「いただきます!」とややがっつき気味に言って白菜や水菜やネギ等を口に運ぶ。
「っておい! カケルこれ野菜しか入ってねぇじゃねぇか! 肉も入れんかい!!」
「入ってんだろ――よく見ろよ、ホラ」
と目線で器の中を見るように促す。
「こ、これが肉だと~~?! 仕事帰りの父の食欲舐めんなよ!!」
煮込んだ際に分離したであろう肉の端切れを持ち上げながら父が叫んだ。
このギャーギャー騒いでるのが、繋の父親である 宮本英雄 47歳。
破天荒な性格の割にヤケに頭が良く、高校卒業後旅に出てその先で母さんと出会い、しばらく2人で過ごしてから21歳の頃腰を据えるため日本に帰還、22歳の時にそこそこ大きい企業に就職し、翌年結婚したと言う事らしい。(本人談)
ただ、繋から見てもそのスペックは高いと思っている。
実際何をやらせても器用にこなし、クイズ番組を見ても大概の事は知っていると言わんばかりに速攻で答えていく。(引っかけ問題には驚く程弱いが)
顔もまぁ悪くない。
だがウザい。
「仕事帰りの人間のやかましさじゃねぇよそりゃ」
「ふっ、父は様々な困難をママと肩を並べてクリアし日本に戻ったのだ……
今更あんな程度の仕事片手間で処理してくれるわ!!!!」
「パパはどんどん前に行っちゃって迷子になってたけどねっ!」
「うわ、ダセェ」
「ちょまっ、それはあれだよ!あらゆる危険回避の為、先に行って確認してたんだ!!適材適所!!」
「うわ、ダセェ」
「」
「しかも帰って来たら、俺の知ってる日本じゃねぇってパニックになってたけどねっ!」
「うわ、ダ「なんか辛いわ」
精神的ダメージを負った父を他所に食事を続ける。
昔から変わらない光景だ。
テーブルに備え付けられた4つの椅子の1つが空席であること以外は。
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(満月……)
そう心で呟いたのは繋。
現在は
……ふと立ち止まり、ある場所を呆けたよう見つめる。
「…………。」
学校の体育館を見ていた時よりも長く、より苦々しい表情で見続ける。
しかしここも目的地の一つである。
何もかもが終わり、取り返しのつかないことが起きた場所だ。
おもむろにそこへ足を踏み入れる。
そこは第三者から見れば何でもない只の横断歩道だった。
「――アニキ」
おもむろにボソッと呟いた。
ここは5年前に繋の兄が亡くなった場所。
横断歩道を兄と急いで渡ろうとした時、誰かの、いや只の空耳かもしれないが自分を呼ぶ声が聞こえた気がして立ち止まり振り向いた。
その瞬間自分に向かってくる車に何も反応できず、何も反応できないまま兄に突き飛ばされ、そのまま兄が身代わりとなり、そのまま兄が死んだこの場所。
いや
俺が兄を殺した場所だ。
そうやって確かめるように過去の記憶を思い出し、横断歩道を渡り切ろうと足を動かした瞬間――
「ッッッヅゥ!!!!」
繋に激しい頭痛が襲い掛かる。
激しく揺さぶられる、思い切り殴られる、そんなありきたりな表現では説明できない激しい痛み。
脳に直接大声を浴びせられてるかのような、そんな痛みだ。
その場で立ち続けることが出来ず蹲る。
痛みはなおも続く。
すると遠くから光が近づいてくる。
……ブウゥゥゥン……
繋へ向かって乗用車が走ってくる。
まるであの時の記憶を再現するかのように。
小さくなってる繋の体は明らかに見えにくい状態だ。
(クッソ…!)
心の中で悪態を振り絞りながらつくが、無情にも車は繋にそのスピードを維持して突っ込んでくる。
次第に車のヘッドライトに視界を奪われる。
そして……
ヒヒーーーーーン!!!!
・
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・
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・
・
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・
(…??)
いつまで経っても来ない衝撃と唐突に消えた頭痛に疑問を抱く。
「(いや、それよりも…)ヒヒーンって……」
ぶるるるるるるるるる…!
「おわっ!!!!! なっ! 馬っ!?」
目の前に居たのは日常では中々お目にかかれないであろう立派な馬、後方には荷車。
つまり馬車である事がわかる。
何より太陽が真上に、すなわち昼の時間帯になっている。
そして周りを見渡してみると、
「なんだ、ここ? 森、それに、街道?」
綺麗に整備された街道の周りには森があり、先程まで居た場所とは何もかもが違うことがよくわかる。
すると、
「おーい君君! こんなとこで座り込んでどしたの?」
馬から、いやその後方の御者台から声が聞こえてくる。
「おおっ!? だ、え、えーと、ハロー?」
「ハロー? あははっ、フーサン語で大丈夫だよ!」
「ふ、ふーさん??」
「君も今喋ってるじゃないか! 話が通じてるんだから話せるでしょ?」
そこには流暢な日本語で話しかけてくる、赤色の髪をした眩しい笑顔の女の子が居た。
(どうなってんだ?この状況は?)