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9話 料理人とメイドはとある村を放っておけませんでした!(2)

 ぐっすり眠っているだけの敵を叩く簡単なお仕事です。


 巨大な、まんまるの巣を揺さぶって落ちてくる魔物を一閃。

 目を覚まして襲い掛かってくる魔物をまた一閃。

 ラジビーは、蜂といっても形状がちょっと特殊だ。簡単に言うと……ぬいぐるみ的な丸さがある蜂である。

 手足も太く短い。目も丸い。体もまんまる。ただし、攻撃力は高い厄介なやつ。


「多いなー!」

『びぃー!』


 可愛い声で鳴きながら襲い掛かってくるラジビーを打ち倒すのは、流石にちょっとばかり心が痛むが仕方ない。

 見た目に反して、強いのだから。


「ユーリィ、バット振り回してボール打ち返す人みたいになってるよー!」

「いやそれは仕方なくない!?」


 得物フライパンですし。敵がまんまるぬいぐるみみたいな形状の魔物だし。


「詠唱完了!……我が職に置いて光の御名に奉る、この聖女……じゃないや、メイドに力を貸したまえ!ホーリーライティング!」


 ロングスカートのメイドがはたきを掲げて光の大魔法。

 めっちゃくちゃシュールである。


「ユーリィ、結構逃げた……!」

「了解、任せろ!一撃で決める……っ!」


 詠唱でヘイトが高まったのか、アストレアに殺到するまんまるい魔物の前に躍り出る。

 得物に力を込めるように、腹に力を込めるようにして、腰を落とす。

 最もどれだけ格好を付けても、その得物がフライパンなのだけれど。


「でりゃあああ!」


 一閃。一閃。また一閃。高速みじん切りが如く。

 まんまるい魔物の群れは、一瞬でその場から光と化して消滅した。


 どうでもいいけど最近、このフライパン、武器として使われている事のが多くねえ?と勇者は思った。


「……さて。」


 フライパンを背中に背負い直す。

 最早十人がいなくなった、まんまるの巣を眺める。


「上手く行くかなー……」


 ぼやきながら、彼は巣に手を伸ばす。事前に持ってきていた巨大な袋を、広げた。






「終わったのか……?」


 村人たちはざわめきながら丘の上の方を眺めていた。

 巣がある木の近くで閃光が走り、魔物の羽音が一瞬で消え去った。その後から、森はしん、としている。


 ……その森から、月の光を受けて、軽い足取りで駆け出してきた者がいた。


「あっ!?旅人さんたちじゃないか!?」

「本当だ!旅人さーん!旅人さーーん!」


 二人共無傷で、生きている。あれだけの魔物を相手にしながら。

 若者たちは駆け寄って、料理人とメイドを囲んだ。


「勝ったのか!?」

「はい、なんとか」

「えへへ、ご心配ありがとうございます〜」

「すっげえなあ、あんたら……!ところで旅人さん、その袋は?」

「あっ、これは………」


 彼は袋を下ろした。中には……たっぷりの、黄金。

 とろとろと光を放って、甘い馥郁とした香りを振りまく。


「蜂蜜……?」


 若者の中の一人が呟いた。

 蜂蜜は、かなりの貴重品である。魔物を倒さなければ得られない上に、ラジビーの巣の蜂蜜は大変に採るのが難しい。

 ……それなのに、それを、こんなに大量に。


「蜂蜜だ!ああ、確かラジビーってのはそのまんまるっこい体で、物凄く濃度の高い蜜を作るんだとか……」

「あと、すっげえ高く売れるんだろ!?」

「その通り!」


 料理人は笑って、袋を若者たちに差し出した。


「これ、使ってください」

「え……?」

「好事家の間で、かなり高く売れると思います。お金があれば、飢饉も乗り越えられるし……」

「えっ、でも……いいのかい。これだけあれば、どんな豪邸だって立つぞ……?」


 少女がふるふると首を振る。薄桃色の髪が揺れる。彼女は瞳を細めて可憐に微笑んだ。


「いいんです、ユーリィと二人でさっき、話して決めて……というか、この人は最初から、そのつもりだったみたいなんだけれど」


 若者たちは動揺を隠せない。

 これだけのものを、ぽんと。平気で渡せるそのお人好しさ加減。

 一際体格の大きい青年はまじまじとユーリィを見た。


「こ、こんなもんもらって、後から返せなんて言われても無理だぞ……?」

「あと、金も払えないし」

「そうそう」


 口々に若者たちが言うのに、黒髪の料理人は、リーダー格の体格のいい青年の手にぐいと蜂蜜の袋を押し付けた。


「もらっといてください!それで、来年辺りにまた……来れたら来ますから、その時は」


 その時は、美味しいバレンジのパイを食べさせてください。

 これで木を枯らさないように育てて、来年俺たちがまた来られた時に、たくさん美味しいものを食べさせてください。


「あんたたち……」


 ありがとう、本当に。

 笑った若者の手の中で、黄金色がきらめいた。






「あっ、でも……」


 前言撤回とばかりに、黒髪の料理人はちょっと思案してから言った。


「桶に一杯分だけ、もらってもいいですか?」

「ああ、そりゃあ勿論!」  





 その後勇者は、大臣と、宿屋の娘と、若者や子どもたちにパンケーキを焼いた。

 最近武器としてしか使われていなかったフライパンを有効活用して。

 聖女は彼らに、パンケーキを綺麗に切り分けて配り、そしてとろりと黄金の蜂蜜をかけた。


 とろとろと伝った蜂蜜はしあわせの味がしたと、後から皆が語った。

一段落。読んでくださりありがとうございます、次はいよいよ王都です!

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