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5話 元勇者の料理人は打開策を考え始めました!

 火山の火口にたどり着くまでに、二人の足で2日を要した。

 先住民の青年たちの助けもあり、比較的歩きやすい道を選んで歩くことはできたが、山の上に至るまでの道には竜に連なる魔物が群れを成していたのである。

 アストレアは飛べると言い張ったが、飛んで下手に大量に群がられたら随分と不利な状況で(少なくとも二人共片手は封じられたような状況で)戦うことになる、それは避けたい。


「もう〜……ユーリィの過保護……」

「勇者と聖女だったときの能力があるにしても、気配感知とか、変なところで力落ちてるだろ。無理は禁物」

「えぇー……」

「それにほら……お前に傷がつくのとか……嫌だし……」

「過保護だなあー」


 彼女はちょっと眉を寄せてみせた。

 ここまで案内してくれて、山を降りていく先住民の青年たちに手を振ってから振り返る。


「わたし、ユーリィより強いところもあると思うよ。だから大丈夫」


 そういうとこだぞ。

 可憐で可愛い外見。その割に、一目惚れする男以外にはあまりモテない聖女の本質がこれである。

 一見ふんわりしていて男性を立てそうな見た目をしているくせに、そうでもない。

 守ってやろう、と思って近づくと、容赦なく守られてプライドが傷ついたりするのが日常茶飯事な、俺の嫁。


 けど、だからといって彼女の前で格好をつけるのをやめるユーリィではなかった。


「ま、……守りたいんだよ、お前のこと」

「ありがとう。守りたいと思ってくれるユーリィが、とってもかわいいよ」

「もうちょっとなんか照れたりはにかんだりねえの!?」

「……。た、たまにならあるかも……?」

 

 あ、かわいい。

 変なところで可愛くて、変なところで可愛くないから困る。

 結局可愛いんだけども。勿論口には出さないが。


「ユーリィ……?」

「な、なんでもない」


 なんだかんだ、ぐだぐだと話しながら、段々と気温が灼熱に近くなっていく山を登る。

 足元が火山灰と溶岩が固まった黒い岩に変わっていく頃、火口付近が漸く見えてきた。

 

 そこで、二人は足を止めた。

 二人共が、空気を切り裂かんばかりの咆哮を耳に止めたからであった。


 きしゃああああ!


「すっげえ鳴き声がする……」


 きしゃあ!きしゃあ!とコミュニケーションでも取り合っているのか、お互いに鳴き合いながら飛び交う数匹の竜たち。

 火口を遠目に覗き込むと、その中にも何匹もが飛び交っていた。

 瞳は赤く、普通の動物なら鬣がある部位は溶岩の色を纏って禍々しい。


「……あれを手懐けるのか……」


 いけるかな。

 小さな呟きに、アストレアが頷いた。


「行けるよ、ユーリィ。……行けると思うよ、……多分」






 数時間のチャレンジの後。


「ぜ、ぜんっぜん、捕まんねえ……!」

 

 いけないことがはっきりした。


「だ、大丈夫……?」

「大丈夫じゃありません……」


 溶岩のところに座っている竜の背中に飛び乗って、まずは騎乗できるか試したが、だめ。

 暴れて手が付けられず、保険として側を飛んでいたアストレアに助けられる始末。

 次は軽く弱らせてから言うことを聞かせようとしたが、これもだめ。弱らせた時点で他の仲間が集まってきて、念話も対話もボディランゲージもできない。

 アストレアの、『気をつけ』『伏せ』も試したが、一瞬効いても操れるまではいかない。

 その次は小さな、まだ若い竜を手懐けようとしたが、若い竜の凶暴性が高すぎて近づいたユーリィはうっかり片手を火傷してしまった。


「……だめだー……」

「あきらめないで〜……」


 アストレアは、そっと手を取って火傷を直してくれる。

 白い光が傷に当たって、ひんやりと冷たいような、温かなような不思議な感覚と同時に癒やされていく。

 白い指がそっと、傷だったところを撫でた。優しい手。


 それに、少しだけ励まされた。


「うん、分かってる、分かってるけどな……」


 ここでこの島に留まったら、いずれ兵士に見つかるだろう。

 隣の国まで逃げ延びれば、国外ということで簡単には手を出せなくなるはずだが、国境線は話が別だ。隣国も、王国も同じように行き来できる契約が成立している故に、海で何をしようが自由なのである。

 つまり、ここはまだ危険。

 諦めるわけにはいかない。


「……あ、ねえユーリィ」


 ふいに呼びかけられて、ユーリィは顔を上げた。


「うん?」

「いいこと、思いついたかも」


 彼女の視線の先を辿る。




 ……竜たちが、溶岩をがじがじかじったり、食べたりしている。

 そのあたりの草を食んだり、落ちている骨を食べたり。


「……ええと?」

「料理だよ、ユーリィ」

「えっ」


 アストレアは、こちらを期待に満ちた眼差しで見つめた。


「竜のみんなにも料理を作ってみようよ」

「……マジで……?」


 料理人としてクラスチェンジした目は、勝手に材料を選定し始める。

 溶岩。その辺りの食べられそうな草。骨。それから小動物の肉。木の実。

 ……かんっぜんにゲテモノ鍋になる予感しかしない。竜用の餌、基食事を作る勇者とか前代未聞なんじゃ……?


 助けてください先人様方。俺の嫁がとんでもない事を言い出しています。


「いや、あのなレア……竜は食べ物食べても話分かってくれたりしないだろうし……そもそも、それで言うこと聞いてくれるかも……」


 そう言いかけていた唇を、ユーリィは途中で止めた。

 息を止めた、といってもいい。


 



 竜たちの飛び交う、火口の、中。

 その、はるか下の方に見える、巨大な影。不可思議な形。


「……いや、アリかも」 

「……ユーリィ?」

「気を引くって目的なら、行けるかもしれない」

「気を引く……?」

「そう、気を引いて……それから、」


 勇者は息を吸って吐いた。

 下の方にある巨大な、妙な形の影を、視界の端に収めながら。

 彼は、聖女に今しがた考えた事を語り始めた。

次回、謎の何かを見つけた事で一発逆転。島を脱出しようと頑張ります。

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