閑話 王妃と元聖女の午後
元聖女と王妃様の他愛ないガールズトークです。
王妃様に関しては「王様の恋愛相談」回を御覧ください。
閑話休題。
「まあ、ユーリィ様は料理人ギルドに?それは素晴らしいですわね!」
あるよく晴れた日のこと。
王宮の一室にて、王女とメイドがお茶会をしていた。否、メイドとはいっても実はメイドではなく、アストレアは隣国の元聖女ではあったのだが。
しかし、今この場所にてそんなことは関係がない。
ライメール王国を眺められる、真っ白なバルコニー。そこに机と椅子を置いて、二人は談笑に興じている。
その話題は互いの好きな人のことや、最近あったなんでもないこと。他愛もない会話ばかりだ。
今ここにいるのは、二人の少女に過ぎなかった。
「そうなんです、色々あったんですけど、認められて……ユーリィ、喜んでたなあ」
「それは良かったですわ。……その、わたくしも……最近、お料理を始めたので、また教えてほしいと、お伝えしてくださいませ」
「王妃様が……料理ですか?」
アストレアはちょっと目を見開いた。
赤毛の王妃は気恥ずかしそうにはにかむ。
「……これは秘密なのですけれど」
「はい」
「陛下が、時々クッキーをくださるのです。可愛い絵を描いたり……わたくしの顔、を描いて下さったクッキーは、もったいなくて食べられませんでしたわ。そうしたら、照れながら手ずから食べさせてくださって」
わあ。陛下、溺愛してるなあ……。
「……それで、わたくしも何か、お返しがしたくて」
「なるほど、それで料理を……」
「そうなんですの。よろしくて?」
「またユーリィに言ってみますね〜」
にこにこしながらアストレアは頷いて、可愛いなあ……とライメール王国の王妃を眺めた。
それにしても……と思う。
いつも一緒に戦ってはいるけれど、最近見守る事が多い気がする。もう少しこう……火力がほしいな。支えられるだけの力が。
そんな事をぼんやり思いながら、アストレアは口を開いた。
「……私も、ユーリィに何かしてあげたいなと、思うんですけど……なかなか思いつかないなあって、こういうのって」
「まあ、そうなんですの?」
「もっと、強くなりたくて。……いっそ、最近流行りの魔導銃とかを持った方がいいのかなあ、とか」
「まあ、魔導銃を仕込んだメイドですか?浪漫ですわっ、まるで冒険小説のようですわ!」
「……ふふ」
目をきらめかせる様は素直で、可愛らしい。ああこういう所が王様は好きなのかなあ……と思う。
「……ところで、物は相談なのですけれど」
「はい?」
「もっと強くなりたいのなら、わたくしの所で……魔導銃部隊の鍛錬を一緒にしてみるのはどうかしら?女性ばかりの銃士隊があるんですわ。わたくしも時折混ぜてもらって、鍛錬をしているのです……自衛力をつけたい、貴族のお嬢様方もよくいらしているんですの」
「えっ?」
アストレアは考えた。
これからユーリィは多分料理ギルドに入り浸りになる時間が増えるだろう。その間、自分は何をする?
「……内緒で鍛錬したら、ユーリィ、びっくりしてくれるかなあ」
「ええ、きっと!」
「あ、じゃあわたしは……メイドとしてのあれこれをお教えしましょうか、刺繍だとか」
「まあ、本当に?陛下に、ハンカチを縫って差し上げたら喜ぶでしょうか……」
「王妃様がくださるものなら、なんでも嬉しいんじゃないでしょうか〜?」
「そ、そうだとよいのですけれど……。また、ダブルデェト、でもしましょうね、アストレアさま」
「えっ?だ、ダブルデート……?」
「あら、世の中は好きな方を交えて四人で仲良くなったら、そういった親交の儀をするのでしょう?」
少女たちは、華やかに笑い合いながらお茶をする。
これは物語の本筋とはあまり関係のない、穏やかで華やかな日々の一幕。