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11話 料理人とメイドは王様の恋愛相談を受けました!(2)

「まあ、それであの方と一緒に世界をめぐる事になったのですね?わたくし感動してしまいましたわ、星空の下での告白なんてロマンチックですわ……!」

「ふふふ。その時のユーリィったら、真っ赤になって可愛くて……あの、王妃様」

「何か?」

「……お話をするだけなら、わたしがドレスを着る必要はないと思うんですけど〜……」


 王妃に連れて行かれた先で、聖女は着せ替え人形になっていた。

 黄色、ピンク、白、様々なドレスが床に広がっている。


「だめっ。お茶会は可愛いドレスでって決まっているのよ。それに、……最近、こうしてお茶をするお友達もいなかったんですもの、めいっぱい楽しみたくて」

「……陛下とは?」


 聖女は着せ替え人形状態を受け入れた上で、本題に切り込む事にした。


「陛下とは……だめなんですの、わたくし。」


 不意に、彼女の顔がすっと陰った。


「どうして……?何かお二人の間にあったのですか?」

「……だめなんです。陛下を前にすると、頭の中が熱くなって、ついおかしな事ばかり言ってしまうんですの。……わたくし、きっとおかしな嫌な子だと思われているでしょうね……!絶対思われてますわ、なんだこの毒舌で口の悪いどうしようもないばかな王妃って!」

「そこまで?」

 

 反射的にふわっと突っ込んでしまった。ユーリィにちょっと似てきたかもしれない。

 そんな事を思いながらアストレアはちょっと黙り込んで、落ち込んだ様子の赤毛の王妃を見た。

 華奢な体と、細い首。王妃と呼ぶにしては幼すぎるその容貌通りの幼さが、彼女の中にはあるのだ。

 つまり……好きな人に素直になれない的な。意地っ張りなあれこれ。年頃の少女らしい悩み。


 聖女は、今は少し離れたところにいる勇者を想った。


(ユーリィ……これ、仲を取り持つ必要あるかなあ?)


 だってこれ、多分最初から両想いだよ。







 王と王妃それぞれと会話をした上で、二人が相談場所に選んだのは庭園だった。

 適度に開けていて、周りがよく見える。誰かが盗み聞きしようとして近づいてきたらすぐに分かるという、開けているが安全な場所である。


 少し二人きりで話したい、と言ったら、王は即座に、王妃は微笑ましい様子で静かな中庭を貸してくれた。

 敷き詰められた綺麗な芝生と、きらきらと光を浴びて輝く噴水。白い蔓薔薇が絡む小さなアーチ、白いテーブルと椅子。


 そんな中で、勇者は聖女にーー膝枕されていた。


「……なんで膝枕〜…?」

「いや……このドレスが珍しくてつい……肌触りも良さそうだし……王妃様から借りたのか?」

「うん。暫く着てて、って言われたの」


 超可愛いです。

 と口に出さずに勇者は思った。


 真っ白な、体の線に沿ったタイプのドレスは彼女の柔らかな膨らみと華奢な腰を引き立てる。

 さらさらの淡い桃色の髪、まつ毛に縁取られた大きな瞳こそがアクセサリで、飾りをほとんど付けてないところも好印象だ。

 それに、ああ……めちゃくちゃいい匂いがする、俺の嫁最高……


「ユーリィ、あの……」

「うん?」

「膝にすりすりするの、ちょっと恥ずかしい……」

「大変申し訳ありませんでした」


 無意識だった。

 さて、と勇者は意識を切り替えてアストレアの顔を見上げた。


「……えーと、そっちは何かいい情報あったか?こっちは大変だったんだ、4日以内に仲を取り持つ料理作れって言われて……」

「えぇ……?わたしの方はお茶会をして……そう、多分仲を取り持つ必要はそんなにないかなって」

「え?」

「王妃様、王様が好きみたい」

「あれで!?」

「もう。そんな言い方しないの。素直になれないんだって。……だから、あとは素直になれる状況を作るだけじゃないかなぁ……?」


 状況、かあ。

 小さく呟く。上を見上げると、中庭に降ってくる木漏れ日を受けてきらきら光るアストレアの瞳が目に入る。そっと髪を耳にかける細い指。

 視線に気づいて、目を合わせてはにかむ。

 あああ……可愛……じゃなくて。


「えーと、例えば……レアと俺が喧嘩したとしてさ。……けど、なんとなくお互いに謝りたくて、やっぱり好きで……そういう状況で一番嬉しい料理、って、何?」

「嬉しい料理……?」

「そう、何食べたら懐柔されたくなる?」

「……そんなの決まってるじゃない?」


 アストレアが微笑んだ。


「……ねえ、ユーリィ。確か、古代船のキッチンに沢山お菓子の材料もあったよね?それを使って……」


 息をちょっと吸って、吐いて。

 ドレスに包まれた胸が上下する。


「王様に、手料理を作ってもらうの。気持ちのいっぱい篭った、手作りのお菓子を」


 俺の嫁は、さらりとそう言った。

 一番うれしいのは、相手が作ってくれた心の篭った料理に決まってるじゃない?


 




「オレに料理をせよだと!」

「はい」

「するか、そんなもの!」

「エプロンつけて言うセリフじゃないですね?」

「エプロンを付けねば城の上に船を落とすぞと脅したではないか!そんな事をして我が王妃に何かあったらどうするのだ!」


 本当に王妃様好きだなこの人。

 とユーリィは思った。


 古代船まで戻るのに4日。

 そこから、古代船にアストレアが魔力を通し、ゴリ押しで浮遊システムを起動させて王都まで飛んで数時間(このとき王都は結構な騒ぎになったが、それは割愛する)。

 王都の外れに船を下ろし、王様を拉致するまでにそこまで時間はかからなかった。


 というわけで、現状キッチンの中にいるのは、無理矢理エプロンをさせられたアシュリー王。

 メイド服に戻ったアストレア。

 料理人服のユーリィ。

 なんともシュールな光景であった。


「それで?オレに何を作れというのだ、料理などできんぞ」

「陛下にやっていただくのは……料理というか、デコレーションと言うか」

「デコレーション……?」

「陛下には、クッキーの飾り付けをしていただきます」

「飾り付け」

「ここに、古代の砂糖インクのペンがあるので、絵を描いてください」

「絵」


 言葉を繰り返す機械みたいになっている王様に向かって、重々しくユーリィは頷いた。 

 すでに焼き上げてあるクッキーの包みを取り出して、一枚一枚を王様の前に置いた皿の上に並べる。


「失敗してもいいです。描いてください」

「う、む………勇者よ、だが……」

「……お城を落としちゃいますよ〜?」

「聖女!えげつないぞ!聖女ではなく魔女ではないか!」


 文句を言いながらも、王は絵を描き始めた。

 一筆一筆、下手くそながらに気持ちを込めて、真面目な顔で。

 それはものすっごく下手くそな猫だったり、うさぎだったりしたが、後にそれを見た王妃の笑いを誘ったらしい。




 描き上げたクッキーを、彼はすぐに王妃のところへ持っていった。

 古代船はお城の直ぐ後ろに下ろしてあったので、持っていくのにそう時間はかからなかった。

 まだ温かく、砂糖も乾ききっていないクッキーを見て、王妃はぱちりと瞬いた。


「まあ陛下、陛下がこれを?」

「……お前のために作ったのだ、……受け取って欲しい」

「まあ……。これは……ねずみですか?と、とても下手ですけれど!悪くは……」

「……猫だ」

「えっ。……では、こっちは、クマかしら?まあ、可愛く見えなくも……」

「……犬だ……」

「……っ、ふふ。」


 初めて、素直に笑った顔を見た、と王は後に語った。

 真っ直ぐな誠意と、愛情を示された王妃がなんと返したか、それは二人だけの話になるが。

 アシュリー王とクリスティーナ王妃は、日々のお茶会を共にするようになったらしい。


 本当に仲睦まじい王と王妃様で、と、民たちは今日も噂をしている。






「……なあ、レア」

「なあに?」

「そろそろこう……指輪とか贈っていい?」

 

 古代船の見張り台で、勇者は呟いた。膝枕をしてもらいながら。

 青い空、白い雲。

 聖女の膝の上は今日も花のような香りがする。


「今回の事で、二人がちょっと羨ましくなっちゃって。だから……ほら、料理人として収入が見込めるようになったらさ」

「うん」

「どうかな?って」

「……何が?」

「……なんでもないです」

「もう、拗ねないで、ユーリィ」


 ちゃんと分かってるよ。

 わたしも、ユーリィとそうできたらいいなって、思うから。


 聖女ははにかんでから、照れ隠しのように城の方をそっと眺めた。


 今日も、空は青い。

 風に混じって、城の方から来た淡い淡い紅茶と菓子の香りが、ふわりと二人の髪を揺らして抜けていった。

一段落しました!次回は、古代船でちょっとトラブルが起きる予定です、よろしくお願いします。

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